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魔母(2)

淫魔の顔をじっと見据えてから、ベッドに座って向き合ったまま抱き寄せる。

むにぃい。

「ウッ…」
胸と胸がこすれあい、抵抗する間も無く快感が流れ込む。乳房とは張りのある弾力と蕩ける様な柔らかさを
兼ね揃えた不思議な物だが、乳魔の物ともなるとそれは洒落にならない。そう覚悟は決めていたが、
予想以上の心地よさに呻き声が漏れてしまった。暖かいすべすべの脂肪の塊が吸い付く様に俺の胸板を撫でる。
正直言って今すぐ谷間に顔をうずめたい。
「私の胸、気に入ってくれたかしら?」
「まあまあだな。だが口の方はどうかな?」
こっちの反応をさも嬉しそうに見る淫魔から主導権を握る為に、素早く唇と唇を押し付けあう。
「ン…」
淫魔は目を閉じて俺の唇を味わっている。すぐに余裕をなくしてやる。

「ンンーッ」
舌を入れて、唾液を送り込む。相手の口内を緩急をつけて舌で弄り、蹂躙する。
淫魔が今度こそ驚きに目を大きくした。その隙を逃さずペースを上げて音が立つ程激しく攻める。
舌、歯茎、頬、唇。相手の攻撃をいなしつつ出し惜しみなく舌技を使う。
不利を悟ったのか淫魔の方から唇を離そうとする。俺もいきなり舌を疲労させるつもりは無いので逃がしてやる。
「ぷはっ…」
互いに息が荒い。だが顔を蒸気させているのは淫魔の方だ。
「お上手ねえ…坊や、サクランボのヘタを口の中で結べる?」
「淫魔もそんな事をやっているのか?」
「口淫魔は良く練習しているのよ。もっとも、私は人間だった頃からやっているけどね」
サラッと言った一言で、疑問が氷解した。さっきの違和感の原因だ。

こいつは生まれながらの淫魔ではなく、元は人間の女だったのだろう。それが淫魔に犯されて淫魔化したのだ。
よくある話だ。俺も元人間の淫魔を何匹も倒している。そういう後天性の淫魔は大なり小なり人間としての心が
残っており、先天性の淫魔と様々な違いが生じる。大抵の奴は人間としての自我が淫魔の本能に負け、
野獣の様なレイプマシーンになってしまうが、小数ながらそうならない連中も居る。ある女淫魔ハンターは理性が
なくなる前に自害したそうだし、淫魔の本能を神に祈り続ける事によって封印した聖女の存在も確認されている。
噂では淫魔化した挙句人間と淫魔の共存を訴える活動まで始めた奴も居るらしい。これは流石に疑わしいが。

「通りで妙に人間臭いと思ったぞ。だが情けをかけてもらえると思ったら大間違いだ」
「わかってるわよ。坊やは悪い淫魔を倒してくるぞーって勇ましく出発したんでしょ?黙って犯されたんじゃ
恥ずかしくて恥ずかしくて堪らなくなっちゃうわよね」
くすくすと笑う淫魔。こういうのは多分淫魔の本能と人間の自我が上手く共存しているタイプなんだろう。
元々淫魔らしい人間だったと言うべきか。

僅かなやるせなさを心の奥底にしまい、淫魔の肩を掴んで押し倒す。これ以上胸をくっつけあっているメリットは無い。
「あん、いきなりね」
淫魔を無視し、両足で体重をかけつつ両手を使って上半身を愛撫する。
色っぽく染まった頬と首を始めはゆっくりと、段々早く数回さする。
ワンテンポ置いて肩と鎖骨に移る。美しい形に見惚れず、別の場所の快感を引き立てる為に少し触るだけに留める。
脇を軽くくすぐって反撃を予防しておいてから、腕を軽くマッサージする感じで撫でておく。
次は腰と腹。地道に積み上げた快感が染み込む様に掌全体を使って穏やかに擦る。

「上手…だとは思うんだけれど」
先程よりやや興奮の度合いが高まっている淫魔が腕を使って半身を起こしてきた。
「坊や、なんだか冷たい…」
不満そうに唇を尖らせたその表情は妙に可愛らしく、腹が立った。
「なら暖房でも入れろ」
わざと的外れな事を言ってやる。予想通り、頬を膨らました。一々やる事が淫魔らしくない。
「違うわよ、坊やの態度が冷たいって言っているの。お互いを気持ちよくして悦ばそうとしているのに、坊やったら
まるで私を解体する肉か何かと思ってるみたい」
「当然だろう。お前をイカせてこの世から消し去るんだ。解体と言っても間違いじゃない。お前だって俺を餌として
食おうとしているんだからやっぱり解体じゃないか」
「それはそうだけれど、やっぱり愛のあるセックスの方が気持ち良いわよ?自分だけじゃなく相手にとってもね」
俺は目を合わせてギンッと睨みつける。怯えた様子は無く、困った顔になるだけなのが癇に障る。
「愛だと?ふざけた事を言うな。それともお前は俺を愛しているとでも言うのか?」
「ええ、勿論よ」
即答しやがった。
「好物に対する愛情か」
冷たい視線を投げてやったら、ますます困った顔になって両手を俺の首と頭の後ろに当ててきた。
「違うわよ。相手を気持ちよ〜くしてあげて、一緒に素敵なひとときを過ごす。体だけじゃなくて心も繋がって一つに
なる。素敵な事じゃない。確かにそれが食事にもなっているけど人間だって他の生き物を殺して食べているでしょ?」
「弱肉強食を持ち出すんだったらそれこそ愛なんて何処にも無いだろう」
いかにも悲しそうだった顔が、唐突に慈愛たっぷりの微笑みに戻る。後頭部を撫でてくる手が鬱陶しい。
「あるのよ。気持ちよくなってイキそうになっている顔。絶頂を懸命に我慢している顔。快感で思わず漏れちゃう声。
もっともっとって甘えてくる言葉。イッている時可愛く震える体。素直になって私を受け入れてくれる時の心。
満足しきってぐっすりおねんねしている様子…」
自分の言葉で興奮したのか、淫魔は声を弾ませて目を輝かせる。俺はどんどん冷めていく。
「全部、愛しくて堪らないわ。私が精一杯愛してあげて、坊やも私に甘えてくる。そうなって欲しいから、快楽の
底なし沼にゆっくりと引きずり込んであげたいのよ」
「戯言だ」
一言で切って捨てたが、苛つく笑顔が更に明るくなった。
「坊やにもわからせてあげる。私がどんなに坊やの事を愛しているか」

淫魔の腕が絡みつき、俺の頭を引き寄せてくる。同時にベッドに仰向けになり、重力を味方につけて俺ごと寝転がる。
しまったと思った時にはもう俺の顔面が胸の谷間に捕らえられていた。
次回からBF急加速!…かもしれない。

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