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魔母(1)

マスター、ビールをお願い…ああ、僕はちゃんと飲める年齢だよ。
ほら、身分証明書。とてもそんな歳には見えない?そうだろうねえ。でも偽造じゃないから安心して。
ングングング…プハー。うん、美味しい…
今の飲みっぷりを見て納得したの?そりゃ、これでも三十路に入ってるし…ううん、不老不死とかじゃないんだ。
ちゃんと歳は取ってるんだよ。ママ…じゃない、淫魔の女の人にこうされたんだ…もう3年くらい前になるかなあ。
聞きたいの?それならなにか奢ってくれないかな。さっきのビール一杯とか言ったら怒るよ。
好きなだけタダ!?マスター、そこまでして聞きたいの?
言っちゃ悪いと思うけど、こんなガラガラの店でそんな事やって大丈夫?僕以外誰も来てないけど…
お金には困っていないって。それならなんで酒場をやってるの?聞いちゃだめ?チェッ。
うん、じゃあ次はブラッディーマリーお願い。セロリスティックもつけてね。
ゴク…胡椒が足りてないよ。うん、これでよし。
それで、だ。僕の話だけど…言っとくけど、面白い保障は無いよ?まあ、出来るだけ面白く聞こえる様には話すよ。



俺はどこにでも居る淫魔ハンター…ではない。自分で言うのもなんだが、かなり高ランクのベテランだ。
イカせた淫魔の数は100を超える。勿論、雑魚淫魔や下級淫魔の数も多く含むが。
この業界はまともな訓練を受けていない新人や己の実力を過信した半人前が毎日の様に淘汰されていく。
不測の事態に巻き込まれたのだろう、と推測された行方不明の連中もゴマンと居る。大抵は二度と戻ってこない。
そんな中俺は正規の訓練を受け、身の丈にあった任務で経験を積み、人並み以上の才能と運を開花させていった。
流石に伝説とか英雄とか呼ばれたりはしないが、自他共に認める一流だ。
そんな俺に、今日もハンター協会から任務が下された。
割と辺鄙な場所にある宿泊街〜街道の沿いにある、大都市と大都市の間の繋ぎにしかならない様な街だ〜が
ゴーストタウンになっているのを旅商人が目撃したらしい。その商人は淫気に反応する魔除けを持っていて、それが
反応を示した途端すっ飛んで逃げ出したそうだ。
小さくても街を一つ食い尽くしてしまう様な淫魔となると、かなりレベルの高い淫魔だと思われる。
上級淫魔であってもおかしくない。俺は覚悟と出来るだけの準備をして、街に向かった。勿論、勝つつもりで。

「あら…やっと私好みの子が来てくれたわ。嬉しい」
それがそいつの第一声だった。
無人の宿の一室を殆ど占領する、明らかに外部から持ち込まれた豪華で大きなベッド。
そこに寝そべっていた女をじっくりと観察する。
尻の辺りまで波打ち伸びる紫の髪と大きくパッチリとした緑の瞳を見てから視線を体の方に下げる。
大柄な女だ。俺より身長が高いのが明らかで、大体180センチくらいだろうか。
紫色のネグリジェに包まれた体はいかにもいやらしい。寝巻きの上からも伺える絞られた腰、
大きいのに理想的な曲線を描く尻、芸術品の様な長くて細い腕と脚。そして何より目を引くのが何カップあるのか
想像したくない大きく丸い胸だ。体格を考慮しても大きすぎるそれは重力を無視して突き出ており、
両方合わせれば人の頭より大きい。それなのに少しも不恰好に見せず、黄金比の一部として存在しているのは
人外のみに許された美だった。
だが。

「…どうしたの?」
きょとんと首を傾げる仕草も、人間なら27、8歳程度に見えるその美貌も、
何よりその聞いただけで安心してしまいそうな甘く暖かい声も俺に猛烈な違和感を感じさせた。
「お前を倒しに来た」
試す様に宣言する。
「やっぱりそう?そんな勇敢な雰囲気を漂わせている子が一般人な訳無い物ね」
優しげに微笑むこいつはやはり淫魔だ。疑いの余地も無い。
なのにその雰囲気、その仕草、その表情。あのいやらしい体つきさえも今まで退治してきた淫魔とは全く違う
何かを感じさせた。もしここがゴーストタウンでなければ、そしてもしこいつが目に見える程の淫気を漂わせてなければ
俺はこいつを人間の美女か、あるいは女神と思っていたかも知れない。勿論女神なんて見た事無いが。

頭を振って雑念を追い払う。目の前のこいつは俺の倒すべき敵だ。それで十分だ。
「馴れ合うつもりは無いんでな。早速やらせてもらう」
「せっかちね。折角来たんだから話し相手になってくれても良いじゃない」
淫魔の言葉を無視して俺は服を脱ぐ。鍛え抜かれた肉体と自慢のペニスを露にする。
「無愛想。でもそういう子ほど、可愛がりがいがあるわ」
淫魔も優しげな微笑みのままネグリジェを脱ぐ。俺は気を引き締め心のガードを固めた。
淫魔の裸体は見るだけでも危険な兵器だ。特に上級淫魔ともなると、ストリップだけで一般人はおろか
新米ハンターをイかせてしまう事すらある。俺だって油断していたらタダでは済まないだろう。

いかにも触り心地が良さそうな白くて艶やかな肌がどんどん見えてくる。服と言う束縛から解き放たれた体が踊る様に
自らを見せつける。中でも目立つのはやはりあの大きな胸で、重量感たっぷりな外見の癖に美しい丸みを維持して
垂れ下がる事なくゆっくりと揺れ続ける。

ぽよん、ぽよん。

揺れる胸を見ているとそんな擬音が聞こえてくる気がした。実際はしている筈も無いのだが、妖艶な動きを目で
追っていると自然にそんな錯覚がしてくるのだ。最初は音だけだったそれはやがて囁く様な声になり、甘い言葉を
紡ぎだす。頭の中にそっと何かが入ってくる感覚が来た。

おいで、おいで。私の中で休んでごらん。抱っこしてあげるからいらっしゃい。

俺は落ち着いて精神的な障壁を築き、誘惑を弾き飛ばした。俺の心には何ら影響が及ばない。
「乳魔か…それも上級だな」
淫魔の目が僅かに大きくなる。相変わらず微笑みは浮かべたままだったが。
「あっさり見抜かれちゃったわ。流石にこれ一つで堕とせるとは思っていなかったけれど…」
「乳魔とのBFも何回も経験している。胸催眠など効きはしない…今度はこちらの番だ」
BF小説初挑戦。ちなみにタイトルは”ママ”と読みます。そのまんま。

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