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寝ている魔は起こすな。

 一人の若い男が、森の中で眠る無防備な美女の様子を窺っていた。
 男の年の頃は十代後半といったところだろうか。子どもではないが、大人の男とも呼べない顔立ちは緊張を湛えている。
 対する女のほうは、少なくとも人間の女ではないことはすぐに分かった。柔らかい下草に広がる長い黒髪から生える羊のような二本の角。先端がハートの形をした黒い尾。そして、真紅の扇情的な色合いの衣服と対照的な、一対の漆黒の翼が、彼女が魔の者であることを示していた。
 男は―――トーマは彼女を狩るためにここへやって来た。最近、彼の住む町では、若い男が眠っている間に外傷も無く死亡してしまうという事件が頻発していた。遺体は肌のハリや筋肉がめっきりと失われ、老衰に似た状態で発見されるのが特徴だった。調査に当たった当局は伝承にある淫魔による犠牲者と特徴が一致することを発見した。しかし、既にこの時代では伝承にあるからといって断じてしまうほど、迷信はその勢力を失ってしまっていた。
 親友が被害者の一人に数えられてしまって、トーマは事件の調査に当たっていた兄の日記を盗み見た。そこに淫魔の仕業かもしれないという述懐を見て、いてもいられなくなった彼は独自に動き出した。
 様々な文献を調査している内に彼は淫魔の仕業だと確信した。淫魔の特徴や弱点も知った。曰く、夢に忍び込んで精を吸い取る存在であると。奴らは殴られたり斬り付けられてもまったく応えないと。消滅させるには、強い快感、特に絶頂をもって一気に魔力を奪うしかないということを知った。更に、肉体自体が熟達した娼婦の性技を凌ぐ代物で、並の人間ならば抱き締められるだけで虜にされてしまうほどであることも学んだ。
 その差を埋めるための備えも記述されていた。そして今。淫魔がこちらに気付いていない状況、それどころか眠っているという幸運な状況において、有利に事を運ぶ術を彼は有していた。
 そっと懐に手を入れ、緋色をした液体の入った薬瓶を取り出す。コツコツと積み立てて来た蓄えをほとんど吐き出して調合した対淫魔用の媚薬だ。粘りのあるローション状のそれは、緊張に震えるトーマの手にありながらも波を立たせず、静かに出番を待っているようだった。
 瓶の口を開け、足音を立てないように気を付けながら少しずつ忍び寄る。女の動きに変化は無い。段々と寝息が聞こえて来た。彼の心臓の拍も次第に早鐘に近付いて行く。
 女の傍らに辿り着き、緊張の余り無意識に喉を鳴らす。空いた手で反射的に喉元を押さえる。
(起こしてしまったか?)
 しかし、その心配は杞憂のようだった。葉を重ねて作った枕に乗せられた顔は、何か幸せな夢を見ているんじゃないかと思われるほど穏やかだ。
 近くで見ると、女の造作の美しさは想像以上だった。水をこぼしたように自然に広がり、時折吹く風にサラサラと靡く黒髪。長さと優美な曲線を備えた睫毛は、いかなる化粧を施しても敵わぬ天賦のものだろう。多少面長の顔に、小振りの鼻と薄い唇は凛とした雰囲気を感じさせる。もしこんな状況でなければ、トーマは飽きるまで眺めていたかった。
 だが、淫魔は夢の中で人間を食っている。そんな彼女が安らかに眠っている姿は、彼の怒りに油を注いだ。
 覚悟を決めて片膝を着き、刺激を与えないように丁寧な手つきで腰に巻かれた服を脱がす。
 控えめな陰毛と、しっとりとしたピンク色をしたヴァギナが露わになる。白く艶の良い肌と相乗して、楚々とした美しさが漂う。
 気を抜くと視線が吸い込まれそうだった。彼は一先ず視線を翼に移す。魔の象徴と思える漆黒を見ることで、気持ちを落ち着かせた。そして瓶を傾け、中の液体を右の手の平に絡める。懐に入れて暖めておいたためか、ひんやりとした感覚はない。
 これならば大丈夫と、今度は瓶を女の秘所に近づけた。敏感なクリトリスを避けるように、そのもう少し上、恥骨の辺りに垂らして行く。眠っていても微弱な魔力を放つ淫魔の肌と反応し、緋色だった液体が薄桃色に変化した。古文書の記述通りの変化に内心喝采を上げる。
 陰核を濡らし、その下にあるクレバスに流れ込み、僅かに差し込む陽光にぬめり光る様は酷くエロティックだった。扇情的な様に引き込まれないように気を張りながら状態を確認する。しっかりと行き渡ったのを確認すると、起きないでくれよと願いながら、ローションに濡れた右手の指で膣の入り口を解し始めた。
「んっ……。」
 ピクッ、と女は反応した。しかし、目を覚ます様子はなく、何事も無かったかのように眠り続けた。トーマは胸を撫で下ろしつつ、慎重に慎重を重ねて解し続ける。淫魔の寝息の間隔が、長く深くなっていくのが分かった。眠っていても快感を感じているようだ。心なしか全身が薄っすらと色付き始める。媚薬が効いているのだ。彼は古人の知恵に感謝しつつ、次のステップに移ることにした。
 愛撫する指はそのままに、左手でローションを追加する。そして、ゆっくり、ゆっくりと膣内に指を埋め込んで行く。淫魔自身の興奮によっても綻び始めていたためか、指はほとんど抵抗無く侵入していった。指の長さまで入り込んだあとは、同じくゆっくりと引き抜き始める。
 途端に抵抗を増す膣内。急な感触の変化に驚き、思わず顔を上げて淫魔の顔を確認した。しかし、今回もまた無用な心配だったようだ。服を押し上げ、見た目だけでも張りを感じさせる胸のふくらみは、先ほどまでと変わらぬペースで上下している。となれば、これは彼女の膣の構造としての抵抗なのだろうか。引き抜く動きを再開させると、指を舐める襞の感触がはっきりと感じられた。
 男の背筋に恐怖と快感が走り、指の動きを止めた。侵入者が出て行くのを拒むように絡む膣壁の熱さと、無数の締まりを一つ越える度に伝わる捩れは、ペニスを挿入したときの快感を想像させて余りある魔性を放っていた。
(ゆっくりとした動きだから感じてしまうか?でも、スピードを上げたら刺激の強さに目を覚ましてしまうかもしれない……。)
 淫魔の膣がここまでの感触を持つとは予想外だった。計画を建てている際、媚薬の効果を信じて手袋越しに愛撫しようという案も考えたが、快感が相手にとってダメージになるという性質上、繊細な動きが出来る素手の方が適切だと判断した。しかし、それは失敗だったかもしれないと戦慄とともに思い始めた。
 臨機応変に対処するために手袋は持参してある。しかし、それを使うためには一度この指を抜かなくてはならない。快感の余り声を挙げてしまわないように口元を押さえつつ、引き抜きを再開した。
「んんっ。」
 ゆっくりとだが確実にことは進み、もうすぐ抜けるというときに女が喘いだ。それとともに膣がキュウッとトーマの指を締め付ける。
「っ!」
 声を挙げるのは何とか我慢できた。だが、指が耐えられなかった。指から伝って来た疼痛に、反射的に腕を引いてしまった。空気が抜けるチュポッという音と共に、指が外気に触れてひんやりとした感覚に包まれる。今度こそ起こしてしまったかと心臓が高鳴り、媚薬の瓶を握り締める手に力が入った。
「ん〜……。」
 淫魔は居心地が悪そうにしながら、両手を胸の前に組み、両膝を立てて身体を丸めた。枕の具合を確認するように後頭部を擦り付け、翼が一つはためいて地面を軽く叩いた。それでも、トーマが危惧した目覚めは訪れなかった。しかし、この体勢ではさっきまでの愛撫は出来ない。
 彼の心臓の高鳴りは一向に静まる様子はなく、頬がはっきりと熱を持った。生唾を飲み込み、上せたような頭で考えを巡らす。
(一旦逃げるか?それとも、一気に勝負に出てしまうか?)
 自分は淫魔を甘く見過ぎていたのかもしれない。愛撫しているだけでこんなに気持ちが熱くなってしまうとは思わなかった。だが、こんなチャンスは再び巡って来るだろうか。相手が最初から起きていれば、自分の劣勢はこんなものじゃなかったはずだ。
 結論が出せなかったトーマは、女の様子を確認する。頬や吐息、秘所はそれぞれ興奮の証を示していた。頬には紅が差し、深い吐息は熱っぽい。秘所からはローションよりも粘度が高い愛液が零れ出している。
(あんな子ども騙しのような愛撫でこんなに感じているんだ。ここで逃げてしまえば、今度からは警戒されて見付けることすら難しくなる。)
 これまでの成果を感じ、彼は勝負に出ることにした。脱がずにコトを進められるように切れ目を入れておいた服から、既に硬く勃起していたペニスを露出させる。残っていた分の媚薬を棹に絡める。ヌルヌルした刺激はトーマにとっても快感だったが、相手を逝かせるにはこちらの方が良いと考えた。
 滑って手元が狂わないように右手のローションを念入りに拭く。そして、女の膝に手を掛けて左右に割り開くと、一気にペニスを挿入した。
 ようやく淫魔は目を覚ました。驚きに上半身を跳ね上げ、目を丸くして結合した部分とトーマの顔とを眺めた。
 トーマはというと、限界まで挿し込んだ姿勢から動けず、淫魔の様子に注意を払うことを一瞬忘れた。指を入れたときは抵抗無くスルスルと入って行ったというのに、指を引き抜いた時のような締まりと、はっきりと段になった襞の感触がペニスに襲い掛かったからだ。
 指とペニスでは径がまるで違うから、変化は十分に予想していた。しかし、その予想は簡単に超えられてしまった。これで腰を引いたら、一体どんな快感が襲って来るんだろうか。トーマは想像の中に生まれた快感に恐怖し、動くことができなかった。
 それでも淫魔が目覚めたことに気付き、相手がはっきりと状況を認識していない様子を見て、引き抜く動きを再開した。トーマの誤算は、このときの淫魔は不意打ちされていた驚きからは既に冷め、別のことに驚いていたのだ。不思議そうな表情はそのままに、女は膣を軽く締め付けた。
「あぅっ!」
 二人して快感の喘ぎを漏らす。共に予想外の快感のせいだったが、トーマにとっては不意打ちを受けたような驚きがそれに加味されていた。
 もう一度結合部を確認し、淫魔は自分が快感を受けている原因に思い至って目を丸くし、解けた謎のお粗末さに苦笑いを浮かべた。
「そうか、その薬のせいか。君のような坊やが使うには過ぎた物だよ、これは。」
 自分の鞘に勝手に刀を収めておいて、勝手に抜けなくなっている未熟者に呆れたように声をかける。
「お、お前を倒すために作ったんだよ!」
 初めて聞いた仇の声と、馬鹿にした口調に怒り、むきになって応えるトーマ。
「私を倒す?」
 彼の憎しみを感じて、女は心当たりのないとでも言う風に首を傾げる。
「とぼけるなっ……!」
 怒り心頭に発して叩きつけるような叫びは、ペニスが締め付けられる快感に遮られた。
「人の耳元で叫ばないでくれるかな。」
 トーマとは対照的に、淫魔は冷静だった。それどころか、浴びせられる激情を往なすことを楽しむ余裕さえあった。自分の身に走る快感が目の前の男の技量のせいではなく、媚薬によるものが大半であることと、この男が自分の力の足元にも及ばないことを知ったからだった。
「何もとぼけた覚えはないよ。人間に触れるのは随分と久しぶりだしね。どうやら私を誰かと勘違いしているようだね。」
「な、何?」
 この女以外に淫魔が自分の町にいると言うのか?疑念は残っているものの、予想外のことを告げられて緊張がわずかに緩む。淫魔はその隙を突いて、快感をこらえるために握り締められたトーマの両手を掴み、己の顔の方へと引っ張った。トーマは前のめりにバランスを崩される。反射的に着いた両の手が漆黒の翼にめり込み、ペニスが膣の中をより深く抉った。
「ああぁっ!」 
 張り詰めた肉棒が膣内を蠢く刺激に、怒りで麻痺していたトーマの性感が呼び覚まされた。更に淫魔は、逃げられないように両足を腰に絡めてしっかりと固定する。
「覚えておいてね。私の名前はエルトリア。勘違いなんかで消そうとしてくれた君には、相応の報いを受けてもらうよ。」
 小刻みに震える耳元に口を寄せ、抑揚を消して囁く。ドスの利いた声色を聞いたトーマの身体が一瞬強張り、ペニスがピクリと鎌首をもたげた。
「くっ!」
 たったそれだけの刺激にも、棹を伝って甘い痺れが全身に広がる。気を抜くと情けない声を出してしまいそうで、奥歯を噛み締めて耐えようとする。しかし、本人にとっては耐えているつもりでも、深く荒い吐息は隠せず、膣圧を押し返すペニスの硬さもまた分かりやすい指標だった。
「ほらほら、頑張りなさいな。あんまり簡単に逝っちゃったら、干乾びるまで搾り尽くしちゃうよ。」
 淫魔の挑発と脅しに、友人の悲惨な死体を思い出す。怒りと悔しさに歯軋りするトーマ。期待通りの反応を示してくれて頬を緩めるエル。もっと鳴かせてやろうと、自慢の名器を強く締め付ける。
「うぅっ!」
 締めるといっても、手で握り締めるとはわけが違う。膣壁全体が締まる感触は手に近いものだったが、その圧力に逆らうコシのある襞が、持ち主にも予測できない動きをして肉棒をなぶる。しかし、この行為が獲物に強烈な快感を与えることだけは確信していた。
 最早トーマは脚だけで簡単に押さえられていた。少しでも気を抜けば決壊してしまいそうなほど、今の一撃は急激に彼を高めた。それに耐えるために作った握りこぶしはもう動かせなくなっていた。
「今度は優しくしてあげる。こんなのはどうかな。」
 膣の圧迫感が緩む過程で、再び襞がペニスを舐める。先ほどまでの強い快感とは違う柔らかい感覚が、トーマの身体に入る力を吐息に換えて吐き出させていく。一度完全に緩めた後、エルは変幻自在なその膣を、今度はやわやわと肉棒を甘噛みさせるように蠕動させた。
「ふあ、ぁ……。」
 噛むというよりはなぞるといった方が正確だっただろうか。何もしなくても小刻みに震えているほどのペニスにとって、微弱な刺激は返って確実にトーマの我慢を削っていた。陰茎ごと心を舐めとかされるような感覚に襲われ、段々と何も考えられなくなってくる。
「ふふふ……。」
 エルの笑い声が、トーマにとってはどこか別の世界から聞こえてくる音のように感じられた。心臓はかつてないほど大きく響き、全身にぐっしょりとかいた汗で服が身体に張り付いてしまっている。項垂れて垂れ下がる髪に雫が伝い、エルの胸元へこぼれ落ちた。
(おかしいよ。なんだ、これ……。)
「気付いたみたいだね。」
 トーマが自身の昂りの不自然さに疑問を抱いたとき、その心を読んだかのようにエルは彼の疑問を肯定した。
「な、何をした?」
「ちょっとした魔法でね。君の媚薬を人間にも効くように作り変えさせてもらったよ。」
 エルの言葉に驚愕して、トーマは弾かれたように彼女の顔を見上げた。得意気にゆがむ口元が、今の言葉が真であると彼に告げているような気がした。
「だから、ね?仕方ないんだよ。君が逝っちゃうのは。」
 労わるような言葉と共に、そっとトーマの頬に手を当てる。そして、挑発的な笑みとは打って変わって慈しむような微笑みを浮かべるエル。
「あ、うぁ……。」
 トーマは絶望した。自分が必死になって準備してきたことが無駄だと否定されたのだ。更に、精神に入った亀裂にぬくもりを感じさせる言葉が染み込んで行く。エルはトーマの頭をそっと抱き寄せ、慈愛を浮かべた眼差しで彼の視界を埋めた。
「ほら、おいで……。」
 迎え入れる言葉と共に、トーマの拘束を解く。
 ちょっとした身じろぎでも射精してしまいそうな中、血の気が引くような冷たさを湛えた絶望を、エルと触れ合っている部分から伝わって来るぬくもりが温めていく。諦めることを自ら肯定してしまうような、温かい絶望がトーマを取り込もうとしていた。
 こぶしを作る力が緩み、彼の手の平がエルの翼の上に広がる。しかし、その肉感とぬめりを持った、地面とは明らかに違う感触がトーマを現実に引き戻した。
(だ、駄目だ!こんな悪魔の言うことに流されたら絶対駄目だ!)
 陶酔感に潤んでいた瞳をギュッと伏せるトーマ。目尻からこぼれる一筋の涙と入れ替わりに、心に力が戻って行く。その様子を見て感心したように嘆息するエル。
「へぇ。今のでも堕ちないなんてね?」
 見直したよと台詞を続けながら、子どもにするように頭を撫でる。トーマにとっては屈辱的な行いだったが、言うことを聞かなくなりそうな身体を押さえ込むのに精一杯で、甘んじてそれを受け入れる。
「いいよ。ご褒美にチャンスをあげる。私はこのまま動かないから、逃げてもいいよ。」
 破格の申し出が切り出された。純粋に意味を受け取るならばの話だが。トーマは驚きもしなかった。かえって不信を感じた。
「信じられないよね。けどさ、こんな何もしなくてもドクドクと先走りを出しちゃってるような君を相手に、私は動く必要なんてないよ。君が動くのを待てばいいんだからね。」
 事実、愛液を分泌したり体温を伝えるといった生理的なものに見える反応以外は、先ほどからエルの膣はトーマのペニスに対して何もしていない。
「どうする?このまま動かないでいたら、私の気が変わっちゃうかもしれないよ。逃げるなら今が一番確実だよ。」
 その事はトーマも考えていた。このまま動かないでいても、何かの拍子に精を漏らしてしまうかもしれない。そして、その何かを起こすことはこの淫魔にとっては造作もないことだ。
(そうだよ。逃げるなら今が確実だ。気まぐれな悪魔の言うことでも、さっきまでのように押さえつけられた格好よりは確実なはずだ。)
 逃げることを選択したトーマは、そのために両手を翼から下草に移し、ゆっくりと腰を引き始めた。彼は大切なことを一つ忘れていた。指でさえ喘がされた、引き抜くときにこそ際立つあの魔性の襞を。
 膣の一つの締まり、数字にして1cmにも満たない距離を越えたとき、敏感な亀頭のくびれを弾力ある襞が舐め上げた。その刺激が、遂にトーマから彼の肉体の支配権を奪った。射精する直前に起こる肉棒の膨張感がトーマに伝わる。
「うぁっ、ダメだっ!」
 焦燥に駆られた彼は愚かにも一気に腰を引いてしまった。それを待っていたかのように襞が何重にもペニスを舐め上げる。
「ッッ!」
 神経が焼き切れるような快感が背筋を伝って脳を直撃した。トーマは自分が射精をしていることに気付く余裕もなかった。言葉にならない呻き声を上げながら仰向けに倒れ、真っ白な精液を何度も盛大に吹き上げる。
 エルは自分に降りかかった白濁を気にする様子もなく、無様にも正気を失って絶頂を続け、己の精液で自分の身体を汚すトーマを眺めて悦に入る。
「あ〜あ、情けない。本当に何もしてないのに逝っちゃったね。」
 聞こえていないことを承知で、エルが言葉を紡ぐ。
「いいことを教えてあげる。さっき言った話は嘘。媚薬を作り変えるなんて器用な魔法、どこかにはあるのかもしれないけど、私には使えないよ。本当の媚薬は私の愛液や汗だったというのに、すっかり騙されちゃって。」
 トーマとて淫魔の体液の危険性を知らなかった訳ではない。だが、エルが眠っている間にも魔の芳香が若いトーマの劣情を刺激し続けたのと、目を覚ましたエルの手管によって奪われた体力が、座学でしか知らなかった知識を吹き飛ばしてしまっていたようだ。
「うぁ、ぁぁぁ……」
 十回ほど吹き上げた後にようやく噴水が止まる。それでもトーマは天を仰ぎながら痙攣し続ける。視線は空に向いてはいるが、森の木々や空を認識してはいないだろう。
 エルは震え続けるトーマの身体を抱き起こし、膝の上に載せた。翼を二度大きくはばたいて付着した草や葉を払い落とし、自分の身体ごとトーマを覆いくるんだ。
「今でも夢心地のようだね。いいよ、そのまま帰って来なくて。このまま本当の夢の中へ連れていってあげるから。」
 わずかな光しか射さない暗闇の中、哀れな獲物を抱き締めながら、エルはゆっくりと口付けを交わし、背中を撫でてやる。何度も背中を愛撫し、唇をついばんでいる内に痙攣は収まり、目蓋がゆっくりと閉じていく。
 エルの体温と優しい愛撫に包まれ、トーマは意識が戻らぬまま深い眠りの世界へ落ちて行った……。
 唐突に投稿。
 ココの文章が硬いとか、読みづらい・意味が掴みづらいなどの指摘がありましたらお願いします。

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