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『第55期対淫魔戦士養成学校卒業検定・首席卒業者の顛末』中編の5

「リッちゃんっ!」

 アイナの声が聞こえる。
多分、俺の名を呼んでいるのだろう。
俺の生涯でおそらく最高であっただろう絶頂の余韻が、俺の全身に深く重くまとわりつき、濃霧のように外界の情報を遮断する。
頭は貪欲にさきほどの快感を反芻し、新たな雑事の邪魔を拒む。
 俺の身体に何かやわらかいものが触れ、温かいものに包まれたような気がする。
アイナに抱きかかえられたのだろうか。
しかし、それを確認しようにも俺の意識は天国から帰ることができず、中空をフワフワとさまようばかりだった。

「ひどいよユリアちゃん! こんなになるまでするなんてっ!」

 アイナには珍しい、怒気を孕んだ声。

「これは私とリッツさんとの合意の上での勝負です。あなたの出る幕じゃありません」

 ユリアの声。その内容は聞き取れなくても、その冷ややかさだけは伝わってきた。

「それにしたってひどすぎるよっ! ムリヤリ好きって言わせちゃうまでヤるなんてっ!」

「……む、ムリヤリって、何の疑いも持たないんですのね」

 ユリアの声から冷静さが失われたような気がした。

「当たり前じゃない。そうでなきゃリッちゃんが私以外の女の子に好きだなんて言わないよ」

「っ……!」

 二人の声が途絶えた。
俺の上で一瞬火花が散ったような気がしたが、よく分からなかった。

「御自身の施した調教に、よほどの自信がおありのようですね」

「調教って……人聞きが悪いなぁっ」

「では洗脳とでも言い換えましょうか?
 餌付けを始めとした身の回りの世話から、悪い虫をさりげなく除ける方法まで、貴女の手管はこの3年間イヤと言うほど見せて頂きましたから。
 物心ついた時からずっとあんな風にされていたのなら、リッツさんはもう自分の家のタンスから靴下を見つけることもできないのでなくて?」

「や……やだな、そー言われると……照れちゃうよ」

「どこの誰が褒めてるんですかっ!」

 今、大声を上げたのは、アイナだろうかユリアだろうか。俺の意識はいよいよ混濁してきた。

「むー、献身って言ってよ献身って。好きな人に対してならとーぜんじゃない」

「献身? その言葉はリッツさんの立身を願う方に使って欲しいですね。
 少なくとも彼の将来を奪った人の言うセリフじゃないと思いますが」

「……っ!」

 また、火花が散った。
いったい何を話しているのか……

「……べっ、別に将来を奪ったわけじゃないもん。ずーっと一緒にいたかっただけだもん。
 別々のお仕事するのイヤだっただけだもん」

「それで戦士ですか。よく考えたものですね。リッツさんはきっとこう思ったでしょう。
 好きな女を感じさせてやれないのはイヤだと。かくなる上は俺も戦士になるしかないと」

「うんうん、やっぱしそう思ってくれたんだよね」

「喜ぶところですかっ!」

 よく大声が聞こえる。
二人とも大人しいほうだと思っていたんだが……俺の聞き違いだろうか憶え違いだろうか。

「……こうしてお話しするのは初めてですけど、意外と疲れる方でしたのね」

「うん。あたしももっと物静かな人だと思ってた」

「誰のせいですか」

 今のは聞こえた。ユリアが「誰のせいですか」と言ったんだ。
まぁ、前後の会話の流れはさっぱり分からんのだが……
ああ、もう意識が本格的に……

「とにかく! 本当ならリッツさんは歴史に残る名剣士となって、数多の野盗害獣を討ち倒してこの国を守り、皆の感謝と尊敬を集める英雄になるはずだったんです!
 それを貴女は……!」

「うー、リッちゃんは元々私を守るために剣を習ったんだよー。
 私がみんなの分感謝と尊敬するからそんな人にならなくていいよー」

「……貴女、一応訊いておきますけど、戦士になったら世のため人のために淫魔と戦うんだって気概、ありますよね?」

「あるよ?」

「ならいいんですけど……」

 俺の意識はそろそろ限界を迎えようとしていた。
きっと二人の会話も限界を迎えようとしているのではないだろうか。そんな気がした。

「それに、ユリアちゃんだって別にリッちゃんにそんな人になってもらいたかったワケじゃないでしょ?
 ただ自分の特殊なせーてきしこーを満たして欲しかっただけで……」

「……なっ!?」

「それなのにそんなふうに言うの、あんまり気分良くないなぁ」

「なななんですかわたくしの特殊な性的嗜好って」

「隠さなくてもいーよ? ユリアちゃん、3年前の試合の時にさ」

「わわわわわわわっ!」

 おそらく、ユリアの悲鳴。
それが、もはや消えそうな俺の意識に、ほんの数秒のロスタイムを与えた。

「とっ……とにかくっ! リッツさんは戦士にはなれませんから。
 卒業試験の日、お集まりの皆様の前で徹底的に責めて嬲って、二度と戦士を目指そうなどと言う気が起きないようにしてさしあげます!」

「べーだっ! リッちゃんは負けないもんねっ! あたしがついてるんだもんっ!」

 火花が散った。
それが、今夜の俺が最後に見た光景になった。

「……それに、留年して欲しくないんだよねー。ほら、いるでしょ? いっこ下に……」

「……ああ、あの妙にリッツさんに懐いてる……」

 二人の話はまだ続いているようだったが、俺の意識はそこまでだった。



「……おはよう、リッちゃん」

 気がつくと、俺の上には見慣れたいつもの天井があった。

「……おは…よう?」

「身体大丈夫? 寒気がしたり熱っぽかったりしない?」

 そして、アイナが俺の顔を覗き込んでいる。

「あ……大丈夫だ」

 俺は身体を起こそうとした。
その瞬間、身体の芯までずっしりと気だるさがのしかかってきた。
ふらり、と揺れた俺の状態をアイナが抱きとめる。

「あ、ムリしちゃダメだよ? 夕べはかなり徹底的にヤられちゃってるから……」

「ゆうべ?」

 その瞬間、俺の脳裏に昨夜の出来事が鮮明に甦った。
そうだ、俺はユリアに心技体全てを完膚なきまでに叩きのめされて、
そして、アイナの目の前で、ユリアめがけ……

「うわぁっ!」

 俺はたまらず手で顔を覆ってうずくまった。
とてもアイナと顔を合わせる気にならなかった。

「リッちゃん……」

 アイナの手が俺の身体を優しく撫でる。
「大丈夫だよ。私がついてるから。絶対にリッちゃんをユリアちゃんに勝たせてあげる」

「ムリだぜ、そんなの…… ユリアのやつ、強すぎるよ……」

「ムリじゃないよ! あたしもがんばるから、リッちゃんもがんばろう? ね?」

「ムリだっ!」

 昨夜のユリアの絶望的な強さを思い出す。
俺は、指一本動かさないユリアに返り討ちにあった。
パンツも脱いでいないヒップに為す術も無く昇天させられた。
そして……身体ばかりか心まで犯し尽くされたのだ。

「ムリだっ! お前はユリアより強くなれるのかよ! どうなんだ!」

「うっ…… そ、それは、だからあたしもがんばるって」

「どうがんばるって言うんだ!? 試合はもう来週だぞ! たった6日で何ができるんだよ!?」

「だいじょうぶっ!」

 悲鳴のように金切り声を上げる俺の言葉を、アイナの力強い声が遮った。

「よーしっ、リッちゃん。あたしがどうがんばるのか見せてあげるね」

 そういうと、アイナは俺の上から跳び降りて、ハダカのまま風呂場の方へ消えていった。
俺があっけにとられていると、しばらくしてアイナが戻ってきた。
別に風呂から何か持ってきたというわけでもない。行ったときと同じハダカのままだ。

「よーし、いくよリッちゃん」

 アイナは気合を入れて俺の股間に屈みこんだ

「え? え? え?」

 突然の展開にまだ頭がついていかない。
アイナは自信たっぷりに笑うと、俺のペニスを握って、その先っぽを自分の右の乳房に押し付けた。

むにゅっ……
「うおおっ!?」

 とろけるような感触と同時に、異様な感覚が俺のペニスを襲った。
冷たい!
 アイナのおっぱいは、氷のように冷たかった。その冷たい乳肉に、アイナはぐりぐりと俺のペニスを埋め、抉り回す。
未知の刺激にすっかり鋭敏になったペニスを、ボリュームたっぷりの柔肉が嬲っていく。たまったものではなかった。

「あ、あ、あーっ!」

 ビクビクとペニスが痙攣して限界を知らせると、アイナはすばやく右の乳房から左の乳房へとペニスをパスした。

「くぅぅぅぅぅーっ!」

 俺はまたも悶絶した。アイナの左のおっぱいは火のように熱かった。縮み上がったペニス表面の細胞がいっせいにその感覚受容器を開いていく。俺のペニスはアイナのおっぱいにまさしく溶かされていった。

 どぴゅっ、どびゅっ、どびゅうっ!!

 アイナが俺の股間に屈みこんでから、10秒と経っていただろうか。
俺はユリアのヒップから受けたそれよりも、はるかに上をゆく快感を繰り出すアイナのおっぱいの前に、ひとたまりもなく気を失った。



「どうだった?」

「……すげぇ」

 それ以上の感想は出なかった。どんな言葉も色あせるほどの快感だった。

「これ、確か学科で習った技だろう? 伝説の女戦士が淫魔伯爵を倒したっていう……」

「うん、そうだよ。自分の体温を調節して、片方のおっぱいの温度をもう片方のおっぱいに移して、あったかいおっぱいと冷たいおっぱいでかわりばんこにぐりぐりするの。んで、最後は両方のおっぱいで挟んで、あったかいのと冷たいのとで同時攻撃してトドメをさしちゃう」

「そんな、トドメの同時攻撃までなんてとても持たねーよ。マジで凄かった」

 普通、絶頂と同時に失神させるためには、絶頂をさんざんじらして快感をためこまなければならない。
一瞬で射精させ、失神させてしまうなど、並大抵の攻撃力では不可能なのだ。
その不可能をあっさりと成立させてしまう伝説の奥義。まさか、アイナがその技の使い手とは……

「いける。これならお前、ユリアより強いぜ!」

「えへへー、ありがとう。でも、そんなことないんだよ。ズルしちゃってるの」

「ズル?」

「うん。体温の調節なんてやっぱりムリだからさ、お風呂場でね、お湯とお水使って」

「あ……なんだ」

「ふふっ、試合じゃ反則になっちゃうけどね。でも、これで分かってもらえたでしょ? あたしだって練習だったら、ユリアちゃんより気持ちいいことできるんだよ?」

「……」

 心の底から嬉しそうな笑顔のアイナ。
俺は昨夜から醜態をさらしっぱなしだというのに。
普通なら愛想をつかされてもおかしくないのに。
それでも、アイナは俺のために……
アイナの右の乳房は、冷たさで鳥肌が立っていた。

「アイナ、ありがとな」

 俺はアイナのおっぱいを手のひらで包みながら言った。

「約束する。俺、ユリアに勝って、お前と一緒に卒業するよ」

「うんっ!」

 アイナは満面の笑顔でうなづいた。

「じゃ、さっそく特訓、特訓、特訓だよっ! ちょっと待ってて。準備しなおしてくるから」

「え……」

 アイナは勇んで風呂場に駆けていった。



 その日、俺はアイナの乳房に、少なくとも50ccの精液をぶちまけた。

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