あれから千年以上の月日が流れた。自然豊かでだった大和には木や鉄で骨組みされた住
居が所狭しと立ち並び、大和も日本と呼び方が変わっていた。帝の権力はどんどんと衰え、
成り代わって国を支配していた武士ももはやいなくなってしまった。江戸時代に統一され
た国家が次の相手に選んだのは他国。しかし日本人は自分たちの矮小さを知らなさすぎた。
資源も人手も他国に比べて少なすぎた日本は同盟国に助けられながらも結局は敗戦。独立
国家を主張しようが、今やアメリカの言いなりである。
荘助たちのいでたちも現代に合わせたものに変わり、彼らはこの日本最大の都市にある
廃ビルの前にたっていた。
「ここだな。」
何度も感じた懐かしい気配がこの建物の中からする。しかし何か違和感を感じる。
「そうですね。そしておそらく…」
浜路も頷いて奥を見据える。
「ああ、奴も既にいるはずだ。そして今回が最後の戦いになるだろう。」
千年余りの時が彼に人では決して得ることが出来ないレベルの力を与えている。おそらく
あの始まりの時の相手と同等だろう。信乃の魂と共に転生するヤマの力はそう高まっては
いないはずである。それに秘策もある、勝機は見えていた。
中に入り込み、導かれるようにある部屋にたどり着いた。間違いなくここに信乃の生ま
れ変わりはいるだろう。警戒をしながらも迷うことなく扉を開いた。埃で汚れているが逆
光でシルエットしか見えない。しかし人影は1つしかなかった。
「待ってたよ、荘助。」
聞き覚えのある声、口調。光に慣れてきた荘助の目に映ったのは見覚えのある笑顔だった。
「信乃…なんで…」
千年前と変わらぬ笑顔。間違いなく荘助たちの目の前に立っているのは信乃だった。
「先祖返り。あれから108代の年月が流れて再びボクに近い魂が転生したんだ。物心ついた
頃に、ボクの記憶も戻った。でもね荘助の知っているボクとは違うところもあるんだよ?」
そう言いながら信乃はカッターシャツのボタンをゆっくりと外していく。
「お…おい、信乃!」
何をしようとしているのかわからず荘助は戸惑った。
「付けられた名前も偶然信乃だったけど、あの頃のボクとはまったく違うところがあった
んだ。それはね、」
ボタンをすべて外して信乃はシャツを脱ぎ捨てた。
「ボクは、女の子になってしまってたんだ。」
言われなくても荘助の目に映る形のいいふくよかな胸でわかっていた。けどそれがどうし
たというのだろうか。魂に性別があるわけではない。今までずっと男として生まれてきて
いたのがおかしいほどだ。
「ねえ、荘助。ボクって…綺麗かな。」
ゆっくりと信乃が近づいてくる。何かがおかしい。しかし絆ともいえる直感は彼女が本物
の信乃だといっている。近づいてくる信乃に思わず後ずさりをしようとしてようやく荘助
は自分の体が動かなくなっていることに気付いた。
「な…」
驚愕の声を上げる荘助を無視するかのように信乃はそのまま荘助を通り過ぎて浜路の前に
立った。
「浜路。」
信乃の呼びかけに浜路は頬を染めながら瞳を閉じた。
「どうぞ、信乃様。」
浜路の答えににこりと微笑むと、信乃は浜路にキスをした。浜路の体はその瞬間びくつき、
そのまま崩れていった。それを冷たく見下ろしながら信乃は何かを飲み干した。
「ご苦労だったの。」
社交辞令のような信乃の言葉に荘助は食いついた。
「お前…ヤマか!」
荘助の問いに信乃はにやりと口をゆがめた。
「そう。ボクは信乃であってヤマでもある。千年の間の転生のたびに深まった魂の繋がり
は最後に信乃とヤマを1つにしたんだ。」
信乃は決して見せなかった残忍な笑顔。それは間違いなくヤマの表情だった。
「昔話をしてあげるね。むかしむかし。ボクたち人間が生まれて間もない頃。1人の神様が
いました。神様は夜を支配する存在で、また生死を司る存在でもありました。」
おそらくヤマのことだろう。
「神様の仕事は人々を導くこと。生まれて間もない人間にまぐわうことの楽しさを教え、
人間の数を増やすことでした。程なくしてそんな神様を崇める国が生まれました。神様の
代弁者となる巫女のおかげで人間の数は瞬く間に増えていき、もう神様が直接手を加える
必要がなくなりました。退屈になった神様はある山にこもる様になり、時折その山に迷い
込んだ人間を悪戯心で襲い、退屈をしのぎました。そのうち、都が京に移り、その山の麓
に街道が出来ました。丁度旧都と京の間にあった山の麓にはいつしか休憩所が出来、宿場
が出来、市が行われるようになって村になり、町が出来ました。」
荘助や浜路の生まれた町である。意図を読み取れず、荘助は黙って聞いていた。
「その頃の神様は、もうただ迷い込む人間を待つことに飽きていました。街道が出来たお
かげで迷い込む人間が減ったのも原因の1つだったのでしょう。そうして神様は妖魔と呼ば
れる卑しい生き物にまぎれてより良い魂を求めて人を襲うようになりました。人を襲い出
せばそれを退治するためにより強い魂を持った人間がやってくる。それを狩れば更に強い
者…しかしそのうち限界が来ました。ある程度のレベルに達した時点でそれ以上強い魂を
持つものが派遣されることがなくなってしまったのです。また神様は退屈をもてあますよ
うになりました。もうそれなりの魂では物足りない。もっといい魂がほしい。そう思うよ
うになってしまいました。」
それはもう神なんてものじゃない。荘助はそう思った。
「再び山に篭った神様。そのうちに麓の町に派遣されたのはまだそれほど強くはないが、
稀に見る純粋な魂を持った若者だった。すぐにでも頂いてしまおうかと思った神様。しか
しいくら純粋でもそれだけでは味気ない。しばらく様子を見ていると、その若者は麓の町
で生まれた修験者と仲良くなり、共に生活するようになった。その修験者も中々の魂。し
かしやはりまだ物足りない。」
この2人というのは荘助と信乃のことだろう。それほど前から目を付けられていた事実に荘
助は驚いた。
「しばらく観察していたが成長にも限度があった。観察するのにも飽きてきた神様はそろ
そろ頂こうかと山を下りようとし、ある事を思いついた。生死に縛られて限度がある魂な
らばその肉体を死から解放してやればもっと強い魂になるのではないか。そして同時に司
りながらも自身では体験したことのない生という感覚、死という恐怖も同時に知りたくな
った。なら両方を味わえるようにしよう。意を決した神様は意気揚々と山を下り、町1番の
屋敷に向かいました。理由は簡単。神様は若者とその屋敷の娘の恋仲を知っていたからで
す。」
あの日の真相。そのふざけた目的に怒りが湧く。
「娘にだけ術をかけずにそれほど興味はないが神様は他の人間の魂をすべて食べました。
生き残らせた娘には既に他の術がかけられていましたが、娘はまだ気付いてはいません。
助けを求め、若者たちの元にやってきた娘を術で眠らせ、神様は若者の心を壊しました。
そして若者の味見をしながら娘にかけた術を発動させます。それはこれから輪廻を回る主
の代わりに力を蓄える術。程なく帰ってきた修験者の目の前で神様は若者に止めを刺し、
魂を自分と結びつけました。修験者を死から解放し、来る未来に想いを焦がれて。」
荘助にとってくだらない話。そんな理由で自分には永遠の命が与えられたのか。
「輪廻を繰り返し、魂がより深く繋がっていくうちに神様は生死という感覚を理解しまし
た。そして人間と言うもののすべてを理解した神様と若者の魂はついに1つになったのです。」
話は終わったらしい。
「で、その神様は今からどうしたいわけだ?」
鋭くにらみつけて荘助は信乃に尋ねた。
「生死を理解した神様ですがまだ恐怖というものがわかりません。人をはるかに超えた魂
の持ち主ならばそれを教えてくれるのではないかと期待しています。そしてそれと同時に、
その魂の味も…期待しています。」
再び信乃は冷たく微笑んだ。信乃の心はすっかりヤマと同化してしまっているようだ。
「そうか、残念だよ。信乃。」
話を聞きながら蓄えた波動で金縛りを打ち消す。
「ふうん、それくらいはできるようになったんだ。で、どうするの?ボクを殺すの?」
笑みを浮かべたまま信乃は尋ねた。信乃という存在を盾にしているのだ。
「ああ、解放してやるよ。信乃。」
少し寂しげにそう言うと、荘助は信乃に手を振り上げた。ヤマでもある信乃にとって避け
られないスピードではない。しかし避けようとはしない。余裕を見せているのだろう。手
を振り下ろして手を信乃の額に当てる。
「オン!」
声と共に放たれた波動によって信乃の体が軽く痺れる。
「お前の気の流れを狂わせた。もうお前は自由に波動を扱えない。」
そういいながら荘助は自身の服を脱ぎ捨てた。気を狂わせたといても元々彼女が纏ってい
る気の密度が強大なため、直接攻撃では届かない。そこで思いついた手段が『房中術』だ。
交わり、お互いの気を循環させ、そのうちに自分から放つ気の量を減らし、相手の気を激
減させる。
「ボクのこと、抱いてくれるんだ。」
嬉しそうに言ったのは信乃の言葉だろうか、それともヤマの言葉なのだろうか。彼女も自
らズボンを脱ぎ捨て、全裸になる。荘助のモノは怒りからか既にいきり立っている。強引
に押し倒すと何の前戯もなく信乃の秘部にモノを突き入れた。処女だったのであろう。途
中に壁の感触を感じたが、ヤマと同化しただけあって驚くほど潤っている。信乃の表情か
らも痛みのようなものは感じ取れない。これならいけると荘助はゆっくりと大きく突き入
れて信乃の体に気を放つ。初めは標準量。腰を引く時に信乃から気を吸い取る。これも標
準量だ。
「うん!あん!」
程なくして信乃の口から喘ぎ声が漏れ出す。処女の恐ろしい締め付けに集中を乱されそう
になりながらもゆっくり大きくピストンを繰り返し、徐々に自分から放つ気の量を減らし
ていく。
(これならいけそうだ…)
徐々に弱まりつつある体外の気に荘助は勝利を確信した。しかし、
「あん!はうん!……あは、あはは!」
喘ぎ声が途切れ、突然信乃は笑い始めた。
「房中術ね。確かにこれならボクの気を削ることは可能だと思うよ。でもね、」
そこで区切った信乃の体から元に戻るような量の気が噴出す。
「な!気の流れを乱したはず!なのになぜ!?」
「なぜ?あの程度の波動で本当にボクの気を乱せたと思ったの?甘すぎるよ。」
そう言いながら信乃は気を操って正常位の体勢だったものを騎乗位に変える。
「千年たってそれなりにはなったけどまだまだボクには及ばないね。でももう飽きちゃっ
た。もう千年も待つ気はしないしそろそろ終わらせてあげる。」
どこからともなく信乃は数枚の札を取り出した。すべての札に気をこめて放つと、札が美
しい女性の姿に変わっていく。抜群のプロポーションだが全員がふたなりだ。そして信乃
と繋がったままの荘助の体が空中に浮き上がる。
「ふふ、無重力乱交パーティだよ。みんなでいーっぱい気持ちよくしてあげるね。」
信乃の宣言に荘助は恐怖した。勝てない逃げなくては。しかし自由が利くはずの体はまっ
たく言うことを聞かない。それほど萎縮してしまっていた。
「…ごめんね。さよなら…」
小さく呟いた最後の信乃の言葉それがパーティの幕開けの合図となった。
『うひぃぃぃぃ!』
人通りの少ない廃ビルの周りに絶叫がこだまする。
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