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輪廻-承- 町娘、そして現代へ

 導かれるようにたどり着いた町。ここ数百年感じなかった確かなものを感じている。
(間違いない。この町に信乃の魂を持つ者がいる。)
荘助は荘念、浜路は浜と名乗り旅の僧と尼を装って町の中にいるはずの信乃の魂所持者を
探していた。神主と巫女でもよかったのだが、この時代仏道の人間を装ったほうが活動し
やすかった。遣唐使廃止寸前に流れ込んだ仏道がこの大和本来の神道を侵食し始めていた。
「あら、あなた方は…」
聞き覚えのある声に荘助と浜路は慌てて振り返った。そこにはまだ元服を越えたばかりで
あろう少年を連れた1人の女が立っている。少年の気配に荘助たちは更にぎょっとした。
(間違いない。)
荘助たちは直感で確信する。この少年が信乃の生まれ変わりだ。
「ま…摩耶(まや)ぁ、摩耶の知り合いなの?」
転生した魂。当然少年には信乃だったときの記憶はないであろう。あまりにもの喜びに見
つめすぎたため少年は連れている女にすがり付いた。女はその辺を歩く他の女と同じ粗末
な服を着ているが、見える素肌は白く透き通っている。その白さに顔を見つめ荘助は3度目
の驚きの表情を浮かべた。見覚えのある顔。不敵に微笑む冷たい目。
(ヤマ…)
自分たちに朽ちぬ体を与えたもの。信乃を死に追いやった原因。夜を統べる神。やはり信
乃の転生体と共にいたようである。
「信(しん)様、彼らは私の古い友人でございます。私を訪ねて来てくださったようなの
でお先に屋敷にお戻りいただいてもよろしいですか?」
摩耶と呼ばれているヤマの言葉に信という名の信乃の生まれ変わりはあからさまに不服そ
うな顔をした。
「ええ!今日は一緒に帰るって約束したじゃないか。」
むくれる信に摩耶は荘助たちに見せ付けるように信の頬に口づけをした。赤らめながら嬉
しそうな表情を信は浮かべた。
「すぐに帰りますからわがまま言わないでください。」
赤らんでいる信へ目線を合わせて頼む摩耶にしょうがないなぁと信は少し不服な顔を浮か
べたまま信は走り去っていった。
「ふん、俺たちがたどり着くまでにすっかり手篭めにしたようだな。」
荘助はそう言わずにいられなかった。自分の友の生まれ変わりが宿敵である女に懐きその
目には淡い恋の色が浮かんでいたからだ。
「ほほ、妾は何もしておらんぞえ?ただ幼い頃より傍にいてやっただけじゃ。」
余裕のある悦に浸った笑み。その笑みが気に入らない。
「でもずいぶん粗末な姿になったわね。この数百年で没落でもしたのかしら?」
そんなヤマに一矢報いようと浜路が皮肉を言う。
「ほう。お主あのときの小娘か。お主こそ数百年で気品さが抜けたの。やはり傍にいる男
が原因かえ?以前のお主は妾の手で弄ばれ可愛らしく鳴いておったのにのう。」
下賎な皮肉で返され、浜路は言葉を詰まらせた。
「ここに導かれたということはお主ら3人の繋がりは本物じゃったということになるか。面
白い。これは楽しめそうじゃ。」
荘助たちがどれほどの思いでこの数百年を生きてきたか知らぬようにまるで遊びのように
ヤマは言った。いや間違いなく彼女自身は遊びなのであろう。気の遠くなるような時間を
かけた遊び。しかしヤマ本人にしたらそれはそう長くないものなのだ。
「よい事を教えてやろう。信は先日元服を収めた。今日はその祝いを屋敷で行うぞえ。数
日前に精通した証も見かけたゆえ良い機会と思っておる。」
何の機会かはいうまでもない。
「信の屋敷はこの町1番のものじゃ。ほほ…楽しませてくれよ。」
言うだけ言ってヤマは人ごみに溶け込んでいった。この場で調伏してやりたいと思ってい
た2人だが数百年高まったはずの力にまだ歴然とした差を感じていた。今のままではまだ敵
わない。勝負は夜。それまでに何か方法を考えなければならない。
 屋敷に戻ったヤマは自分のことを心待ちにしているだろう信の元へ足を運んだ。
「信様、お入りしてよろしいでしょうか?」
普段のみやびな着物姿では不自然であったため町に合わせた服装と物腰。初めはしっくり
と来なかったのだが慣れてしまえばこういうものも良いとヤマは思っていた。こういう感
覚もあの荘助と名乗る男たちにかかわらなければ味わえなかっただろう。許可を得て障子
を開くと座っている状態のヤマに信は開くと同時に飛び込んできた。近づいてくる畳の足
音と気配で信の行動は読めていたが驚いてみせる。
「きゃ、信様。危のうございますよ?」
内心自分の口から『きゃ』なんて言葉が出ることに寒気がするが驚いた反応に信はご満悦
のようだ。中に入れと促す信に笑顔で答えると中に入り障子を閉じる。
「ねぇ、さっきの怖い顔の人たちは本当に摩耶の友達なの?」
信は部屋の中央で座るヤマの膝に座ると、もたれかかりながら尋ねた。この場に近くに教
育係がいれば間違いなく咎められることだ。しかしヤマが咎めないことを信は知っている
ので遠慮なく甘えてきている。
「えぇ、そうですよ。」
ふくよかなヤマの胸の谷間に後頭部を埋める信を撫でながら笑顔で答えた。
「嘘!だって摩耶あの人たちの顔を見た瞬間すごく怖い顔してたもん!」
しかし信はヤマの言葉を信用せず、立ち上がって振り返ると心配する表情を浮かべながら
ヤマの肩口を掴み尋ねる。実際ヤマがそんな目をしたのはほんの一瞬だったのだから中々
目敏い。さてどうするかと一瞬悩み言葉を詰まらせる。
「やっぱり怖い人なの?摩耶はあの人たちに脅されてるの?」
勝手な想像で信の心配する表情がどんどん悲観的になっていく。信の被害妄想じみた想像
を使えると判断したヤマは見えないように一瞬笑みを浮かべると辛そうな表情に変える。
「実は…あの方たちは妖なんです。」
ヤマの予想外の告白に信は目を白黒させた。
「あ…妖って…妖魔のことだよね?」
時代と共に数は減ってきたが未だに妖魔は人々に様々な被害を与えている。信もその名前
程度は聞いたことがあった。しかし確かに形相は悪かったが信の見た荘助たちの感想はそ
こまで悪くはなかったのだが…。
「今からする話は他の誰にもしないでくださいね。」
悲痛な表情を浮かべて言うヤマに信は真剣な面持ちになり1度うなづいた。
「実は私は彼らのせいで何百年も死ねない体にされてしまっているのです。私がこんな体
になる以前、私には恋人がいました。名前を信乃といいます。あの2人は私を死ねない体に
し、戯れるように目の前で私の恋人を殺して姿を消しました。何度も死のうと思いました
が彼らのかけた呪いがその死すらも許してくれず、気が遠くなるような時間の中私を生か
し続けました。」
ヤマの話を頭から信じているのだろう。そのつらい話に信の目には涙が浮かんでいる。
「そうして生きる気力をなくした私は偶然この町にたどり着きまだ生まれたばかりの信様、
あなたと出会いました。」
悲痛だったヤマの表情に少し喜びが混じる。
「まだ赤子でしたが一目見てわかりました。この子は信乃様の生まれ変わりなのだと。数
百年私の中から消えていた生きる気力が蘇るのを感じました。必死に信様のお傍に置いて
いただけるよう旦那様たちに頼みました。お優しい旦那様は私の必死さに優しく了承して
くださったのです。」
はにかむ様な表情で心底うれしそうにヤマは言った。
「私は誓いました。もう2度と信乃様…いえ信様の傍から離れないと。例え信様が他の方を
愛そうともお傍に仕えようと…」
慈愛に満ちた笑みでそう言うとヤマは信を抱きしめた。
「摩耶は…その信乃さんを心から愛していたんだね。」
「はい。」
「じゃあ僕の傍にいるのは僕がその信乃さんの生まれ変わりだからなの?」
ヤマの抱擁から逃れて訴えるように見つめる。
「いえ、確かにお傍にお付きしたときはそうでしたが今は…」
「今は?」
言葉を濁らせるヤマに信は詰め寄る。
「今は…信様を…信様のすべてをお慕いもうしています。」
恥ずかしそうに視線をそらし、赤らめながらヤマは言った。話しすべてが嘘で、動作すべ
てが演技だと言うことを知らない信は喜び、はにかみ、照れたのち自分も視線をそらし、
「僕も…摩耶が好きだ。ずっと傍にいてくれ。」
とひた隠しにしていた思いを告げた。といってもヤマはそのことに気付いていた。いや、
そう思わせるように仕向けていた。
「ああ、信様!」
想いを抑えきれなくなったふりをして再び抱きしめるとヤマは信に口づけをした。舌で愛
撫するものではなくただ口を合わせただけの口づけ。しかしまだ元服を収めたばかりの少
年には十分すぎる刺激でしばらくして口を離すとすっかりと惚けた表情になっていた。口
づけだけで興奮したのであろう。着物の上から信のモノがそそり立っている。
「あら。」
「あ…。」
それを見つめる視線に気付いて信が恥ずかしそうな声を出す。このまま精を食してしまお
うかという考えがヤマの頭によぎるが、このまま終わらせるのも面白くない。
「ふふ、もうすっかり信様も大人ですね。ですがもうすぐ宴が始まりますわ。続きは…ふ
ふ。終わってからで…」
そう言うとヤマは信の頬に口づけをし、「失礼します」と部屋を去っていった。
 この町で一番の財を持つ信の父。その宴も豪勢で様々な地方から集められた美味・珍味
で来賓者たちはもてなされていた。僧を装い祝言をと屋敷に入ろうとした荘助たちだが、
門番の使用人に留められあえなく失敗した。仕方なく辺りが静まり返るのを待って念のた
め荘助1人で屋敷内の侵入に試みた。今のところ見つかっている気配はない。庭園に身を潜
め、信の部屋を探る。
(あの女…)
使用人の詰め部屋と思われる部屋からヤマが出てきた。恐らく信の部屋に向かうつもりな
のだろう。後をつけようかと思うが気付かれるとまずい。幸い隠れている場所から見える
部屋にヤマは入っていった。
(ほほ、男1人で来たか。)
ヤマは屋敷に侵入した時点で荘助の存在に気付いていた。だからこそそれに合わせて行動
に出たのだ。
「摩耶…」
頬を赤らめたまま期待と不安の混じった表情で信はヤマを見つめた。不安のほうが強いの
だろう。見つめるだけでいつものようにすり寄ってこない。
パサ…
そんな信に見せつけるようにヤマは服を脱ぐと眼力を信に送り込んだ。目が合った瞬間に
信の体はびくつき、全身に煮えたぎるようなむず痒い感覚が生まれる。
「信様、お待たせしました。」
素早く寄り添うとヤマは服の上から的確に信の乳首を捻り上げた。
「あふぅん!」
まるで初めてとは思えない懐かしいような求めていた快感に信は女のような喘ぎ声を上げ
た。
「可愛い声…もっとこの摩耶にその声をお聞かせください…」
更に捻りを強くする。その度に信の口から快感の喘ぎ声が上がった。
 ヤマが部屋に入ってしばらくたった。恐らくもうあの悲劇が再開されているのだろう。
ヤマが入っていった部屋が信の部屋という確証はない。しかしこのまま待っていれば何も
出来ぬまま終わってしまうだろう。見張りたちの隙をついて荘助は一気に部屋まで駆け寄
り音を立てずに障子を開けて入りそのまま音を立てずに閉めた。
「ほほ、ようやく来たか。遅かったの。」
入ってきた荘助にヤマが声をかける。
「はぅん!あぁん!」
部屋に入ってくるものに見せつけるように障子のほうに足を向け、両膝を立てた状態で信
がヤマに跨られている。既に気をやりかけているのであろう。荘助に見られていることを
わかりながらも求めるように喘ぎ声を上げながら自ら腰を振り続けている。
「ダメぇ…また…出そうぅ!」
荘助のが見ているのに構わずより激しく腰を振り、自らを絶頂に促す。しかしヤマにモノ
の根元をきつく握られ、脈打つもモノからは何もでない。
「ふふ、いいんですか?人が見てますよ?」
もう何度もこうして押し留められているのであろう。信はつらそうに呻き声を上げた。
「いいの…もう全部出したい…出させて摩耶ぁ…」
再び自分を高めようと腰を振る信。すぐにでも体を引き剥がしたいと思う荘助だったが、
入った瞬間に金縛りをかけられ身動きが取れなくなっていた。
「いいですよ!出してください。摩耶が孕んでしまうくらいいっぱいの精を摩耶の中に!」
塞き止めていた手を解放し、促すようにヤマも腰を前後させる。数往復させるだけで信は
限界を越えた。
「うひぃ!出る!出るぅぅ!」
より激しく腰を突き出し、ヤマの膣に抑えられた精液も合わせて信は注ぎ込んだ。それは
数十秒にも及ぶ長い射精で、出し終えると同時に信は気を失ってしまった。
「ほほ、転生させて同じ魂から何度も女を知らぬ精を頂く…思った以上に良いものじゃな。」
気絶した男とする気は無いのか無造作に立ち上がると、ヤマは金縛りで動けない荘助の前
に立った。
「さて、お主はどうされたいのじゃ?この小僧のように快楽のきわみを味合わせてやろう
か?」
言いながら荘助の首筋を撫でる。しかしヤマへの怒りで頭がいっぱいな荘助にとってそれ
はただ怒りを煽るだけのものだった。
「ふざけるな…貴様の体がバラバラになるまで気を叩き込んでやる!」
体は動かないが、威嚇のように全身の気を吹き上がらせた。この数百年の修行で威力は落
ちるが眼力だけでも気を相手に放つことは出来るようになっている。全力の眼力をヤマに
放った。
「むぅ…こそばゆい風じゃのう。波動とはこう使うものじゃ。」
そよ風程度にしか通じていない荘助の眼力を返すかのようにヤマは軽く目を見開いた。そ
の瞬間身動きできない荘助の体に強烈な風というよりも重力のようなものがぶつかり、部
屋の外まで吹き飛ばした。
「ほほ、その程度ではまだまだ妾の足元にも及ばぬ。小僧ももう手遅れじゃ。」
その言葉と同時に金縛りが解放される。しかし先ほどのヤマの眼力を受けた際の破砕音で
屋敷の人間が集まりだしていた。
「この者が信様を!!」
いつのまにやらヤマは町娘の服を纏っている。
「くっ!」
退くしかない。荘助は仕方なく屋敷を去っていった。
 翌日、信の死が報じられたが、その町には既に荘助たちの姿はなかった。

 その後、荘助たちとヤマは様々な時代で何度もぶつかり合った。室町時代のヤマは信乃
の生まれ変わりの妻になっていた。戦国時代では母、江戸時代では姉と徐々につながりを
深くしていっている。
 そして、平成の世となった。荘助たちが不老不死になって千余年。荘助は直感的に悟っ
ていた。今回の戦いが最後であると。
もうすこし長く書くつもりだったのですが、
どうもこの設定ではバトル要素が組み込みにくく、
かといって中途半端にやめるのも癪だったので
次で完結させます。

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