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輪廻-起- 白い肌の女

※この話の登場人物はその時代らしい話のしかたはしません。出来るだけ努力はしますが、
 そういうのを調べながら書くのが面倒…いえ、調べながら書くとちょっと書く気が乗らないので。
 また歴史上であることないことを書きますが、そういった部分の指摘等は勘弁してください。
 書いてる本人がよくわかっています。時代劇や歴史好きには申し訳ございませんが、ご勘弁ください。



 時は平安中期。人々は夜な夜な現れる妖魔に怯え日々を暮らしていた。前時代の修験者
役小角によって組織された退魔士の集団と同時期に伝来した陰陽道を窮め、都を京に移し
てからは中務省によって陰陽寮として組織された陰陽師たちにより辛うじて平和は保たれ
ていたが、都から離れた土地はまだ妖魔によって支配された世界であった。
 都からは離れたとある町にいる犬塚信乃戍孝(いぬづかしのもりたか)と犬川荘助義任
(いぬかわそうすけよしとう)もそんな退魔士の2人だった。正確には信乃は都よりこの町
の守護に派遣された陰陽師で、荘助はこの町の神社で修行する修験者の退魔士だ。お互い
仕事はこの町を妖魔から守ること。本来同業者ということでいがみ合いそうな所なのだが、
都生まれの平和ボケしているかのような信乃の性格とあくまでマイペースな荘助の性格か
ら2人は妙に意気投合し、住むところがなかった信乃を自分の長屋に招いて信乃と荘助は一
緒に仕事するようになっていた。都から使いの陰陽師が信乃を訪れた時、
「辺鄙な町の仕事を1人でこなす事も出来ないのか?」
とあからさまな皮肉を言われたが、
「1人より2人のほうが楽に確実に仕事をこなせるからな。」
と答え、馬鹿にされたように笑われたこともあるが、信乃本人は特に気にした様子はない。
(逆に荘助が腹を立て殴りかかろうとしたが、幸い近くにいた数人の町人に抑えられ、使
いの陰陽師は野蛮な町だと吐き捨てて帰っていった。)2人が手を組み仕事を始めてからと
いうもの町は至って平和だ。おかげで町人たちにはいつも感謝され、行く道々で2人は物を
もらったりしている。
「し〜〜〜のさ〜〜ん!」
質素だが、いい生地の着物を着た少女が大手を振りながら走ってくる。都住まいだった信
乃の服もそれほど悪い生地ではないが彼女のものとらべものにはならない。荘助にいたっ
てはつぎはぎだらけだ。彼女の服1枚で信乃の服10着は買えるだろう。
「浜路(はまじ)〜!」
信乃が笑顔で手を振って答える。彼女はこの町の庄屋の1人娘だ。そこらの町人なら声をか
けるのも恐れ多いのだが、信乃は朝廷付きの陰陽師。荘助も都に認められている退魔士だ。
特に問題はない。というより高貴さを見せない浜路の物腰は町人も気軽に声をかけるほど
のものである。高貴といってもただの町庄屋だからといってしまえばそれまでだが。実は
信乃と浜路は浜路の両親には内緒で恋仲だったりする。内緒なのは両親だけなのだから他
の町人たちもそのことは知っているのだが、特に浜路の両親に密告のようなことをしよう
とする人間はいない。理由は色々あるが、まず町といっても村に毛が生えたようなもので
町人はお互い助け合って暮らしている中の義理があるからだ。そして1番の理由は2人が恋
仲といってもただ並んで座って楽しそうに会話する程度の実にうぶというか清楚な付き合
いだからである。2人は手が触れ合っただけで真っ赤になり、それを間近に見ている荘助は、
「その程度に赤くなってたら子を作ることなんて到底出来んぞ」
とげらげらからかっている。
 さて、仕事がなければ常に休みのようなもので1日のんびり暮らすが、深夜であろうが早
朝であろうが仕事が依頼されれば最優先にしなければならない。と言っても小さな町にそ
う度々妖魔の被害が出るはずがない。妖魔退治の依頼よりも対人の呪いからの護衛等の依
頼のほうが多い。前回の妖魔関係の仕事は1ヶ月ほど前に依頼された畑荒らしの河童退治で、
たいして被害があるわけでもなく臆病な河童だったため調伏はせずに今では胡瓜などの野
菜と効果がよいことで有名な河童の塗り薬の物々交換で共存している。
「このままじゃ飯を食う金もなくなるな。」
荘助はひっくり返しても埃しか堕ちない財布を見ながら苦笑した。実はもう1週間ほど仕事
をしていない。
「家賃もまだ払えていないし…信乃、浜路ちゃんを通してもう少し待って貰えるように頼
めないか?」
荘助の問いかけに信乃も苦笑する。
「無理ですよ。もうずいぶん待ってもらってるわけですし…」
それに浜路を通せば2人の関係がばれてしまいますと付け足す。一方浜路も、
「お父さん、お願いだから荘助さんたちの家賃もう少し待って?」
と頼まれるまでもなく父親に頼み込んでいた。
「しかしもう10日以上期限は過ぎてるしなぁ…」
可愛い一人娘の頼み。むげには出来ない父親は苦笑するしかなかった。
 夜まで浜路は説得を続けたものの、父は最後まで首を縦には振らなかった。そしてその
父がその日の帳簿をつけ終え床につこうとした時、突然部屋の灯りが消えた。
(風か?)
突然の暗闇に月明かり以外の光がない部屋の中を見渡す。しかし障子はすべてしまってい
る。隙間風も特に感じない。
「ほほ、町1番の大きな屋敷。主人はどれほどのものかと期待したのじゃが…やはりただの
老いた男だったか。」
突然部屋の真ん中から女性の声がする。慌てて振り向くと薄暗い部屋の中自ら光を放って
いるかのように白い肌をした女が立っていた。
「な…何者だ!」
答えなくても人間ではなさそうなことは彼にもわかっていた。しかし驚きをごまかすため
そして大声で人を呼び寄せるため彼は言わずにいられなかった。
「ほほ。大きな声を出そうが誰も来ぬわ。」
余裕を見せながら女がゆっくり彼に近づいていく。
「あ…妖か?」
助けが来ないと知り怯え後ずさる。
「さて、妾を楽しませてくれたら教えてやってもよいぞ?」
隅まで追い込み、目の前に立つとそう言って女は口づけで男の口を塞いで自らの身に纏っ
ていた服を脱ぎ捨てた。

「うぎゃーー!」
庄屋の断末魔が屋敷中に響き渡る。声に驚いた浜路は慌てて身を起こすと寝床から外に出
た。あれほど大きな声だったと言うのに屋敷内は静まり返っている。その異様さに一瞬夢
かと思った浜路だが、静か過ぎる屋敷も不自然だと確認するために父親の元へと向かった。
「お父様、浜路です。失礼します。」
嫌な予感でいっぱいの浜路は父の返事を待たずに障子を開き中の光景に絶句した。部屋の
中心で全裸でモノを孤立させたまま父が倒れている。そしてその父に跨り、浜路が開けた
障子から入る月明かりに股の間から零れる白い液体を輝かせた全裸の女がいる。その瞳は
魔性を秘めたように金色に光っていた。
「ほう、私の術から抜けてきおったか。」
予想外の登場人物に女は楽しそうな声を上げた。しかし浜路にはその声は聞こえていない。
虚ろな瞳で横たわる父。恐らくもう息はしていないだろう。そしてその父に跨っている女。
あの瞳、どう見ても人間ではない。
(怖い…誰か…信乃さん!)
恐怖から愛しい陰陽師の姿を思い出す。竦みそうな足は湧き出る恐怖で奮い立たせばまだ
動きそうだ。
「お主、名は…」
女が浜路の名を尋ね終える前に浜路は女から踵を返すと裸足のまま屋敷を飛び出していっ
た。
「ほほ…どこへ行くというのかね。」
そんな浜路を女はたいして焦る様子もなく追いかけていった。
新作のプロローグです。
エッチな部分がなく申し訳ございません。
今回の登場人物も元ネタとは一切関係ないです。

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