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エッチバトル戦争第15話「話」

夕刻も過ぎたころ、僕は山道を抜け、クラウ湖の休憩所に座っていた
テオナ達はまだ現れていない…
休憩所からは、よく湖が見える
実際にクラウ湖に来るのは初めてだが、かなり広い湖だ
夕日により、オレンジに輝く湖…
その真ん中に、ポツンとある島
あれが、口淫魔の本拠地、イージス島…
あそこに、アキもいるのか……
ついにここまで来た
僕は思わず拳を握る
もうすぐ始まる戦い、この戦いで僕は必ずアキを救い出す
そして、口淫魔も出来れば倒したいところだ
だが、今回は僕にとってはアキを助け出すことが最優先事項だ
手淫魔との契約も一時的なもの…この戦いが終われば、それもおしまいだ
待っててくれ、アキ……
「そんなに彼女のことが心配なのですか?」
「っ!」
突然後ろから声をかけられたため、僕の身は思わず固くなってしまった
振り向くと、テオナがいた
「突然後ろから声をかけないでくれ」
「うふふ、ごめんなさい」
テオナは丁度僕と木の机を挟んだ反対方向に座る
「…………」
それから少し、互いに無言になる
静寂と、夕闇に包まれた世界
僕は口を開いた
「アンタは…」
「?」
「アンタは、淫魔なんだろ?何故、僕のことを殺そうとしない?」
淫魔、それは人間を無差別で吸い尽くし、殺すものだと思っていた
自らの生きる糧とするために……
だが、何故だろう、この淫魔を見ていると
そんなことなど、微塵もする要素など見えない
「正直…私もあなたに会うまでは、ただの淫魔でしかなかったと思います」
「………え?」
彼女が饒舌になったので、僕は驚いて彼女の瞳を見る
「人間は敵、そう思い込んでいた」
「……」
「でも、あなたに会って…人間にも信用できる人がいるんだとわかったんです」
「僕を信用できる?どうして」
「だって、あなたが始めてなんだもの、私の話を聞いてくれたのって」
「………」
「今まで出会ってきた人間は、私達のことを見ると私達のことを倒そうと躍起になっていた」
「それは、アンタ達淫魔に僕ら人間は殺されたからだ」
「そうかもしれない…でも少なくとも私は、人を殺してなんていないわ」
「………それは」
「…………」
彼女も黙り込んでしまったため、僕も黙り込む
恐らく、この感情の豊富さは“極淫魔”という選ばれた淫魔から来るものだろう
通常の淫魔は、僕ら人間のことを見境いなく攻撃してくる
そこには、確かな違いがあった
「私達手淫魔は、もうあなた達人間とは戦わないわ」
「!」
「あなたみたいな人がいれば…人間と淫魔は共存できるんじゃないかって思うんだ」
「……この前も言ったはずだ、そんなに簡単に割り切ることなんか、できないって…」
「今はそれでもいい、ゆっくり、割り切れていけば……」
「…………」
僕は、確かに
淫魔との共存というのを、心の何処かで願っているのかもしれない
その証拠に、僕はここに来るまで様々な人間を裏切ってきた
そんなつもりはなくても、それらは確かに裏切りだった
だが、憎しみに憎しみをぶつけても、何の解決にもならない
割り切るということを、しなければ
この戦争はいつまで経っても終わらないのかもしれない
小さくてもいい、ここから初めてみるのもいいかもしれない
少なくとも、彼女とは共存できるような気がした




やがてしばらくして、チロを含めた数人の手淫魔の部隊が来た
作戦は至ってシンプル、夜襲による奇襲だ
イージス島には船で移動する以外にも、もう一つ秘密の抜け道のようなものがあるらしい
この休憩所の近くに大きな岩があり、それを動かすと海底通路への抜け道のようなものがあるとか
そこは丁度イージス島に繋がっており、そこから攻め込むことができる
口淫魔はどうやら進撃の際にはこの海底通路を使って移動しているようだ
船で行くよりは時間もコストもかからないから、という理由だろう
岩はすぐ見つかった、そんなに苦労もせずに動かせる
その下に続く、地下通路……
「ここからは容易には戻れません、覚悟はいいですか?」
テオナが僕に問い掛ける、迷うことなどない
僕は力強く頷いた
「それでは、行きましょうか…」
僕らはゆっくりと、海底通路への道を歩き出した





海底通路は、構造はいたってシンプルな一本通路だ
トンネルのような構造になっており、上はクリアなガラスになっている
そのおかげで、湖の様子がよくわかるようになっている
「しかし、こんな抜け道、よく調べたな」
感心したように言うと、テオナは少し笑いかけ
「チロのおかげですよ、彼女は情報収集にかけてはウチのチームでナンバー1です」
「ふーん」
「……簡単に流すな」
チロが少し怒った感じの視線を投げかけてきたので、慌てて目を逸らす
と、先頭を歩いていた手淫魔の一人の動きが止まった
「どうした?」
声をかけたが、原因はすぐに僕もわかった
「!」
「やはり、そう簡単には通してくれませんよね」
テオナはわかっていたように言う


「こんな夜更けに…こんなところを団体さんでどうしましたー?」


立ちはばかる女
金髪のショートヘアー、それなりにスラっとしている
見かけ的には、秀でた能力はなさそうだが……
チロは、軽く舌打ちする
「あの淫魔、マズいのか?」
チロは軽く頷き
「口淫魔の幹部、ラーナ…かなりの実力者だ、気をつけろ」
幹部、ということは上級淫魔か…
かなりの力を持ってそうだ
「そこを通しては…くれなさそうですね」
「それはそうですよー、私はここの門番なんですからねー」
なんか随分と語尾を延ばす淫魔だな…
すこしおとぼけな印象を受けるが、見かけに騙されるのが一番危険だ
今は作戦遂行中、あまり時間はない
「みんな、コイツ見た目あんまり素早くなさそうだから先に行ってくれ、僕が食い止める」
「うっ、なんかさり気なくひどいこと言ってないですかー?」
抗議されたが、構ってる時間はない
「…大丈夫ですか、スークさん?」
「安心してくれ、僕もアキを助け出す使命があるからな…こんなところでくたばるつもりはない」
僕の目を見て安心したのか、テオナはゆっくりと頷いた
「皆さん、ここはスークさんに任せて、先に進みますよ!」
テオナの号令と共に、僕とラーナを除くみんなが走り出す
「え、あ、ちょっと待って……」
ラーナは呼び止めたが、みんなそのまま突き進んで行った
「ひどい……」
残され、途方に暮れたように呟く
「まぁいいでしょう、可愛い男の子が残ってくれましたし、こっちの相手をする方が面白そうですー」
そう言うと彼女はすぐに僕に向かって構える
「悪いけど、この後更に強い敵が待ってるんだ…ここでやられるわけにはいかない」
「私は強い敵ではないと思ってるんですかー?それは間違いですよー?」
「…………」
1対1となったフィールド
この作戦、いよいよ本格的にスタートだ!






続く
2話分バトル一つもなくてゴメンナサイ
次回からたっぷりの予定なのでお楽しみにー

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