ロスト村、山間に作られたこの村はレジスタンス部隊で出来ている
僕のいた本部とは違う、各支部ごとのレジスタンス部隊…その一つなのだろう
話を聞くと、ここのレジスタンスは口淫魔勢力に対抗して作られたものだという
近くに本拠地となるイージス島があるから、か…
村人の数は少ない、少数精鋭なのだろうか
こういう山の中では、むしろ大所帯よりは良いのかもしれない
「しかしねぇ、こんなところまで旅に来るとは、近頃は危ないからあまり出歩かないほうがいいよ?」
人当たりの良さそうなおばさんが僕に向かって話かけてくる
時間は正午、どうやらあそこで倒れてからそんなに時間は立ってないらしい
「あ、いえ、僕は……」
言おうとして、口篭もる
ここでレジスタンスの一員ということを明かしてしまえば、本部に連絡が行く可能性がある
そうなるとアキを救うことは困難となってしまう、それは避けなければ
「ん、どうしたんだい?」
「……いえ、なんでもないんです」
「そうかい?」
何だか居心地が悪くなり、僕は茶の間で頂いていた昼飯もそこそこに立ち上がる
「少し、村の中を散歩してきていいですか?」
「構わないよ、ああ、そうだ…」
「?」
おばさんは僕に少し待つように言うと、奥の部屋へ行ってしまった
1分程して戻ってくる、おばさんはメモ用紙のような紙切れを持っていた
「あんたを助けてくれたレジスタンスの人がいるところ、行ってみるといいよ」
メモ用紙には簡単な地図のようなものがあった、×印されているところがあり、どうやらそこが助けてくれた人の家らしい
「ありがとうございます、行ってきます」
僕は軽く頭を下げ、そのメモ用紙を受け取った
もっとも、村の中はそこまで広くはないので、歩いて1分くらいで目的の家にたどり着いてしまった
「ここか…」
軽くドアをノックしてみる、しかし中から人が出てくる気配はない
「………………誰かいませんかー?」
声を出して読んでみる
「はーい、今ちょっと手が離せないんだ、裏手に回ってくれないか?」
「……」
反応のあった方、丁度家を挟んで反対側か……
そっちの方へ行ってみる
くるりと裏の方を覗いてみると、まだ若い女性がしゃがみこんで犬に餌を上げているという光景があった
僕に気づいたのか、女性が僕の方を見上げ、チョイチョイと手招きしてきた
僕はゆっくりとそっちに近づいていく、すると犬が警戒するようにウウウウウ……と鳴いた
「こら、ジョン、お前は少し散歩に行ってきなさい」
女性の言葉に犬はヒクリと反応し、何処かへと走り去っていった
犬の姿を目で見送っていたが、女性の方が声をかけてきた
「気がついた?正直見つけた時は手遅れかと思ったけどね」
女性はいたってぶっきらぼうな感じで僕に話しかけてくる、話しやすい相手だ
「正直、ダメかと思った」
「このご時世にあんなところで何やってんだい?楽に死ねる方法なら確かに淫魔に犯られるのが一番とは思うけど」
「まさか」
僕は肩をすくめた
女性は僕より少し年上…と思う、20代ぐらいだろう
長い黒髪なのだろうがそれを一つにまとめている
そして、何より気になったのは…
「……その服装」
そう、彼女の服装は他の村人とは明らかに違っていた
忍者のような格好……忍の服というやつだろうか
動きやすそうな衣を身に纏っている
「ああ、あたしの家系、忍をやっていてね…あたしもその中の一人なのさ」
「驚いたな、まさか助けてくれたのが女性だとは思わなかった」
「淫魔を倒すのは何も男の専売特許じゃないだろう?むしろ女の方が有利って時もある」
「それはそうだろうな……」
アキや他の女性レジスタンス部隊も僕はたくさん見てきた
その中で僕より実力が上の人ももちろんいた
というか、特訓時代は負けまくってた気がする……
おかしいな、アキには結構勝った記憶があるのに
「あんた、今日はどうするんだい?」
と、彼女が僕に話し掛けてきたので、思考を止める
「…もう少ししたら村を出るよ、助けてくれたことには礼を言う」
「……急ぎの用って感じだね、わかった、気をつけていくんだよ?」
「ああ……ありがとうな」
「また会えるといいね、あたしの名前はライ」
「ああ、またこの村にも来るよ、ライ、僕はスークだ」
「スーク…わかったよ」
最後に名前を言い合って別れるという変な感じだったが
僕とライはそれだけ言って別れた
スーク、ちょっといい奴だなとか思ってた
この村は同年代では女の友達しかいない
だからスークと話すのは少し新鮮だった
だからこそ夕刻、スークがいなくなった後この村に本部から来た命令書を見て
あたしは目を疑った
命令書には彼の顔写真と、下記の文――――
“レジスタンス部隊隊員スーク・グレイヴ
部隊の逃走者と認定、見つけたら直ちに捕縛せよ――
抵抗した場合は戦闘に持ち込み、これを行動不能にせよ”
続く
Please don't use this texts&images without permission of 一.