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【ギン×乱】※未完

三番隊の隊長市丸ギンは早くも退屈していた。
まだ午前中だというのに、しかも重役出勤してきたのに
つまらなそうに書類を弄んだり、貧乏揺すりをし始めた。
落ち着かない事この上ない。
イズルはまた胃から酸っぱいものがこみ上げてくる。
イライラしながら隊長に牽制の視線を送る(遠慮がちにだが)

「なーなーイズルー、あんたの自慢ってなに?」

「そんな事よりこの書類に判かサイン下さい!」

「答えんと押してやらん、サインもなしや」

おっとり、はんなり京言葉のアクセントで
いつも笑顔の市丸隊長がまた駄々をこねはじめた。
もっとも本気で笑ってる時と怒ってる時の顔が同じなのが
やっとイズルにもわかってきた。

「ぼ、僕は霊術院に主席で入学した事です」

彼としては控えめでも自信をもって絞り出した答えだったが

「ふ〜ん、つまらんねえ」

「何がですか!?」

「僕は入った時も出た時も主席や。そんなん当たり前や。
 イズルはん、主席で立派な成績で学校入りはったのに
 仕事は書類整理ばっかりやね〜かわいそ」

「誰のせいだと思ってるんですか!?」

「僕は零術院出てすぐ副隊長、今は隊長や
 イズルは万年副隊長や、お気の毒〜か〜わいそ」

「何か気に入らない事でもあるんですか!?」

イズルは涙目で抗議した。

「あるある、ぎょうさんある。むさい男ばっかの相手はもう嫌や。
 そや、乱菊が足らんのや!乱菊分が足らんのや、らんぎく〜今行くで〜」

「まってください!市丸隊長、せめて午前中は仕事してください!」

 窓から逃げ出そうとする市丸ギンにしがみついて
イズルはなんとか隊長の脱出を阻止せんと試みた。
しかしいつもの通り霊圧を瞬間的に爆発させてギンはイズルを振り飛ばした。

「どうしてじっとしててくれないんですかぁ〜」

哀しげな三番隊副隊長の叫びが木霊した。


そんな哀れなイズルをよそに、ギンは遠い屋根の上でひなたぼっことしゃれ込んだ。

「イズルのあほ、ぼけ、かす、こんなええ天気ん時に薄暗い部屋で
 座ってろいうんが無理なんや。どこかええとこの坊々らしが
 使えん奴や、ほんま」

ギンはさぼっても何をするでなし、霊圧を完全に消して屋根の上で寝転がっていた。
往来では霊術院の学生らしい一団が教官の引率で歩いている。
実技にでも行くんかねえ、皆ひよっ子ばっかりや…。
昔だったらふらふら外行くんは何か食いもん探しに行く時やったな…。
遠い遠い昔の話だ。
ひもじくて凍える生活やったけど、可愛くて綺麗な女の子と二人っきり
今は仕事仕事でお互い顔も見る事でけへん
まさかあのちびっ子ん事、気に入ってるんやないやろね?
イズルへのムカつきが今度は天才少年日津谷に向けられる。

「あ〜気に入らん事ばっかりや」

薄い蒼い瞳で自分の左手を見つめた。乱菊がかまってくれんからや
乱菊のうなじや、長い金色の髪の冷たく、艶やかな感触を忘れたら
どう責任とってくれんの?
あ〜抱きたい抱きたい、今度あったら三日は離さん、いや一週間昼夜無しや
つまり市丸ギンは欲求不満だったのだ





霊術院時代

松本乱菊は目立って際立つ容姿のおかげでよく男子学生から告白された。
今も学校の裏の樹の下に呼び出されて、名前も知らない男子にコクられていたのだが……。

「い、今すぐ返事って駄目かな」

照れ笑いをする男子をヨソに、松本乱菊は考え込む。

「ん〜でもそういうのって私よくわからないし……ごめんなさい!」

勢いよく深々と頭を下げた。

「だ、駄目だよね、ごめんね、あはははっ」

何故かその男子学生は脱兎のごとくその場から立ち去った。

「ん〜もう、ちょっとギン降りてきなさいよっ」

「あはは〜見つかってもうた」

音もさせずに木陰から降りてきた、やはり霊術院男子の制服を着た男
市丸ギン、背は高かったがひょろりと痩せて、女の様な肌の白さと
その名の通り色素の抜けた銀色の髪に、薄蒼い瞳をもった優男だった。
ご立腹の綺麗な女の子は松本乱菊
まるでギンと対をなす様に金色の豊かな髪と、歳に似あわない豊満な胸の盛り上がりを誇っている。瞳の色もギンの薄蒼に比べて明るい空色の対をしていた。

「どうしていっつも邪魔するの!?いっつもあんたが霊圧で牽制するから
 あたしちっとも男の子とお付き合い出来ないじゃない!」

「あかん、僕の霊圧にビビって逃げ出す様な男に乱菊はやれん、だ〜め」

「じゃあどんな男がいいってのよ?」

乱菊は頬を膨らませて怒っている。ギンはそんな態度も意に介さない。

「僕より男前で強くて頭ええ男じゃないとあきまへん」

「男前はともかく、いつも主席はあんたじゃない!」

「僕の成績追い抜かす気合いで勉強する様な男じゃないと
 お父さんは許しまへん」

「誰がお父さんよ!」

 ねえねえ、あの二人付き合ってるんだよね?霊術院の誰もがそう思う
が本人達に聞くと
「誰があんな奴(女)!」と返事がかえってくるのであった……。






「ねえ、ギンはさあ、あたしが他の男と一緒になって平気なの?」

夕焼けせまる尸魂界の店が立ち並び賑わいをみせる一画
霊術院の制服姿のギンと乱菊は学寮に帰るため歩く。
乱菊はなんとはなしに下向き加減で、小石を軽くけった。

「人通りの多いとこで石なんかけったらあぶのおます!」

ぎくっとしてギンを見上げると腕を組み
あの張り付いた様な狐笑いをやめていた。
色の薄い瞳をうっすらとあけ、遠くに視線をさまよわせていた。

「……僕なあ、尸魂界きてもふらっとどっか行く癖治らんやろ?」

「うん…」

「死神になっても治らん思う」

「どうしていつも何も言わないで何処か行っちゃうの?
 せめて行き先だけでも言ってくれれば…」

あたしはあんな思いしなくて済むのに。

「僕なあ、遠い遠い昔やけど現世では京の人間やったんや」

「知ってるわよ、それ」

「京は京でも東京やないで!?昔、主上がお作りんなった京の都やっ」

「主上(おかみ)って誰?」

「現世の日本で一番偉い人、ずーっと昔から続いとる」

「え?」

「僕は公家の出やで?死んでこっち来たら朽木なんて奴らが
 貴族面してあほくさ思たわ。奴やら貴族やのうて武士や。
 主上と同じ場所に住んでた公家とは違います」

「嘘でしょ、それ」

「嘘な訳あるかい!僕もたまには真面目に話するで」

そういうギンは嫌に真面目な顔をしていた。





「平安いう時代やったけど、その頃も現世はちっとも平安やなかった。
 茨木童子や朱天童子いう鬼が暴れ回って、人は喰う、女はさらう
 無茶苦茶やっとった。鬼言うてもほんまは人間やけどな
 ああいう事してる時の人間の顔は鬼になるから、やっぱ鬼なんやろ
 しかも地震に雷、凶作と悪い事ばかり続く。
 僕はそういう時代にある公家の子として産まれた」

「結構なご身分じゃない。飢えも寒さも知らなかったんでしょ?」

「うん、でなその時代、鬼は真っ白い髪に眼の色赤か薄いと思われてた」

「え?」

「そんでえらい美男やったら鬼に決まっとる」

乱菊は笑っていいのか、真剣な顔をしていいのかわからない。
彼女が知らない時代の話だ。またギンが作り話をしているのだろうか?
でも、他の男と付き合う話にどうしてこんな話に転ぶんだろう
またケムにまくつもりなんだろうと思う。

「僕はその家で忌み子やってん。鬼の子が産まれた言うてな」


「体面気にするおもうさまは元より、おたあさまも僕を嫌ってん。
 しゃあないわなあ、鬼と交わって産んだ子やあ言われて
 一番僕を嫌ったんはおあさまや、死ぬまで触ってもくれなんだ」

夕陽に照らされてほの暖かい時間なのに、乱菊の背筋に冷たいものが走る。
とても怖い話を聞いているのではないだろうか。

「どっちが、死ぬまで?」

口が渇いてくる、乱菊はその言葉を言ってしまった。

「僕、六歳くらいまでやったかなあ、座敷牢に入れられて
 それまで生かしてはくれはったんやけど、鬼の子やもんね。
 御上に直拝でける殿上家や、鬼の子が育ったらどうなる思たんやろなあ」

「…首り殺されてん」


「親の事、憎いと思ってる?」

ギンは薄く笑って首をふった。

「いいや、不思議に憎いとおもわなんだ。
 ただ自分の子おの首しめる親の顔は鬼やおもておもうさまの顔見てた。
 なあ、自分が鬼になるんやったら、僕を鬼にくれてしまえばよかったのに」

「うん…」

「で、死んでも、寒い辛いひもじいや、僕は死んだらもっと楽になれるんか思てたんに。
 物心つくまで、ああそうか」

 あそこが餓鬼道に近いとこやってんね……。ぼそりとギンは言った。
随分長い事あそこに居たんや、乱菊拾う前までも僕はそこいらふらふら
歩き回る癖が治らんかった。
僕はほんまのおたあさま探しとったんかもしれん、僕を産んだ鬼の母親
銀の髪に狐顔ならすぐわかる、そう思ていろいろ探しまわったんやけど
流魂街にはおらんのね、み〜んな黒い頭で肌の色も僕みたいに白くない
異国のそういうとこ行けば仰山おる聞いたけど、では僕の現世はなんやったん?

「…じゃあ今でも鬼のおかあさん探しに行く?」

「うん、たぶん……。でも乱菊に会えて僕は餓鬼道から抜け出して
 死神になる資格出来たんやね。
 髪の色ちごうて色白い子が道に落ちてて嬉しかったあ。
 僕とおんなじ子や、思ったの。ごめんな」

「どうして、謝るのよ」

「乱菊は親に死ね思われた子ぉと違うと思うから」

そういってギンは笑った。痛い様な笑いだった。





「ギンが自分の事話してくれたの初めてね。
 もっと聞きたいけど、その話とあたしの彼氏とどんな関係があるの?」

ギンの痛い様な笑いを見てしまった乱菊は、ギンの顔をまともに見られなかった。
人間はどうしようもなくなると泣くか笑うかしか出来ないと聞く
霊魂だけど感情は人間のままだ
ギンは泣けないから笑うのだ、たぶん……

「ん〜僕は誰と一緒になってもきっとどこかへふらふら行てまう。
 子供の頃、僕がそうやって家帰ると乱菊わんわん泣いてたね。
 ご飯探しに行ってたのもあるけど、家長いこと空けて
 乱菊泣かして、僕そういうのもう嫌やねん」

「…あんたが何処どこへ行ってくるって、一言言えばいいのよ。
 そしたらあたし、泣かないで待ってる」

乱菊の言葉をギンは真面目な顔で受け取った。

「それ約束でけんから、乱菊には僕より強くて頭よくて男前で
 それで乱菊の帰りが遅うなったら、自分がわんわん泣く様な男がええおもたの」

僕やのうてね……。

「わんわん泣く様な男は嫌よ」

「何言いますのや、泣ける男は情が厚いええ男やで。
 僕の好みはともかく乱菊にはええと思う男おらんの?」

「ん〜、まだわかんない…」

やはり下を向いて乱菊は答える。
身体は女んなりはじめとるけど、心が追っ付いてないんやね。
僕はとうの昔に君の背え追い越して、頼んだ訳でもないんに
厄介な男って生きもんになりはじまっとる
しんどいんで、ほんま


ふと会話が途切れてしまった。
おう魔が時のほの暗さ、「家族」で暮らしている魂達の家から
夕餉の煙や匂いが流れてくる。
まだ買い物をしている母親に何かをねだる子供の声
ギンにも乱菊にも流魂界では縁遠い光景だった、暖かな薄やみ

「そやなあ、今乱菊に言い寄る院生は、乱菊やのうて
 乱のおっぱいと尻に言い寄ってんねん、あんなんは駄目や」

「ちょっとぉ!何言い出すのよ!」

乱菊はとっさに胸元を抑えてきっとギンの顔を睨みつけた。

「だってほんまやもん、色気づいたガキは下半身で
 ”つきおうて〜”って言ってるんやで?」

「いやーっ!なんて事言うのよ!夢も希望も無いじゃない」

なんだ死神見習いの痴話喧嘩か?
言い出しっぺのギンはへらっとしてるのに、乱菊は周囲の視線が痛い。



「どうしてそんな事わかるのよ」

「僕も男だから。女と違うてね
 男は女の気持考えん、ろくでなしが多いの。
 だから女の子は男を厳しゅう見なあかんのやで」

「ギンも、そうなの?」

二人で居たときはギンは優しかったわ。
そりゃどこかふらっと出かけちゃう時は悲しかったけど
一所懸命あたしがお腹空かない様に、寒くない様にしてくれた。

ギンは自分自身を指差して答えた。

「僕がそのろくでなしの見本みたいな男やもん。
 約束は守れん、じっとしてるの嫌い、僕を見ればわかる!」

そう言って胸をはった。

「威張るとこじゃないわよ、バカ」

でもほんとねと乱菊は言った。あ、学寮近いわ…。
もっと話していたい様なそうでない様な、胸の奥がむずがゆい。





「で、結局何が言いたかったの?」

「乱菊が幸せになれば、僕も幸せ、そう言いたかったの」

にっこり笑ってギンは言った。

「あ、僕の身の上話、嘘や」

「え!?」

「怒らんの?」

「うん、なんか怒る気になれない」

「半分は嘘言うとこ。あんまり昔の話でもう親の顔もおぼえてへん。
 でも親に手えかけられた事はほんま、鬼の子や言われたのもほんま」

「おかあさん探しに行くっていうのは?」

「僕はマザコンちゃうわ!でも鬼の子やから身の置き所がないんやろ
 何処行っても自分のいるとこじゃ無い様な気がする、そんだけ」

「ふ〜ん…」

もう女子学寮が近いのでギンは無口になった。
おしゃべりと思われているギンだが、地は口数が少ない
いくら話してもなかなか本音を言わないから


気がつくと低く鼻歌を歌っていた。

「綺麗な曲ね、なんていうの?」

「理性が崩壊する時、ジャズや」

「えーっ!?ギンがジャズぅ〜。三味線で都々逸歌ってる様なあんたがジャズぅ!!!!」

僕かて今の現世の事知っとるんやで?失礼な。
憮然とするギンの横で乱菊はげらげら笑いが止まらなかった。

「ほな、お疲れさん。おやすみ」

夕闇の中、全体的に白い印象のギンの姿がぼうっと浮き上がり
乱菊を見送ってひらひらと手を振っていた。


「嘘やったら、よかったんだけどねえ…」

寮に駆け込む乱菊の背を見送って、ギンはぼそりと呟いた。
一人、夜道を学寮まで歩く。
もう千年も経っているだろうに、僕の首をしめるおもうさんの顔が忘れられん
ほんまにあの顔は鬼やった、まだ見ない虚いうんにも似ていた
それはそうや、みいんな人間の魂の姿やから
冷たい僕の記憶の中で、ぬくうて太陽に似たもんはみいんな乱菊や
乱菊、乱菊、恋しい切ない愛おしい、冷たい自分の内側に熱がわいてくる
二人でいた時は抱き合ってもあったかくてそれだけで幸せんなれた
でも僕は大人んなってしもうた、男になってしもうた
乱菊の唇が欲しい、あの白い肌に触れたい抱きしめたい
情欲が己が心を焼き焦がす
こんなんは死んで終わりやなかったんか?
大人になれず死んだ子供は魂でそれを味わにゃあかんのか?
これが地獄やないんやら、ほんまの地獄はどれだけキツいんやろ

「ごめんな、乱菊。僕は夢で君を汚すんやで、堪忍な…」

いつもの他人への壁の様な張り付いた笑顔がギンの顔から消えている
薄蒼い瞳を暗闇に彷徨わせても
こんな無防備な姿を、ギンは絶対他人には見せない
ギン×乱でバカップル行きます
好みじゃない人スルーして

×日津谷
○日番谷

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