934

ネタ【職人・吉良】

「なんだい、それ?」

僕が話しかけた赤い髪の彼は僕の同室だ。
いかつい表情(と、主に眉)のせいか、クラスからは一目置かれている。
置かれているというよりは恐れられている、が正しいが、彼は「置かれている」と言い張るので彼の数少ない友人である僕は、
彼の名誉の為にもこの表現を使う。
前置きが長くなったが僕が疑問符付きで話しかけた所に話を戻したい。

「あん?これか?」

めんどくさそうに振り返ると、彼は持っていた冊子をヒラヒラさせ、口を厭らしく歪ませた。

「エロ本」

あまりにストレートすぎる表現に、僕はしばし面食らった。
「エロ本」、それはいつの時代も男子の心を刺激する禁断の呪文だ。どんな強力な縛道よりも心を縛り付ける魅惑の言葉。
エロい本。そのまますぎるから逆に開き直れるのか、それとも彼の度胸が据わっているのか、おそらく後者だろうが、彼は本を開いて
僕に見せてきた。

「今、こういうの流行ってるんだぜ」
「え…って、これ、朽木さん!?」

エロ本、僕がこの言葉を言うと誰が想像するだろうか。そして僕がこんな本を見るなんて。
けれど僕も健全な男子だ。エロが好きだ。エロが好きなんだ。

「これ、アイコラっていうんだぜ。好きなヤツの顔写真貼り付けてよ、こう…どうなってんのか想像すんだよ」

エロ本の中のエロいポーズをとった、やや貧相な…と言ってはモデルに悪いが、あぁ、そうだ。発育不足と言えばいいだろうか。
そんな体型の女性の体に、多分これは修学旅行の時の写真だろう。朽木さんの顔が綺麗に切り取られた写真が貼り付けられている。
僕は彼がそんなに上手に鋏を使えるなんて、今の今まで知らなかった。
妙に関心しながら彼を見遣ると、彼は赤い髪をかきあげ、かいてもいない汗を拭いながら

「昨日これ作る為に徹夜したんだぜ。ちなみにルキアの写真は保存用とアイコラ用、念の為用に3枚買った」
「念の為用って何だい?保存用とは違うの?」
「バカ、ニュアンスが違うだろ」

僕は「バカ」をそのままそっくり返してやりたかったが、彼の仕事振りには素直に感嘆した。

「でも凄いね。首の切れ目の不自然さを消すためにスカーフを付けたのか」
「まぁな。俺天才だしな」


今思い返せばバカだったのは僕だろう。裸にスカーフだけなんてナンセンス極まりない。
裸に足袋ならまだ分かる。

「おい吉良、お前器用だしアイコラやってみないか?」
「ぼ、僕が?」
「雛森の写真持ってんだろ?」
「ひっ、ひ、雛森君!?雛森君は関係ないだろ!?」
「関係あるだろが」
「そんなお前に俺から些細なプレゼントだ。ルキアを作るついでに作っておいてやったぜ」

妙に仰々しく懐から取り出す雑誌の切れ端。まぁエロ本の一部だろう。
そのモデルは清楚な白の下着を踝まで下ろし、一本の毛も生えていない乙女の秘密の花園…生えていないのに花園という表現はおかしいだろうか。
学年首席のくせに、僕はこういった俗に言う「下」の話のボキャブラリが少ない。話が脱線したので戻そう。
その花園を露にし、両手を慎ましやかな胸の前で組んでいた。
肝心の被写体の顔は彼の指によって隠されている。
僕は無意識に唾液を飲み込んだ。ゴクンという音がやけに大きく脳に響く。

「ジャジャジャーン」

何の効果音だと言いたかったが、まさしくそれと同じ効果音というか、ファンファーレが僕の頭の中でも目出度く響き渡った。

「3、2、1」

効果音の後にカウントダウン。全く意味が分からないが僕はそのカウントダウンに同乗した。

「4!!!」
「何で4に飛ぶんだよ!!」

何故か大笑いしながら全くどうでもいい突っ込みをして、その後約15分の間カウントダウンや早押しクイズ風に被写体の顔を拝む為の儀式を繰り返した。

「番組必死で探しました!!」

と、彼は泣きそうな声で告げ、指をどけた。
そこに居たのはまさしく雛森君だったのだ。
勿論首から上だけだったが。
しかしアイコラとは不思議なもので、明らかに首切って貼っただろというのが見え見えだというのに、何故か興奮してしまう。
これが雛森君の体…と脳は認識してしまうのだ。

「どうだ。俺の自信作だぜ」
「す、凄いよ…阿散井君」

白い肌を惜しげもなく晒す雛森君。その顔は僕だけを見つめてはにかんでいる。
胸元を隠しているというのに大事な部分が丸見えだった。僕は何となく人差し指を、その大事な花園に押し当ててみた。

「あ、それ俺もやった。なんか余計エロくね?見えそうで見えないってヤツだろ」

成る程、指の角度を少し変えるだけで同じ写真が全く違う顔に見えてくる。
これは凄い発見だった。

その日以来、彼がくれた雛森君のアイコラエロ写真は僕の生徒手帳にしまわれることになる。
これが僕の聖典だ。僕の密かな趣味は、そう。アイコラ作り。
今は職人と…そう呼ばれている。
学生時代の話でエロは特になし。

[mente]

作品の感想を投稿、閲覧する -> [reply]