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ネタ【職人・吉良と犬】

「またですか…」
「頼むよ、吉良。隊長えらく気に入っちまったみてーなんだ」

僕はうんざりしていた。いいかげん犬が嫌いになってしまいそうだ。
あの日以来、檜佐木先輩は毎日のようにこの依頼を持って来るようになった。

ただでさえ他の依頼も滞っていると言うのに、これ以上あんな素材で悪魔合体を繰り返していては
こちらの神経までおかしくなってしまう。そのうちベルベットルームあたりからお呼びがかかるんじゃないか。
しかし上司を待たせるわけにもいかないし、職人として頼まれた仕事を放棄するわけにもいかない。
何より礼金が尋常じゃない額なのだ。さすがは隊長と言うべきか…この資金がどこから捻出されているのかと
少し疑問に思ったが考えるのが怖いのでやめておこう。

「吉良…解っているのか?お前の腕は人類の垣根さえ越えたんだ!今こそお前は真の職人になろうとしてるんだ!!」
僕の苦悩をよそに、先輩が何ごとか世迷言を口走っているが捨て置こう。
とにかく、この礼金のおかげで…それでも松本さんの抜けた穴を埋めるには至らないが…ずいぶんと助かっているのも事実なのだ。
僕は先輩の目を見据え力強く頷くと、先輩を早々に追い出し早速作業に取り掛かった。

「隊長の好みはこの犬とこの犬だったな…」
僕は「獣王記」と書かれたスクラップ帳を高速で捲りながら、脳内で犬の首と記憶している限りの女体とを瞬時に合成させていく。
このスクラップ帳には犬の写真がぎっしり詰まっている。あまりの依頼の数に、もはや手持ちの動物図鑑では追いつかなくなっていた。
ここ最近はわざわざ下界に降りてまで隊長好みの犬を激写し続ける日々が続いている。…正直、もう勘弁して欲しい。

「激しい喜びはいらない・・・その代わり深い絶望もない。植物のように生きることこそ僕の目標だったのに・・・」
それでも僕の職人としての魂が、カッターを握り締めるこの腕が黙々と本日の仕事をこなしていく。
人の性と言うものは自分自身でもどうしようもないものなのか。
その時フ、と、あるアイデアが浮かんだ。…いや、ちょっとした悪戯心と言おうか。
僕の手がある隊長の写真に伸びる。これまで依頼など1度も来た事がないが、万が一のためにスクラップしておいた写真だ。
常識的に考えて、依頼など来るはずも無い人物。しかし依頼主である隊長と行動を共にしている姿をよく見かける人物。
本当に、そのときはほんの悪戯心のつもりだった。いや、確かに少し報復の気持ちもあったが、これでこの依頼が終わるならそれはそれでいいとも思っていた。

僕はその人物の顔と、ネグロイド系の女性の裸体を合成したものをそっと、依頼主に渡す封筒の最後に忍ばせておいた。
…この吉良、ついに性別すらも超越してしまった…。いよいよ業が深くなったな、と自分でも思ったが、新しいことに挑戦し完璧な仕事をこなした
その時、その瞬間の清々しさは何ものにも代え難いものだ。僕は意気揚々と檜佐木先輩に依頼品を預けた。
そしてその日は久々に、本当に久々にぐっすりと眠ることが出来た。

…次の日、狛村隊長が救護班に運ばれている所を見かけた。卯ノ花隊長も付き添い、何やら大事のようだった。
後で聞いた話によると、狛村隊長は自室で衰弱している所を発見されたそうだ。部屋からは猛烈に生臭い臭いが漂っていたようだが詳細は不明。
その手には写真の切れ端のようなものが握られていたらしいが、大部分は破り取られ何の写真だったのかは判明していない。
まあ、僕には関係の無いことだ。もうあの依頼もこれで終わりだろう。今日から少しは穏やかな日々を送ることが出来そうだ。

「おい吉良、ちょっと」
…そうもいかない、か。
僕はうんざりした顔も隠さず、いつもの声がした方に向き直った。

しかしそこにいたのは、いつもの先輩の姿じゃあなかった。
その顔を先輩であると認識することに一瞬ためらいを感じるほどの変貌振りに、僕の足が後ろに去がる。
「…狛村隊長のこと、聞いたか?」
「う、うん…」
「それじゃあ第一発見者が誰かも知ってるよな?」
必死に抑えてはいたのだろうが、その体内に渦巻く殺気を帯びた霊圧は一直線に僕に向けられていた。
何が彼をそこまで怒らせてしまったのだろう。その答えを僕が見つけた時には、僕の身体は病院のベッドの上に転がっていた。

包帯でグルグル巻きにされ、身動き一つ取れない僕の世話をしてくれている四番隊の隊員さんによると
僕は危うく、本当に植物のように生きることになる所だったそうだ…。

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