「おい吉良、ちょっと」
またこの声だ。いい加減飽きてきたが仕方が無い。彼は僕の先輩なのだから。
檜佐木先輩は最近のアイコラ流行に便乗しておかしな商売を始めているらしいと風の噂で聞いた。
何でも、僕が作ったアイコラを売りさばいているらしい。
まぁ、そのお陰で最近素晴らしい戦力が加入したワケだが、厳密に言えば彼は僕の恋敵になる。
「何ですか?もう、最近忙しいんですよ。いい加減…」
振り向いた僕の前に立っていた先輩は、何故か暗い顔をして俯いていた。
その只ならぬ雰囲気に僕は少し焦ってしまった。いくら尊敬していないとはいえ、真剣10代のメンバーとして、そして戦友として
彼の気分を害しては流石の僕も良心が痛む。
「ど、どうしたんですか!そんな暗い顔して!」
「吉良…お前に…職人として、男として頼みたいことがある…」
いつも飄々とした檜佐木先輩らしくない表情と声に、僕は思わず同情してしまった。
彼の図太い神経はどうしてしまったのか。まさか松本さんに弄ばれてしまったのか。…あ、これなら先輩はツヤツヤと光り輝きながら笑顔を
振りまいているだろう。僕は全ての僕の神経を先輩に集中させた。
「お前…犬って好きか?」
「犬…ですか?別に嫌いではありませんが…」
「そ、そうか。良かった」
「じゃあさ、お前、昔俺らと一緒に読んだ獣姦のマンガ覚えてる?」
「あーあのシベリアンハスキーに犯られる話ですか?覚えてますけど、僕はああいう部類の性癖はちょっと…てまさか、先輩!犬を…」
「違う!!俺じゃない!吉良、お前に頼みたいというのは、犬のアイコラが作れるかどうかなんだ」
僕は暫く黙り込んだ。黙り込んだというよりも黙り込まざるを得なかった。
何故なら僕のニューロンとシナプスは一時凍結を余儀なくされたからだ。
正直先輩が何を言っているのか、天才の僕には全く理解出来なかった。犬のアイコラ?彼は確かにそう言ったと思う。
「は?」
このフリーズは15秒程続いただろうか。通常動作を始めた僕の脳が真っ先に出した指令は、目の前の先輩を蔑みの瞳で見つめ「は?」と
発しろということだった。
「いや、お前も俺が何を言ってるのか分からないと思う。俺も分からん」
「犬のアイコラってどういう意味ですか。犬の首切断して他の犬に付け替えても気味が悪いですよ!」
「犬の頭を人間の胴体に付けるって可能か?」
「いやいやいや先輩、それは本当どうかと思います」
「だよな…すまねぇな、吉良…うちの隊ch…ゲフッ、ゴフン、なんでもねぇ…じゃ、じゃあな…」
僕は正直嫌な予感がした。きっと檜佐木先輩は上司の方に何事か頼まれたのだろう。
何せあの人は…人?とりあえず人という名詞を使うことにしよう。あの人は見た目が犬だ。
そういう趣味があってもしょうがない。
「この「吉良イヅル」…自分で常に思うんだが、強運で守られてるような気がする…そして細やかな「気配り」と大胆な「行動力」で対処すれば…
けっこう幸せな人生をおくれるような気がする」
僕は一人の人を見捨てるわけにはいかなかった。何より同胞である先輩が苦しむ姿を見るのは後輩として忍びない。
僕を信頼してくれた先輩の為にも、僕はやるしかないのだった。
机に向かい、動物図鑑第一巻の『いぬ』を開く。
彼の上司はどんな犬が好きだろうか。まずそれを考えた。見た目は柴犬のような気もするので、そういった見た目が温和そうな犬を調べていく。
次は合体させるパーツ選び…そう、人間の体だ。
ああいう大きい体の人は小さい体の人を好みそうだ。胸の大きさというよりも形重視な気がする。
この細やかな気配り!そしてパーツを切断する大胆な行動力!
僕はカッターナイフを卍解させんばかりに手を振るった。
数日後、僕の元に小包が届いた。
そこにあったのは何故か、ペディグリーチャムだった。
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