街がネオンに彩られ鮮やかになればなる程、ぼんやりと鈍くぼやけて現実感を
無くしてしまう。
クリスマスという一大イベントは、自分にはまるで別世界に迷い込んだかの
ようで、どうにも実感が湧かない。
他の人もそうだろうか。自分だけだろうか。
イルミネーションの化粧を纏った街路樹を横目に、石田雨竜はそんな事を
思いながら歩いていた。テスト休みに入ってしまうと曜日の感覚など無いに
等しい。今日の日付もあまり覚えていないのだが、イヴイヴだか、その前日
だったか、そんな適当な名前を付けられた日だったろうか。
だとすれば、このきらびやかな飾りたちもあと2、3日で取り払われて
しまうのだろう。
街が落ち着きを取り戻すまであと少しだ。
‥あと少し、と思ってしまった自分に戸惑う。早く終わって欲しいと思う
なんて、我ながら捻くれているものだ。
雨竜は決してクリスマスが嫌いな訳ではない。
ただ、はしゃぎ方や喜び方を知らないから、どう過ごせばいいのか分からずに
戸惑ってしまう。それが少しばかり厭なだけである。
道行く人を見る。
親子連れ、恋人同士、友人同士。
クリスマスという日は、それぞれがそれぞれ思う人と過ごすのであろう。
恋人、友人という照れ臭い関係を何となく避けてしまっている雨竜は、
そうやって過ごす相手は現在居ない。親などもっての外だ。
(‥そりゃあ、苦手なわけだ。)
誰かと過ごすのが当たり前のような日に、誰かと過ごすのが苦手な人間が
合う筈もない。そう思い、軽く自嘲気味に笑みをこぼす。
寒さにコートの襟元をきゅっと締め、雨竜は家路を急ぐ事にした。
だが、その足は聞き覚えのある声で動きを止めることになった。
「あ!石田くん!こんばんは!」
振り返ると、細い両腕にありえないほどの荷物を抱えたクラスメート、
井上織姫が笑顔で立っていた。
「ありがとね。荷物、持ってくれて。」
「別に‥たいしたことじゃないし。」
織姫の家は雨竜の家に近いわけではないが、日も短く暗いし、何となく荷物と
共に彼女を送ることにした。
何となく放っておけない。
そういう雰囲気を井上織姫は持っていると雨竜は思う。ぽやっとした表情や、
誰にも人見知りをしないその性格の所為だろうか。霊力は十分に強いのに
一人で歩かせる事が不安になる、そんな手が掛かる同級生。
あの戦いの一件から雨竜は織姫に対してそんな認識でいた。
それ以上の気持ちは‥ないこともないが正直良く分からないし、彼女に思い人が
居る事は知っていたので考えることもしていない。そんな事を思い浮かべて
ちらりと彼女を横目に見たら、目が合ってしまった。
知らず知らずの内に彼女の事ばかり考えていた雨竜は、内心慌てて話題を作る。
「すごい量だね。全部クリスマス用?」
「ん?うん。」
織姫の紙袋の中からは金銀のフサフサとしたモールがちらりと見える。
彼女のことだから部屋いっぱいを飾って賑やかな連中とパーティーでも
するのだろう。
「ひどいな、井上さん一人に荷物を持たせるなんて。」
買出しは普通男達の役目だろう。そう織姫に伝えると、織姫は笑って違う違う、
と答えた。
「あたし一人だけだもん。他に誰もいないよ。」
「‥え?」
「一人で全部飾って、それが終わったらケーキ丸々一個食べてクリスマスを
お祝いするの。へへ、贅沢でしょ。」
贅沢‥なんだろうか。まあ、ケーキを一人でホールで食べる事は滅多に
無いであろうけど。
「たつきちゃんとか、冬の合宿でいないんだ。」
雨竜が問う前に織姫は答える。他の連中もスキーなどで集まるのは終了式の後らしい。
「誕生日のお祝いなのに、別の日にパーティするのも変だから。」
それで一人でパーティを開くのも充分変だと思うが。
口には出さずにいる雨竜にもう一つの言葉が浮かび上がる。
「‥誰か誘えばいいんじゃないか。」
柄にも無くそんな事を思い、口に出してしまった。
黒埼とか…とまでは流石に言わなかったが気持ちはそれだった。
織姫が少しきょとん、とした顔をして雨竜を見た。余計なお節介かと雨竜が
言った事を後悔した瞬間に、織姫から意外な返事が返ってきた。
「んー‥そうだねえ‥石田くん、ウチくる?」
日付の上ではクリスマスイヴだったらしい。
イヴの日に女子の部屋で男女が二人きりというこの設定は、ひょっとしたら
凄く意味深というか‥なにやら拙い事ではないんだろうか。
それよりも自分のさっきの言葉が、もし誘って欲しくて言ったのだと思われたら‥。
そう考えると雨竜は居た堪れなくなる。
「石田くん、そっち、そっち貼り付けて。」
「ああ、うん。」
頭の中ではそんな事を考えながら、雨竜は今、織姫の部屋で着々とモールを壁に
飾り付けている。断る事も出来ず、結局こまめに窓に星やらスプレーやらを付け、
更には電気をカラフルなものへ付け替えて、最後の壁への飾りつけ。
我ながら大した働き振りである。
「よーし!できたぁ!」
織姫が歓喜の声を上げた。部屋の中は色とりどりで机の上は菓子とケーキと、
およそ高校生では使わないような子供向けの玩具が盛られている。
とても二人だけのパーティとは思えない、はしゃいだ装飾であった。
雨竜が自分の飾りつけた壁を眺めていると、背中からぱぁん!とはじける音が響いた。
「うわぁっ」
驚いて思わず声を上げる。織姫がクラッカーを鳴らしたのだった。
「い‥井上さん‥?」
「ほらぁ、元気ないぞ!石田くん。」
とにっこり笑って、ひとりでもふたりでも、パーティなんだから、と手元の
クラッカーを立て続けに打ち鳴らす。軽快な音と共にはじける笑顔。
織姫のこんな表情は、雨竜を少しどきりとさせる。
自分と同じような、一人でいる寂しさを抱えつつも笑顔で居られる彼女はとても強い。
そんな彼女に少々惹かれているからこそ、自分は今、ここでこうしているのだろう。
会うたびに、その生きた笑顔を見るたびに雨竜の中の何かがとくん、と脈打つ。
今も、脈打っている。
「ほら、石田くんも」
織姫がクラッカーを手渡そうと手を伸ばす。細い指がこちらに近付いてくる。
雨竜は聞こえないくらいの小声でお礼の言葉を呟き、手を伸ばした。
ひやり。
織姫の指先が冷たい。
「あ‥」
織姫が小さく声を上げた。
それは、雨竜が無意識に彼女の手を掴んでいたからだった。
ことり。とクラッカーがフローリングの床に音を立てて落ちた。
織姫の手はその指先と同じように冷たく、触れている雨竜の肌から急激に
熱を奪っていく。熱と共に、指先から織姫に吸い込まれていくかのように、
雨竜は彼女に近づいていった。
「石田‥くん?」
はっ、とその声に気付くと、織姫の顔が10数センチの近さにあった。
慌てて手を離し、身を下がらせる。
「ごっ、ごめん!」
雨竜は俯いたまま黙ってしまった。
(何を‥やってるんだ僕は‥)
このまま黙っていては気まずい空気が流れるばかりなのだが、織姫の視線が
怖くて顔を上げることが出来ない。だが、このままでは向こうを困らせる
だけであろう。もう一度謝ろうと意を決して顔を上げたとき、
「ごめんね。」
と織姫が雨竜に向って言った。
「ごめんねぇ、あたし、手冷たいでしょ。びっくりしたよねえ。
‥えっと、あっためてくれたんだよね、石田くん。」
ひらひらとその手を振って織姫が少し照れたような笑顔を向ける。
何事も無かったことにしたいのか、自分をフォローしてくれているのか。
雨竜はわからないまま衝動的に織姫の手を掴んだ。
「うわ…!」
バランスを崩した織姫が雨竜の肩に身体を預ける形となる。
「い…石田くん…?」
「君が謝ることじゃないのに…なんで謝るんだ。」
聞いてもしょうがない事を雨竜はつぶやく。
実際答えを聞いたところでこの胸の内に広がった黒っぽい染みは洗われる
事はないのだと確信していたのだ。
何事も無かったようにしたかったのか、それともフォローを入れてくれたのか。
或いはその両方か。
いずれにしても織姫のその優しさによって、雨竜は酷く傷ついたのだった。
抱きとめた肩にふわ、とよい香りが感じられる。自分の胸元には彼女の
豊満な乳房が当たっており、その感触は柔らかい、などという簡単な言葉で
収めてよいのか判らないほどのものだった。
それだけで雨竜の股間は早くも疼きはじめている。
ひんやりした織姫の手を掴んだまま、もう一方の手で織姫の腰を取り、そのまま
下へとずらしていった。手が曲線を描いて彼女の尻の丸みを表していく。
「ちょ…っ…やぁ…」
織姫が顔を赤くして雨竜から離れようと身をよじる。だが、両の手に確りと
力を入れた彼が離すことはなかった。
尻を撫でさすっていた手はスカートを徐々にずらし上げていき、下着に直に
触れようとしている。
「あ…っ」
自分の下着が露になった事が雨竜の手の動きと布の音、そして外気に晒された
太腿の感覚で判る。織姫は捕まれていないもう一方の手で雨竜を制そうとしたが、
それは二人の身体に阻まれて無駄な努力で終わってしまった。
絹のような織姫の肌は太腿も一枚の布越しの尻もすべすべと心地良く、
雨竜の手は欲望に任せて彼女の肌を貪った。
形の良い尻の溝を指先で触れると、織姫がひくん、と身体を震わせる。
手を大きく開いて鷲掴むと織姫は小さく声をあげた。
乱暴に尻を掴んだまま足を進めて壁に織姫を押し付ける。
さっき飾りつけたばかりの花や雪を象った紙たちがクシャッと悲鳴をあげて
織姫の身体に潰れたが、雨竜は気にも留めずに尻を弄り続け、その中心部へと
指を這わせた。
「だ…だめ…!」
織姫のか細い声を振り切るように、雨竜はその中に指を差込み、薄い布越しに
織姫の女の部分に侵入した。
「あっ」
冷たい手とは裏腹に彼女のそこは人肌よりも暖かい。雨竜はそこをより深く
知るために織姫を壁に強く押し付けて、自分の身を下へと沈めてゆく。
身を低くする途中で彼女の大きな乳房が鼻先に触れたので、そのままそこへ
顔を埋めた。
「ん…っ!」
大きな乳房は双方とも柔らかく雨竜を受け入れる。セーターのちくちくとした感触が
煩わしく、雨竜はぞんざいに彼女の上着をたくし上げた。
ぶるん、と揺れた大きな乳房が花柄に彩られた下着に守られながらも、
男の前に露になる。
「やめ…っ」
織姫が止める間もなく雨竜は下着をずり下げて彼女の乳房を晒し出した。
下着から開放した二つの大きなそれは、白い姿で先端に桜色をあしらった
艶かしくも美しいものだった。
乳房を守るはずのブラジャーは下へと追いやられて、逆に雨竜に献上するかの
ように織姫の乳を持ち上げている。
淡い色のセーターと白いブラジャーの間にぷるんとはみ出した自分の乳房の
いやらしさに織姫はかっと耳まで赤くし、瞳を伏せた。
雨竜は目の前にあるそれに唇を寄せる。
「だ…だめ…!」
声を無視してちゅく…という音を立てて彼女の胸の先端に吸い付いた。
唇の周りを包む白い柔らかさと、その中央の弾力のある感触。
その両方が雨竜の男の部分を刺激する。雨竜の両手は彼女の大きく飛び出た
乳房を掴みあげ、揉みしだいた。
「あっ…あっ!や…っ」
白い乳房は雨竜の手に瞬く間に降伏し、彼の思うがままに形を変えていく。
先端の桜色は雨竜の吸い付きによって色濃く桃色へと変わりはじめていった。
舌を動かすと乳首がそれに合わせて震える。唾液によって照りついたそれが
艶かしく動く様に織姫は限界を超えて叫んだ。
「だ…だめぇ…っ!石田くん…あたし…ッ!…んぅ!」
だが、その先の言葉は雨竜の唇で塞がれてしまう。
好きな人がいるなんて言わせない。
そんなことは知っているんだ。
知っていることなど聞きたくも無い。
雨竜のその声は強引なキスと共に織姫にねじ込ませてしまい、音となって
両者の耳に届くことはなかった。
舌を彼女の口の中へ絡ませながら、両指で乳房を揉みあげて快楽を促す。
立ったままの姿で弄ばれる乳房は上下に揺れ、摘まれた乳首は彼女の意思に
反して大きく固くなっていく。
「ン…っふぅ…ン…ッ!んん…っ」
指を押し返すほどに育った織姫の乳首は濃い桃色に充血して男を誘う。
雨竜は漸く織姫から唇を離したが、すぐさまその誘いに乗って織姫の乳首に
キスを浴びせた。
「あぁっ!あんっ!や…っ!」
唇で啄ばむたびに彼女の高い声が頭上を走る。だが雨竜は自分を止める事は
出来なかった。熱い舌で乳首を転がし、
クニクニと舌先で責め立てては吸い込み、ぴんと立って照り光るその桃色を
唇で犯していく。
「やぁ…っ…い…石田く…ん!石田くん!…やめて…っ!」
その声に反応して雨竜の身体が一瞬動きを止めた。だが、雨竜の下肢は
狂おしいほどに昂ぶっている。
今さら止めるつもりなど無い。
だが。
「井上さ…」
彼女の瞳からは涙がいっぱい零れ落ちて、色づいた頬を濡らしていた。
雨竜は酷く動揺した。
自分のしている事は判っているつもりだった。
禁を犯しても構わない程に欲しているのも事実だった。
だが、織姫のその表情はあまりにも雨竜に深く突き刺さった。
彼女を泣かせているのは自分以外の何者でもないのだ。
織姫が涙を溜めたまま雨竜に問いかけた。
「どうして…?」
酷く緩慢に雨竜はその言葉を認識し、そして答えた。
「…どうして…だろう…。」
答えになどなっていない。愚鈍に鸚鵡返しをする自分がまるで別の生き物の
ように思えてくる。
どうしてかなんて判らない。彼女が好きなのか、それとも…。
はらり、と彼女の栗色の細い髪が自分に落ちてくる。
「石田くん…。」
織姫は口を開きかけたが、そこで再び黙る。
その沈黙はそれほど長くは無かったが、雨竜には恐ろしいほどの闇の時間に
感じられた。
だが、織姫はその沈黙のまま、何も言わずにそのまま雨竜の額に口付けた。
「……!」
驚いて目を見開き、顔を上げた雨竜に再び口付ける。今度は唇に。
雨竜は訳もわからないまま、だが彼女の唇をついばみ返し、舌を絡める。
織姫はキスと共に飲み込んだのだった。
ひょっとして…寂しいから…?という言葉を。
聞いてはいけない事だと思ったのだ。自分の寂しさを知っているからこそ、
尚更に。それが彼の正解なのかも判らないけれど、やはり聞くべきではないと
思ったのだった。
そして、もしも、寂しいからなどという理由ではなく、彼が自分の事を想って
いてくれたのだとしたら。
そうしたら…どうすればいいのだろう。
だが、それを問う勇気は織姫にはなく、行為で返すという事にしたのだった。
自分はずるい。そう思った。
雨竜が動きを再開する。自分の気持ちなどはっきりと判らないままに。
織姫はそれに答えた。自分の気持ちを寂しさとせつなさで押し殺して。
壁に押し付けられたままの織姫は、片足を雨竜に預けている。軽く上へ
押しやられた脚の根元には純白の下着が露になっていた。
雨竜はセーターとブラジャーの間から溢れたままの乳房に舌を伸ばしながら、
指先で露になった下着を擦る。
下着の上からでも充分に柔らかさが、そして湿った感触が判り、雨竜の鼓動は
早まっていった。
擦るたびに下着の中心から熱い雫を感じる。白い下着は薄く染みているものによって
織姫の茂みを浮き彫りにさせていく。
「あ…んっ…」
織姫が耐え切れずにズズ…と腰を落としていく。壁があるとはいえ、片足で
この刺激の中立ち続けるのは無理があったのだろう。
だが、雨竜は手を止めずに、織姫を愛撫し続けた。織姫に合わせてゆっくりと、
自分も床へと膝を付く。
へたりと座った姿勢の織姫の両足を開くと中心のそこはしっとりと濡れており、
彼女の茂みも、その下のぷっくりとした花弁のふくらみも透かして見せ付けていた。
誘蛾灯に集まる羽虫のように引き寄せられて、下着の上からそこを舌で嬲る。
ぴちゃ…という音が漏れ、織姫の肢体がぴく、と動いた。
雨竜はそこを猫のように舐めては吸いあげ、織姫に声を上げさせ、
そして指を下着に入れ込んだ。
「あ…!はっ…!」
唾液と愛液でびしょ濡れになり、透けてしまった薄地の布をくい、と太腿の
脇に寄せる。と、赤く光った織姫の花弁が雨竜の前に露になった。
布地をずらしてはみ出させたそこは照り光って淫猥そのものであった。
「あ…だ…ダメ…みちゃ…」
織姫のか細い願いは雨竜には聞きいれられず、彼はそこをたっぷりと眺めながら
指を差し入れる。
「あ…ぁ!」
赤く柔らかい陰唇は雨竜の指に抗えずに思うままに身を捏ねられ、弄られていき、
蜜を恥じらいもなく垂らしていった。
雨竜は指を奥へと挿れた。
(きつい…)
指がきゅうと締め付けられるのを織姫の中から感じとり、自分の分身がじんじんと
していく。織姫のそこに指先から理性を奪われていくかのようで、雨竜は猛った
己を空いている手で解放する。
「井上さん…」
「え…」
雨竜の声を聞いたと思った刹那、指よりも巨大なものが織姫のそこへと宛がわれた。
「……!」
緩く天へと導かれていたかのような先ほどの感覚から、急激に「男」というものを
感じさせられて織姫はひく、と身体を縮ませる。
未知への恐怖が身体を支配する。否、未知のものが恐怖へとその身を変えて
織姫を支配するのだ。
いや‥と叫び出したい衝動に駆られる。
だが、それは雨竜を傷つけ、辛い思いをさせるだろう。
一度受け入れる事を覚悟したんだから。
我慢…しなくちゃ‥。
そう織姫がぎゅ、と瞳を瞑って覚悟を決めた時――
「大丈夫‥?」
織姫の硬直を察知したのだろう、雨竜が声を掛けた。心配そうな瞳が眼鏡の
ガラス越しにこちらを見ている。
何か、言わないと。織姫が口を開こうとする前に、雨竜が言葉を続けた。
「井上さん‥もし、その‥嫌だったら、止めてもいいんだ。そりゃあ‥勿論、
辛くないことはないけど‥無理にどうこうしたくない。さっき無理なことを
しておいて何だけど、‥君を傷つけるのは‥嫌なんだ。」
おそらく、雨竜自身が傷つくよりも。
織姫が傷つくほうがずっと、ずっと雨竜には痛い。
(石田くん‥)
その言葉に、織姫は再び涙を零した。雨竜がどきりとして慌てて声を荒げる。
「ご、ごめん、井上さん、僕‥」
だが、その言葉の先を織姫が止めた。
「あ、あのね、ごめんね、あたしこそ、ごめん。違うの。」
気遣ってくれたのが嬉しかった。
恐怖と不安が彼という人間を見知らぬものにさせていたのを、雨竜自身が
織姫を見つめ、同じ世界に戻してくれた。
それが嬉しかったのだった。
そして織姫は一瞬でも我慢だなんて事を考えた事を後悔した。
すう、と息を吸い込んで雨竜に笑顔を向ける。
「だいじょうぶ、あたし、大丈夫だよ。石田くん。」
好きな人は別にいるのだけれど。
それなのにやろうとしているこの行為が、いいものか判らないけれど。
だけど、初めてのひとが、石田くんでよかった。
織姫はそう心の中で呟いて、雨竜を受け入れた。
外の空気は冷たく、扉を開けた雨竜はぶるっ、とひとつ身震いをした。
扉の内側で半纏を羽織る織姫は、うわあさむいねぇ、といつもの調子で言う。
「ほんとに帰るの?すっごい寒いよ。」
その言葉に自分の冷たい部屋を思い出して、雨竜は少々後ろ髪を引かれる。
‥帰らないって言ったら泊めるのだろうか。
‥まあ、泊めるんだろうな、井上さんは。
もう何かする訳ではないし、泊まるのもいいかもしれない‥そう思ったが、
甘えるのは止めた。
なんだかこのまま泊まるのはバツが悪いというか、格好悪い気がしてしまったのだ。
今更格好つけることもないのだけれど、このまま彼女と居る事が出来るのは、
恋人の資格を得た男だけだと雨竜は思う。
それが将来自分であるかはわからないけれど。
「じゃあ、終業式で。」
雨竜はそう言って軽く微笑む。
「うん、じゃあ気をつけてね。」
織姫も微笑む。
終業式にはきっと普通に会って話せるだろう。
雨竜はそう思い外へと歩を進める。
それは少しばかり寂しいことでもあるかもしれないが、いい事なのだとも思う。
空気は凛として冷たかったが、不思議と昼間よりも暖かい気がした。
暖かさで満たされているのは、きっと胸の内なのだろう。
すう、と息を吸い込んで吐く。
言葉と共に白い息が暗い空に広がった。
「メリークリスマス‥井上さん‥。」
終
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