昔の夢を見た。
遠い遠い昔の夢―――
流魂街「更木」
最も深い闇の底、男は一人歩いていた。
地獄と変わらぬ風景にも慣れ、身も心も「更木」になってゆく。
以前は、永遠にこの闇から抜けることはできないと絶望もしたが、
「更木」の人間になってからそんな考えもいずこかへ去っていきつつある。
―――逃げられないなら、楽しむより他はない
周りが腐っているなら、自分も腐るしかないではないか。
「…ちゃん、剣ちゃん!」
気がつくと、やちるがぺちぺちと剣八の顔を叩いていた。
「なんだ…?いつのまにか眠っちまってたのか」
なかなか起きなかった剣八に、やちるは不機嫌そうな表情を作った。
「なんだよ」
やちるが不機嫌になる理由がわからず、寝ぼけた声で訊ねた。
「剣ちゃん、忘れちゃったんだ…」
不機嫌な顔から泣きそうな顔になるやちるに、剣八は慌てて眠気を追い払う。
「忘れた?何か約束でもしてたっけか…」
「もーいーもん!」
わあああと大声を上げて走り去るやちるを呼び止めようとしたが、
むなしい結果に終わった。
「何なんだ…?」
記憶を掘り起こしても、今日が何かあったのか思い出せない。
「あいつの誕生日でもなし…ん?」
ふと思い出した先程の夢…
「そうか…!くそ、俺としたことが…!」
「ひっく…」
瀞霊廷の外れにある小高い丘、やちるはうずくまって泣いていた。
「剣ちゃん…」
今日は二人にとって大事な日だった。少なくともやちるにとっては。
それは、剣八とやちるが初めて出会った日。
やちるの世界の全てが、この日からはじまったのだ。
当然剣八もこの日を覚えていて…この日を二人で過ごそうって思っていたのに。
―――もう剣ちゃんにとって、この日は大切じゃなくなってるんだ
あの時は、お互いの存在しかなかった。
でも今は違うんだ。
死神になって、隊長になって、一護に出会って。
彼の大切な人はたくさんできて。
大切な人が増えれば増えるほど―――自分は大勢の中の一人に埋もれていく。
やちるだけがあの時から、時間に取り残されて―――ひとりぼっちになってしまったような気がして。
「うわあああん!」
「やちる」
やちるが泣き疲れた頃、剣八はやってきた。
「すまねえ…俺は」
「いいよ、剣ちゃん」
やちる自身驚いた。こんな冷めた声を出せるなんて―――
剣八に背を向け、人形のように淡々と言葉を紡ぐ。
「あたし、勘違いしてたみたい」
心が、音を立てて黒いものに蝕まれていく。
「あれから何十年も経ってるんだもん、それに剣ちゃんも最近忙しかったし」
なんて身勝手で嫌な子なんだろう。
こんなことを言いたいわけじゃないのに。
「あたしなんて―――」
もう何とも思っていないんでしょ!
一番醜い感情を言う前に、言葉が遮られる。
「え…?」
やちるの視界が、突然暗くなった。
剣八の大きな身体が、やちるを抱きしめたのだ。
「俺は…馬鹿だ」
あの時と何も変わりはしない。
やちると出会う前と―――
周りに染まり、思考を止め、何も見ようとしなかったあの頃と。
この世は逃げ場のない地獄と勝手に思い込み…
更木を出るまで、かけがえのない存在に気付くこともできなかった臆病な自分。
そして、また同じことをしていたのだ。
死神となり、ただただ虚を斬り…やちるの心を知ろうともしなかった。
やちるはあの時から変わった。
ただ地面に転がった赤ん坊ではない。考えて感じる「一人の人間」に育ったのだ。
剣八はやちるを抱きかかえ、「帰ろうぜ」とだけ言って隊舎に帰った。
隊舎に帰ったはいいものの…
どこかぎこちない雰囲気が部屋を包んだ。
「おい…何か言えよ…」
「何か言って欲しいの…?」
「…」
「…」
剣八は溜息をつき、とりあえず茶でもいれるか、と立ち上がる。
が…なぜかそれ以上進むことができなかった。
やちるが、袴の裾を掴んでいるからだ。
「おい…」
「いかないで…」
普段のやちるからは想像できないほどか細い声だ。
「側にいて…」
窓から射す茜色の夕日が、やちるを別人のように演出した。
「ね…剣ちゃん」
「何だ…」
「抱いて…」
「な…何言ってんだお前ぇは…」
「言葉通りだよ」
そう言ったやちるは、いつもの天真爛漫さは影をひそめて―――
「剣ちゃん知らないの?抱いてって言ったら、一つしかないじゃない!」
「おい…」
剣八は、今まで見せたことがない真剣な表情で諭した。
「どこで何を聞いたか知らねえが、そういうことを軽く言うんじゃねえよ!」
「何で?」
いつもの天真爛漫さは、影を、ひそめて―――
「どうして言っちゃいけないの?」
「どうしてだと?」
「剣ちゃんあたしに興味ないの?だったら『抱いて』なんて言葉も興味ないよね?」
夕日に背を向け、逆光でやちるの顔は見えない。
だが、やちるの表情がなぜか容易く想像できる―――
「あたしに迫られて…そんな風になっちゃうってことはぁ…」
「やめろ!」
異様な雰囲気をもつやちるに、思わず剣八は怒鳴った。
「お前、おかしいぞ!」
「おかしくなんかないよ?剣ちゃんが今まで気付かなかっただけ」
「何だと…」
「剣ちゃん、あたしたち何年一緒にいたの?その間あたしが剣ちゃんを
どう思ってたか考えたことないでしょ!」
「…」
「あたしは…剣ちゃんと違って―――おんなのこなの」
だから、おとこのひと、好きになるの
愛らしい少女の声が、耳元でそう、囁いた―――
「お前ぇ…黙って聞いてりゃ勝手なことほざきやがって」
剣八は、いらついたような声で唸った。
「お前ぇの気持ちを考えたことあるだと…!?」
剣八はやちるの小さな肩を掴んだ。
「お前ぇこそ俺のことわかってねえよ!俺は女の心なんざわかんねえよ!
俺がそんな器用な奴じゃないことくらい知ってんだろ!!
だからよ…わかってもらいたいだなんて甘えるんじゃねえ!
さっさと俺にわからせろ!なんのための口だ声だ言葉だ!」
やちるの肩をそのまま押し込み―――畳の上に押し倒す。
「お前ぇに、男を誘うってのがどんなことか教えてやるよ…
選択は二つ、『はい』か『いいえ』しかねぇ
それで俺は『はい』しか許さねえ」
剣八は、やちるの耳元で囁いた。
「抱くぞ」
やちるは、剣八に応えた
「抱いて」
『女』が『男』に身体を許した瞬間―――後戻りはもうできない。
柔らかな頬を大きな右手で包み込み、猫をあやすように撫でてやる。
「ん…」
潤んだ瞳を閉じて、やちるは声を漏らした。
そのままその手を顎、首筋、肩へと滑らせれば着物の襟がするりと落ちる。
やちるの体温を感じながら―――空いていた左手が今度はふくらはぎを擦った。
なめらかで張りのある足を、触れるか触れないかの絶妙な具合で撫でていく。
「ひゃ…っ」
くすぐったいような感じがして足を引っ込めようとするが、剣八の手はさらに奥へ―――
太股へと進んだ。
剣八の手が肌を貪り、やちるが悶えるたびに着物が乱れていく。
「けん…ちゃ…ぬがさないの…?」
剣八は剣呑な表情で言う。
「焦んなよ…俺の主義を知ってんだろ?」
楽しみは長く―――戦いも、女も。
一気に服を剥ぎ取るなんて無粋な真似は彼の心に反する。
ゆっくりとほつれさせてから…取り払ってやろう。
服も―――そして理性も。
「ああっ…」
やちるはもう限界に近くなっていた。
その小さな身体を優しく愛撫され、全身が火照ってきている。
それでも、もっと剣八に触れて欲しくて身体を捩らせる。
だが…
「剣ちゃん…ずるいよ」
息も荒く、言葉を発することすらままならないが、これだけは言いたい。
「あたしだけ…こんな」
剣八は手を止め、薄く笑った。
「何だよ」
「うう…」
「さっきも言ったろ。俺はお前の考えてることなんざわからねえ。
わかって欲しいなら…ちゃんと伝えろ」
やちるは剣八の首に、いや正確には襟元に手をかけた。
「あたしだけ触られるの、ずるいの!布じゃまなの!」
やちるが手を引くと、もともと緩く着付けられた剣八の着物が簡単に落ちる。
「あたしだって…剣ちゃんに触りたいんだからぁ…っ」
顔をぎゅっと胸に押し付けるやちるの頭を撫で、剣八はにやりと笑う。
「そうか…なら」
剣八はごろんと仰向けになり、目だけをやちるに向けて言った。
「中途半端にやらずに…全部さわらせてやるよ」
挑発するようにわざと言った。
こういえば、やちるが退くはずがない。
やちるは、小さな手で、慣れぬ手つきで剣八の帯を解いていく。
そこには、女である彼女にとって見慣れぬモノが―――
やちるは少し躊躇った後、おずおずとソレに手を伸ばした。
「わっ」
ちょんと触ると、びくりとはねるソレに、やちるの羞恥心と好奇心が増す。
落ち着きを取り戻し、手のひらでそっと握ってみる。
「それをしごいてみろ」
「しご…く?」
「上下に擦ればいい」
「う…うん」
それだけのことなのに、難しい顔して擦るやちるが可笑しくて、つい噴出しそうになる。
だが、それを悟られればやちるに何を言われるかわからないから―――
そろそろいいか…
剣八も、やちるの帯を解いていく。
「ああっ…」
布が肌を擦る感触ですら、いまのやちるには快楽の源となる。
やちるが一糸纏わぬ姿になった頃、剣八も猛ってきた。
「やちる…」
「剣ちゃん…」
剣八がやちるに入れようとしたとき、やちるが仰け反ろうとする。
「も、もっとゆっくり入れてよ…」
「おい動くな、入んねーだろ」
「だって〜」
「ああ、抜けちまったじゃねえか」
初めての行為で、しかもこの体格差だ。
一応予想はしていたものの…難しい。
「う…うえええん」
「泣いてる場合か」
やはり、ガキだな…
しかし、こんな不恰好な姿勢で固まっているのも滑稽で。
自分でなければ笑いそうだ。
「なんならやめるか?」
「うう…うえっ、それもやだぁ…」
やちるは泣き声を飲み込んで、再度剣八に抱きつく。
剣八もやちるを抱き寄せ、優しく囁いた。
「俺の目をじっと見てろ…目をそらすな」
「はぁっ…あああっ!」
一度入り口をこじ開けてしまえば、後は勢いにまかせて入ってくる。
やちるは、その感覚に驚愕した。
痛いのは慣れている。戦闘部隊である十一番隊に身を置く限り、
生傷が絶えないからだ。
だが、これはなんだろう―――?
下半身の違和感に思考はおろか、剣八の存在すら忘れそうだ。
予想すらしていなかったためか、ひどく頭が混乱する。
剣八は奥まで入れた後、やちるの様子を見て何となく不安になる。
「おい、大丈夫か?」
「剣ちゃん…これが、ひとつになるってことなの?」
今まで知識は何となくあった。
隊員たちの猥談や、他の隊の女性隊員たちの井戸端会議で、
大人になったらそういうことをするんだってことを知った。
だけど…
「こんな感じだったんだ…っ」
「嫌になったか?」
「わかんない…思ってたのと違ってたから…」
子供扱いをされるのが悔しくて、何も知らないのが悔しくて。
だから背伸びして、こうして抱かれてる。
「じゃあ、これから覚えろ」
剣八はやちるの額に軽くキスして、手首を重ねた―――
終
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