「誰だ!俺のふんどしの隙間からちょっとだけカニ入れてる奴は!」
言うなり一角は自分が作った砂の家から顔を無理矢理引き出した。
勢い掘っていた砂のトンネルの天井部分を半分壊す事になってしまい、
バランスを崩した砂の家はそのままドシャリと同じくトンネルを掘って
いた恋次と一護の頭に崩れ落ちる事となる。
「ぼふぁっ」
「ぎゃーっ」
それぞれ逃げ遅れて奇妙な悲鳴を上げ、上半身を砂に埋めるはめになっ
てしまった二人は、このままでは死ぬ!と慌てて砂から逃げようと暴れた。
「あはははは!何やってんのあんた達ー」
と、一護の背後から楽しげな乱菊の笑い声が憎たらしく響くが反論出来
る余裕はなく。
「だ、大丈夫?!」
と、慌てた声の織姫に格好つけて応えられる暇もなく。
必死とか決死とか、そんな勢いでじたばたと暴れて、二人はようやく
砂の中から頭を出す事に成功した。
「一角さん!いきなり何すんですか?!」
「げー、砂が口ん中入っちまった」
遠くカニをもったまま高らかに笑いながら逃げ回るやちると、かなり
本気で悪戯盛りのお子様に怒って取っ捕まえようとしている、大変
大人げない禿頭に困り顔でツッコミを入れる恋次。
その姿を横目でちらりと見たが、諦めたようにため息をついて頭に
ついた砂を払う一護。
その一護の側におろおろと織姫がよって来て、心配そうに覗き込んだ。
「黒崎君大丈夫?砂食べちゃった?」
「あー、大丈夫大丈夫。大した事ねーよ」
砂の家のトンネル掘り競争なんてガキっぽい遊びに興じた挙げ句、
死にかけました(大げさ)なんて格好悪くて居心地悪く、一護は織姫を
振り返らずひらひらと手を振ってみせる。
織姫は心配そうにみていたが、あ、そうだ。と手をぽんと叩くと
「お水くんでこようか?」
と至極無難な提案をした。
が
一護は直前に乱菊と織姫の「非常に特殊な水の汲み方」の話を聞いて
しまっていた。
うっかり織姫がその豊かな胸を両手で突き出す様に持ち上げ、深く
作った白くすべらかな谷間に水を溜めて、自分に差し出す様をまざ
まざと瞼の裏に想像してしまった。
しかもその白い胸に顎を埋めて、織姫の胸から水を舐める自分なんか
想像したりして、舌がうっかり織姫の肌にあたった場合の感触なんか
思い描いたりして、そしたら織姫がどんな風に声を上げるんだろうとか
一秒もかからずに幻聴が聞こえそうな所まで考えてしまい、瞬間的に
硬直してしまった。
「い…」
「あー、一護スケベな顔してるわー」
「あん?なんだお前、何固まってんだよ」
年頃の少年らしいエロ妄想はしても、プライドにかけて必死に顔に出さ
ないで織姫に格好よく「いいよ、気にすんな」等というつもりだった
一護より早く、織姫の背後にいた経験豊かなお姐さんと、空気を読めない
赤毛の朴念仁が同時に一護にツッコミを入れる。
経験不足にして年頃の少年らしく、図星を指された一護はそのどちらにも
反応出来なかった。が、応えなければスケベな想像して固まったと認める
ようなものである。まあ事実なのだが、それが余計に一護の神経を逆撫で
した。
八つ当たりの矛先を当たり易い恋次へと向けて、怒鳴り散らしてやろうと
顔を上げて、乱菊の人の悪い笑みと目が合って再度固まる。
「織姫〜、一護やっぱ水が飲みたいみたいよ」
「え、あ、うん。じゃあくんでくるね」
事態をちっとも理解していない天然爆乳娘は、何かいつもとリアクション
の違う一護をきょとんとしてみていたが、乱菊に背後から話しかけられて
笑顔になった。
うっ、とやましい青少年が更に硬直しているのを見て、恋次が遅ればせ
ながら何の話か気がついた。そして止せばいいのに口に出して納得する。
「ああ、そういう事か」
「え?」
「あ、えーと、なんだ。どやって水汲んでくるん」
「井上!水汲んでこなくていいぞ!!俺向こうでシャワー浴びて砂おと
してくっから!!」
正直者の恋次が織姫に説明しようとしたりするので、一護は大慌てで
遮って砂浜の奥に設置されているシャワーまで逃げていってしまった。
「照れちゃってまー、ねえ織姫、お水くらい汲んでくるのにねー」
「うん、コップは売店の紙コップ貰ってくればいいんだし。
黒崎君どうしたのかな?砂の中に何かあったのかなあ」
「ふふふっ、そうねー、どうしちゃったのかしらねー♪」
分かっててしらばっくれる乱菊と、まったく理解していないらしい織姫
のやりとりを聞きながら、恋次はゆっくりルキアの方を振り返る。
あー、まー、俺にはない楽しみだよなー等と、奇怪な砂のオブジェを
作る小さな背中を残念そうに見つめた。
「恋次も何かやってもらいたいんだ?」
やってもらうとしたら、そうだなあ、ワカメ酒くらいか?
「ワカメ酒って?」
「あー、ほら。相手に正座してもらってよ、膝の上に酒を注いでよ」
「??、ワカメって?」
「んだよ、んな事も分かんねーの…か…」
「?」
ルキアの背中を見ながらぼんやり考えていたため、恋次はうっかり乱菊
の誘導尋問に引っかかった上に、何も知らない織姫の疑問にまで答えて
しまっていた。
はっと気がついて振り向いた先に、織姫の純真無垢な丸い目とばっちり
あってしまい、恋次は青くなって硬直した。
しかも運悪く、背後のおかしな空気にルキアが気がついた。
「なんだ、どうした恋次、井上?」
「あ、あのね朽木さん、ワカ」
「うっわー!!まてまてまて!!」
「???でも、恋次くん?木さんに」
「いやいいから!仮定だから!」
他意のない織姫は、して欲しい事があるなら伝えた方が、という姿勢
だが、恋次にとってはただのエロ妄想なぞ、伝わってしまうと居心地
悪い事この上ない。しかもルキアの側でこれまた怪しい物体を作成し
ている、恐ろしく過保護なルキアの義兄の前でそんな妄想をしていた
事がバレたら、命も危うい。
「なんだ恋次、私にいえない事か」
「いやっそのっいえないっつーか別に知らなくていいつか」
「ふふーっ♪、恋次は朽木に助平な想像しただけよ」
「は?」
乱菊が何やら得意げに横からちゃちゃをいれ、今度はルキアがきょとん
と乱菊を見返した。織姫は相変わらずあれ、そうなんですか?と全然
分かっていない目を向ける。恋次の背中に冷たい汗が流れた。と、
「げっ、白哉!斬魄刀なんてどっから出したんだ」
という一護の慌てた声が聞こえ、冷たい汗に加えて脂汗を全身に感じ
ながら、恐る恐る恋次は朽木白哉の方を振り返った。
そこには、背後に妖気を感じさせるオーラを纏ったシスコンが、さっき
まで確実になかったはずの斬魄刀をさやから抜き放った所だった。
どういう妄想でも助平なだけでだめですか?!という声にならない叫びが
恋次の脳内をこだまする。
乱菊はとうに岩陰に向かって猛ダッシュしていた。
「兄様?」
「ふえ?」
「たっ隊長!早まらな…」
「散れ」
「井上逃げろっ」
慌てた一護が織姫を肩に担いで瞬歩で海に飛び込むのと白哉の刀の解放
と恋次がルキアを横抱きにして瞬歩で浜茶屋の向こうへ逃げ込むのは
ほぼ同時だった。
「ぷはっ」
「あ、ありがとう黒崎君」
「おう」
一護と織姫が海面に顔を出して浜辺を望めば、乱菊が楽しそうに岩場で
笑っており、同じく避難したらしい一角とやちると談笑している。
最初にいた浜辺の周辺からは破壊音と恋次の悲鳴に近い弁明の声がとぎれ
とぎれに聞こえるが、砂煙で何も見えない。
「結局なんだったんだ」
しばし席を外していた一護は話がみえない。
「えっとね、恋次君は朽木さんにワカメ酒をして欲しいんだって。
でも教えたらだめで、乱菊さんが助平って。そうなの?」
「ワ……、そうだな」
一護はやたら経験豊富な友人とやたら興味津々な友人のおかげで、妙に
知識だけは豊富なのだった。
ワカメ酒って、どこの時代のエロ親父だよと、脳内でツッコミを入れる
一護に織姫が先程からの疑問を投げた。
「黒崎君はワカメ酒ってどういうのか知ってるの?」
「う、まあな…知りたがる事でもねーよ」
「ふうん、でもすごいね!黒崎君って物知りなんだね!」
「物知りって、それも古い言い回しだな」
「そっかな?あ、お笑いではよくいうよ」
「噺家の口上なら余計古ぃ」
話を上手くはぐらかせた事と、現状に一護はとても満足して浜辺の喧噪が
終わるのを待った。
何と言っても今は右手に織姫を抱えた状態で海に入っているのである。
細くくびれた腰にまわした腕に織姫の滑らかな肌は心地好く、脇のすぐ
下辺りに密着する胸の柔らかい感触はちょっと表現しにくい類いの至福
を一護に与えていた。織姫の細く小さな手が、そっと一護の肩に置かれ
ているのも、なんとも言い難い感触である。
密着している事に気がつき、頬を染め、はにかんだ様に笑って上目遣い
に見上げてくる織姫は、このままおいしくいただいてしまいたいくらい
にはかわいかった。
恋次、当分やられんなよ、と大変無責任にエールを送りつつ、一護は
つかの間の至福を満喫した。
終わり
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