「あー…お誕生日おめでと、七緒ちゃん」
カッコよく、花弁をセルフで撒き散らしながら花束持って登場したつもり、だったんだけど。
瓦のところで足を滑らせて、結果、凄まじい音を立てながら軒先に落下してしまった訳で。
何とか花束は両手で綺麗に死守して、変わりに傘がころんと土の上に転がった。
屋根の上からかけた声で障子を開けていた七緒ちゃんは、ぽかん、と呆れた顔をした。
「…驚かせないでください、京楽隊長。星が落ちてきたのかと思いましたよ」
縁側に出て僕を覗き込む七緒ちゃん。
少しも心配そうにしないそのクールビューティーさがまた大好きだ。
「星?そりゃいいねぇ、僕は七緒ちゃんを迎えに来た彦星ってことで」
「お断りします」
両手を広げて笑顔で言うと、間髪居れずぴしゃりと断られた。
つれないなぁ、と頭をかいたら、七緒ちゃんは僕の前でしゃがんで。
「…私、同じ七夕ならカササギで居たいんです…」
そう言う七緒ちゃんの笑顔が少し悲しげで、思わずしげしげと覗き込む。
「護られるだけの女でも、来ぬ人を恋焦がれて待ち続けるだけの女でも、居たくないんです」
静かな言葉。だけど強い、間違いない七緒ちゃんの意思。
呟くように話す七緒ちゃんの手に僕の手を伸ばして、優しく握る。
持っていた花束を七緒ちゃんに預けてゆっくりと立ち上がると、僕はウィンクして笑ってみせた。
「七緒ちゃんはとても可愛くて魅力的な女性さ。誰より僕がよく知ってるよ」
少し目をぱちくりとして、かっと七緒ちゃんの頬が赤くなる。
あぁ、そういうところが可愛いんだ。誰にも見せたくないくらい。
「ところで七緒ちゃん」
「?何ですか隊長…」
「いや、意外とこの季節暑いんだねぇ、屋根の上で待ってたら汗かきまくっちゃって…」
「早く湯浴みに行かれてくださいッ!!」
花の香りに誤魔化されて匂いは消えていたんだけど、額やら首筋やらを
たらたら流れていく汗を笑いながら指差すと、七緒ちゃんは怒った顔をしてそう言い放った。
口を尖らせて小言言ってくれるところも可愛くて、愛しい。
改めて実感する。あぁ、僕は七緒ちゃんの全てが大好きで愛してるのだと。
「七緒ちゃんの部屋のお風呂、貸してくれる?」
握っていた手を引き寄せて、その白くて華奢な手に口付けひとつ。
甘くそう囁けば、七緒ちゃんは益々頬を赤くした。
うん、明日は僕も七緒ちゃんも非番だ。というか、非番になるようにしておいた。三ヶ月前から。
もちろん、お風呂だけ借りて終わるつもりはない。
「…駄目かな?」
もう耳まで真っ赤にしちゃって、僕と視線を合わせずに居る七緒ちゃん。
お風呂の後のもうひとつのお誕生日プレゼント、当然感づいているんだろう。
七緒ちゃんは、少し僕から視線を外したまま、ぼそぼそと。
「汗臭いまま帰られて、夏風邪でもひかれたら困ります、から…どうぞ…」
「うん、じゃあお邪魔しようかな」
照れたまま呟くその口調が、いつものツンとした様子とかけ離れていてまた可愛くて。
ゴメンよ、天の川に阻まれる恋人達。
君たちを渡してくれるカササギは、今夜は僕が独占させてもらうから。
なぁに、幾億年の中の一年だ。悪いが今年は我慢してくれ。
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