「ハイ、どーぞ」
深夜、浦原商店の暗い廊下に細く光が漏れていた。
「キスケのお城」と大書きされた札が下がる襖の隙間からである。
そして煌々とした灯りの下には胡座をかく小柄な女がいた。
褐色の肌に薄い襦袢を一枚羽織ったきりで、下ろした黒い髪は風呂上がりなのか
湿り気を帯びて蛍光灯の黄色い光を跳ね返している。
尊大な態度でふん反り返る前にちょこんと置かれた白い皿には、
湯気を立て甘く香ばしい香りを放つ菓子が乗っていた。
程良い狐色のそれの上で、今にも溶けて崩れそうなバターがてらてらと光っている。
大きな黄金色の瞳を瞬かせながら確かめる様に覗き込み、
大きく息を吸い込んでその香りをまず堪能した夜一が言った。
「ほっとけーきじゃな」
「この間テッサイがおやつに出した時、夜一サンたら『美味い美味い』って
アッと言う間に平らげちゃったでショ。んで、アタシも作ってみました」
ハイこれ、と隣りから浦原が差し出す瓶には黄金色の蜜。
「黒蜜も美味いが、ちと甘ったる過ぎる。やはりほっとけーきにはこれが良いな」
「メイプルシロップって言うんスよ」
浦原の言葉を聞き流しつつ受け取った瓶を傾ける。零れ落ちた黄金色は、瞬く間に狐色に黒く染みた。
夜一は満足げに目を細めると、切り分けもせず
フォークを突き刺したケーキを口元まで持っていき、思い切りかぶりついた。
「ンむ……美味い…」
頬張りながら言うと、浦原は嬉しそうに口元を綻ばせた。
* * *
「ぷはーッ、美味かった!」
フォークを皿の上に置き、傍らのミルクを一気にあおる。
食べカスすら残っていない綺麗な皿に目を遣り浦原は苦笑した。
「全く。こぉーんなカロリー高いお夜食も、夜一サンならではっスね」
「可笑しなものじゃな、風呂に入ったらまた腹が減ってのう」
「……もう満足っスか?」
口元をぬぐいつつコクリと夜一が肯くと、浦原は夜一の肩に手をまわしぐいと引き寄せてきた。
「じゃァ食後の運動がてら、今度はアタシが夜一サンを頂く番ですね」
言うなり深く唇を合わせる。そのままのし掛かられて、夜一の体は畳に沈んだ。
浦原の舌は夜一の口の中をぐるりとなぞる。
上顎の裏を撫でた時、浦原の舌を追い掛けていた夜一の舌がびくりと震えた。その隙を逃さず今度は深く絡め取る。
「…んんっ……ぅ……」
クチャ、クチャッという音が明るい部屋に響き、次第に互いの息が荒くなってきた。
まるで酸欠にでもなったかのように頭の芯が痺れて来た頃に、漸く浦原は唇を放した。
「夜一サンの…口の中……甘い……」
「……ほっと…けーきを、食べた、から、の……」
目を閉じて息も絶え絶えに言う夜一の唇は濡れている。
それを親指の腹でぬぐうと、浦原は夜一の襦袢の襟を割り開いた。
夜一の呼吸に合わせて大きく上下する、プルンとした褐色のふくらみが現れる。
いかにも研究者らしい長い指を持つ、ごつごつとした手でそっと触れた。
その大きな手で包んでもまだ余る両のふくらみを
すべすべとした感触を楽しむように撫でまわし、手の平でそっと淡く色づく乳首を転がした。
「ぅん…」
緩い刺激に夜一の声があがる。ゆっくりと下から掬い上げる様に、
円を描く様にしてふくらみを捏ねると声が大きくなってきた。
「あぁん……あぁ……ぁん…」
手の動きに合わせて柔らかく体を震わせる夜一の首筋を強く吸うと、
すっかり乱れて解けかけた夜一の腰帯を引き抜いた。
そのまま襦袢を開き、左の手の平でなめらかな腹を撫でるとびくりと体が震えた。
その大きな手から解放された片方のふくらみの中心で、色づいて震える乳首をねっとりと舐めあげる。
「ぁんっ」
唾液に濡れていやらしく光る乳首を強く吸い上げ、唇で食んだままチロチロと舐める。
右の手もふくらみを優しく揉みつつ、その器用な指先ですっかり固くなった乳首を擦ってこりこりと捏ねてやると、
夜一はすすり泣きのような声を漏らした。
「…んん……ぅん……」
その間にも浦原の左の手は夜一のなだらかな腰の線を辿っていく。
なめらかで弾力のある腿を優しくなぞり下ろすと、今度は内腿から撫で上げた。
「ひゃん…っ」
その浦原の左の手の平の動きに、期待するかのように夜一の腰が大きく跳ねる。
しかし浦原の手は内腿を優しく撫でさするように行き来するだけ。
そして口内で散々弄び濡れそぼった乳首にフッと息を吹きかけた。
「あっん…」
新たな刺激に、夜一の高い声が響く。
「片方だけじゃ、不公平っスからね…」
そう呟きながら、それまで指先で刺激していたもう一つの乳首に吸い付いた。
チュクチュクと乳飲み子の様に音を立てて吸い、時折ふくらみ全体を舐めあげ、甘噛みをする。
空いた右手は、左手と同様に夜一の触れて欲しいところには行こうとせず、意地悪く褐色の尻や腿を撫でまわす。
「……っき…………きす…け………もぅ…」
緩い刺激だけを与え続けられ、すっかり快楽にとろけた夜一は消え入りそうな声で懇願する。
「もう、何?」
乳首を食んだまま答える浦原に、夜一の体の細かい震えは止まらない。
「…は…や、く………」
そこで初めて浦原は顔を上げ、褐色のふくらみと固く育った乳首を解放した。
夜一の顔を覗き込み、いつもは誰よりも強い光を放つ黄金色の瞳が快感に潤み
今にも雫をこぼしそうになっているのを見ると満足げに微笑んだ。
そして夜一とは対照的に一糸乱れぬ体を起こすと胡座をかいて座り込み、夜一の腕を引いて起きあがらせる。
引いたその腕の小さな手を掴み、自らのものにそっと触れさせた。
「ねぇ夜一サン、その前にアタシのも…」
「……………」
観念したように甘く息を吐いた夜一は、へたり込んだ体で震えながらも浦原の硬く屹立したものを取り出した。
既に先からぬらぬらと光っているそれを柔らかく掴み、まず先端にくちづけようとした時、
「アッ、待って夜一サン」
制止の声に夜一は顔を上げると、浦原は腕を伸ばし何かを取り上げたところだった。
「夜一サン、このシロップお気に入りでしたよね」
そう言いながら手の中で揺らすのは黄金色の蜜が揺らめく瓶。蛍光灯の灯りを受けてきらきらしている。
「夜一サンが大好きなアタシのと一緒に食べたら、きっと、もぉっと美味しいっスよ」
へらりと笑うと、瓶の蓋を開け傾けた。
目の前のそれを黄金色が滴り落ち、添えている己の手をも濡らしていく。
その光景をぼんやりと見ながら、「綺麗じゃな」などと夜一は場違いな事を考えていた。
「ホラ、夜一サン」
浦原のその言葉に弾かれたように肩を震わせ目を瞬かせた夜一は、ねっとりと舌を這わせて根本から舐め上げていく。
雁の部分に辿り着くとぐるりと舐めまわし、とがらせた舌で裏筋をくすぐって上からゆっくりとくわえ込んだ。
頬をすぼめて唇と舌を使いながら顔を上下させ、時折じゅるじゅるとすすり上げると口の中のものは体積を増した。
両の指は、滴り落ちる蜜を掻き上げるように動く。
「美味しいデショ?」
「ん……ぅ…甘くて……しょっぱく…て、おいし……」
問いかけに夜一は、やっとそれだけ言うとまた幹に舌を這わせていく。
そして黄金色の蜜をあらかた舐め取ってしまうと、今度は手で寄せた自らのふくよかなふくらみで幹を包み込んだ。
「きすけ……もっと……」
「ハイハイ、夜一サンはワガママっスねぇ」
言いながら男が瓶を傾けると、蜜が垂れ落ち褐色の胸元を汚した。
黄金色に濡れたやわらかな谷間からのぞく男の先端を、夜一はまるで黒猫が皿のミルクを舐めるかのように
ぴちゃぴちゃと音をたてながら舐め始めた。
寄せたふくらみを体全体で揺すると、ニュルッ、ニュルッ、という感触と共に
流れ落ちた蜜が谷間からも淫猥な音をたてる。
「夜一サンのオッパイ、ヌルヌルしてていつもより気持ちいいっスよ…」
「んん……ふぅ……」
答えずに夜一は夢中で舌を使い、時折頬張る。肘をついた格好で這い、高く上げられた尻がゆらゆらと揺れ始めた。
それを認めた浦原は静かに体勢を動かすと、夜一の脚の間に腕を伸ばし掠めるようにそこに触れた。
「ひぁ…っ」
待ちに待った刺激の急な訪れに夜一の体が崩れた。頬張っていたものも吐き出してしまう。
男の指は柔らかいひだを浅く掻き分け、濡れた割れ目をゆるくなぞる。それだけでもクチュ、と水音がした。
「ぁ……あぁ……」
今にも滴りそうなほど潤ったそこに指を二本、もう少しだけ深く入れて動かしてやる。
水音は高くなり、尻を揺らめかせる夜一の半開きの口が透明な糸を引いた。
それでもいたずらな指はまだ膨れ上がった核には触れてこない。
「ふぁ……あ……ぁ」
「夜一サン、上のお口がお留守になってますよぉ」
じゅぷっ、ちゅぶっ、と音をさせて深く出し挿れしながら言うと、
肩を震わせながらも手を添えて懸命に舌を這わせてくる。
「くわえて、夜一サン…」
とろけきった黄金色の目で、それでも言葉は耳に届いたのか夜一は腕をついて今や透明な蜜で光るそれを咥内に深く導いた。
「ん…む…ぅ……」
健気にも僅かに舌を使おうとする。それに浦原は一瞬息を詰めると
「──ご褒美をあげる」
言って夜一の口の中に青臭い白濁を吐き出した。
「んんっ……ぅ……っ」
「夜一サンの大好きなミルク、ぜぇ〜んぶ飲むんスよ」
「…んっ…んくっ」
分けて吐き出されたそれを夜一はコクン、コクンと飲み下していったが、それでも飲みきれずに
白濁は赤く熟れた唇から褐色の肌に零れ、同時に幹を伝った。
「あーあ、勿体ない」
そうこぼしながら指の動きを再開する。クチュクチュと小刻みに、揺するように動かすと
いまだ硬度を保った男のそれを夜一は吐き出した。
「…ふぁっ……」
反動で揺れた幹が夜一の顔を叩き、汚した。それに構うことなく夜一は幹に手を添え、先端に頬を寄せる。
「き、すけ………もぅ………」
息を荒げながらもそれに愛しげに頬を擦り寄せ、懇願した。
「どうしてほしいの?」
言いながら指をそっと引き抜いた。とろりとした液が手の甲を垂れ落ち、黄色っぽく焼けた畳に染みを作る。
夜一は力の入らない両腕でどうにか体を支えながら起きあがった。
のろのろと動き男に尻を向け、大きく脚を開いて四つん這いになると大きく息をついた。
片手を前にまわし、雫をこぼすそれを震える指でそっと開く。
潤いには触れない。自ら触れるよりも更に強い快楽を与えてくれるものを知っているからだ。
「……挿れ、て……」
「───夜一サンたらインラン」
まァそんなの昔っから知ってましたけどね。そう言いながら男はじっとりと濡れた指を舐めた。
腰を上げると片手で夜一の尻を掴み、もう片方の手でいきり立った自身を数回擦って
夜一の濡れそぼったそこに押しあててやる。
「……はぁっ…」
ニュルニュルッと先端で濡れた割れ目を焦らすように行き来した後、ゆっくりと沈めていった。
「…あ、あ、あぁ……」
神経が焼き切れそうなくらいにずっと求めていたものが漸く埋められていく感触に、夜一は歓喜の声を漏らす。
しかしそれは全てを埋めきる前に、中途半端な位置で小刻みに揺れ始めた。
「あんっ、あっ…あぅ…」
もどかしい、しかし今までとは比べものにならない刺激に感じ入るように
夜一は固く目を閉じながら自らも腰を揺らめかせる。開けっぱなしの口の端からは止めどなく雫が垂れた。
「…ゃぁ…あっ、もっと…奥、に……」
「ハイハイ」
答えるなり浦原は一気に腰を突き入れ、激しく動かし始めた。
「あぅっ、あっ、あんっ、そこっ、イィっ…」
ガクガクと揺さぶられ、四つん這いになった夜一の豊かなふくらみが激しい動きに合わせてたぷんたぷんと揺れる。
それを後ろからまわした手で鷲掴むと、キツいくらいの夜一の中が更にきゅっと締まった。
「あぁんっ…」
激しく腰を動かしながら片手でふくらみを千切れそうなほどの力で揉み、
もう片方の手はぐちゅぐちゅとはしたない水音を立てる結合部に伸びると、トロトロに熟れきった核に初めて触れた。
「あぁーーーーーーッ」
ぷしゃぁっ、と夜一のそこが潮を噴き、夜一はビクビクと震えながら崩れ落ちた。
「ぁっ、あぁ…あぁぁ…」
極まった感覚に酔い、全身をひくひくとさせる夜一のなめらかな背中を浦原は見下ろすと
いまだ達していないそれを引き抜き、ぐったりとした夜一の体を反転させた。
どかりと座り込むと、震える夜一の両脇に手を入れて起こし
力の抜けた脚を大きく開かせ、今度は向き合うように自分の上にまたがせた。
「夜一サン、まだ終わってないっスよ」
焦点の合わない目を覗き込みながら言っても夜一はぼんやりとしている、
そこで僅かに黄金色の蜜を残す瓶を手に取り、夜一の胸元で傾けた。
「はぅっ…」
イったばかりの敏感な体をゆっくりと、むせ返るような甘い匂いを撒き散らしながら
垂れ落ちていく蜜の感触に夜一は目を見開き、息を詰める。
浦原は空になった瓶を投げ捨てると、震える乳首を濡らす蜜ごと舐め上げた。
「ひぁんっ」
そして両手で夜一の尻を抱え上げ、一気に己を呑み込ませた。
「うぅんっ…」
間髪入れずに先程とは比べものにならないくらいの激しさで動き始める。
「あんっ、あっ、あぁっ、らめっ…きす、けぇ……」
揺さぶられ、度の過ぎた快感に夜一は涙をこぼしながら、ろれつのまわらない舌で懇願する。
「壊れっ……壊れるぅっ……あぁん…」
それでも男の動きは止まることはない。本当に夜一の事を壊そうとするかのように、激しさを増した。
いつしか、夜一の一際高い声が暗い廊下に響いた。
* * *
煌々とした灯りが照らす、甘ったるい匂いと独特の性交の匂いが混じる部屋で、細く煙が立ち上っていた。
浦原は煙管をくわえながら目線を横に遣る。
そこには布団が一組、こちらに顔を向け深いに眠りに就く女がいた。裸の褐色の肩が掛布からのぞいている。
夜一の襦袢も自分の作務衣も、蜜や汗やなにやらでドロドロになってしまった。
夜一が元々座っていた座布団なんて、もう捨てなければいけないだろう。しかし畳は拭いただけでどうにかなりそうだった。
部屋の隅の文机に置かれた、くたびれた帽子だけが難を逃れていた。どうせ同じものは何個もあるのだけど…。
「…………それにしても、」
目線を更に先に遣ると、転がった瓶が目に入る。ほんの数時間まで甘い黄金色の蜜に満たされていたそれは
空になってひどくみすぼらしく見えた。
「あんなに気に入るとは思いもしなかったっスねぇ」
いつも勝ち気な態度で自分をやり込めてくる、誰よりも強い、
だけど可愛い女が大層お気に召したらしい狐色の菓子。黄金色の甘い蜜は必需品だ。
あんなに悦んだ姿が見れるのなら、また焼いてやろう。今度は沢山のフルーツでデコレーションして…
「あと、生クリームもたぁっぷり用意して、ね」
呟きは誰に聞かれる事もなく、男は煙管を美味そうに吸った。
<おわり>
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