「失礼します隊長」
「松本か、どうした?」
時が夜中の一時を回ろうかという時間、松本乱菊が日番谷冬獅郎の部屋を訪ねると彼は寝巻きに身を包みベッドの上で難しげな書籍を広げていた。
乱菊もまたその身を寝巻きに包み冬獅郎よりはかなり高い視点から自らの隊長を見つめる。冬獅郎の鋭い眼光に貫かれても彼女はひるまない。
冬獅郎には彼女の視線が憂いに満ちているように思われた。
普段は能天気な彼女の眼に宿るその光に冬獅郎は眉を顰めた。
「どうしたんだ? 松本」
「隊長…………」
乱菊の声は含みを持っていた。相手に何かを伝えなくてはいけないのにそれを伝えていいのか分からない。そんな遠慮が滲み出ていた。
もちろんそれは違和感として確かに相手に伝わった。
「どうした。何かあったのか?」
「その……隊長、こんなこと言っていいのか……」
「言え。隊長命令だ」
優しさをかけても彼女が自分に従わないことが分かっている冬獅郎は、彼女の立場を明確にさせることで彼女の抱いている負を隊長として受け止めるようにした。
予想通り、乱菊は少しだけ悩んでからその重い口を開いた。
「隊長…………あの」
「…………」
「あのですね」
「…………」
「……良い子はもう寝る時間ですよ?」
「は?」
訳が分からない。そう冬獅朗は表情で伝える。
「もう一時です。良い子はもう寝ましょう」
「…………何が良い子だ。俺がこの時間まで起きてる事なんて珍しくもないだろうが」
「え、いや、はあ、それは、そうですけど」
「そうだろ。なんだ? それだけを言いに来たのか?」
「いえ、あの、その、他に用が、無きにしも非ずって言うか」
もじもじと後ろで手を組んでいる乱菊を冬獅郎の視線が厳しくねめつける。
ふと、冬獅郎は乱菊が後ろでくんでいるその手に持つ物を見つけた。
そうして彼女が何故自分の所に来たのか理解した。
そしてため息をつく。
「…………お前、まさか眠れないのか?」
「え?」
「なんなんだ……その手に持ってる枕は」
「えあ? これですか?」
「大方おかしな夢でも見たんだろう」
「そ、そうなるのかな……」
「霊圧が乱れてる。こっちに来い松本」
乱菊は言われるがままに自分より見た目の幼い冬獅郎の元に寄った。その見た目とは相反する彼の存在感が乱菊を優しく包み込む。
乱菊が冬獅郎の前に立つと彼はその凛々しい瞳のまま笑った。
「手を出せ」
「…………はい」
片手で枕を持ち、残った手を差し出す乱菊。冬獅郎はその手を握る。
「どうだ?」
「どう、とは?」
「人に触れると、落ち着くだろ」
「…………」
「今日は特別だ。お前はこのベッドで寝てろ。俺は布団を借りてきて隣で寝てやるから」
そう言って笑った冬獅朗はその場で立ち上がり乱菊の横をすり抜けるように部屋を出て行こうとした。乱菊の横をすらりとした存在が抜けていく。彼女を、冬獅朗は部屋に取り残そうとした。
しかしその行動を乱菊の震えた声が押しとどめた。
「待ってください。隊長」
その声に冬獅朗は振り返る。それを確認して乱菊は続けた。
「その…………今日は、一緒に寝てください」
「……だから隣で寝てやるといってるだろ」
「違うんです……一緒の布団で、寝てください」
暗がりの中でも分かるほど顔を紅くした乱菊の顔を見て、冬獅郎はまたも眉を潜めた。
冬獅郎のベッドは当然のように一人で眠るために作られたものだ。
隊長たちの中には妙に趣味のいい部屋を使用している者もいるが、彼の部屋には必要最低限のものしか置かれていない。しかも外見年齢に比例して小さなその体に大きな寝床が必要とされるはずがないのだ。
乱菊と冬獅郎が同じベッドに入ると、二人の体の間隔はほぼ無に等しかった
お互いに背を向けてはいるが、少し体を折ると二人の背中や腰の辺りがすぐに接触し否応無しにお互いの存在を知らしめる。
乱菊の、戦場に出るものには似つかわしくない柔らかな体が、
冬獅郎の、その外見には似つかわしくない角張った体が、
二人がそこにいることをお互いに確かめさせる。
目をつぶっていると、自分の後ろにいるはずの人間の呼吸音だけをそこに見つけた。
ふと、乱菊が声帯を震わせる。
「隊長……」
「…………なんだ」
「…………こんなことしてるの、私たちだけですかね?」
「……どうだろうな。少なくとも副隊長以上なら、そうじゃないか」
「はは、そりゃそうですよね」
乱菊の笑いに合わせて、二人で共有する掛け布団が揺れる。
「あ、でも、意外と五番隊なんて」
「雛森か」
「とは言っても隊長副隊長が男女のところなんてあとは二、八、十一、十二番隊しかないんですよね。
しかも二番隊は砕蜂隊長さんがすごく厳しい方だと聞くし、八番隊は副隊長がああですし、十二番隊は……ないでしょう。
まあ十一番隊くらいですかねえ、やちるが更木隊長にべったりですから」
「なあ、松本」
「そういえばあれらしいですよ。何番隊かは知りませんがどこかで隊員どうしの恋愛事が」
「おい、聞け、松本」
「…………」
ぺらぺらと、何かを振り払うかのように喋る松本の言葉を冬獅郎が止めた。
目を閉じたまま、背を向けたままだが、その意識の全てを冬獅郎は松本に向ける。
「…………どうした」
それだけしか聞かなかった。
でも、それでも、松本を貫く言葉だった。
「……………………」
冬獅労の背後で、松本が寝返りをうった音が聞こえた。
その吐息と声が、冬獅郎の背に直接当たった。
「…………夢を、見ました」
「…………」
冬獅郎はいちいち相槌をうたない、そんなものを乱菊が望んでいない事くらい分かっていた。
乱菊は続ける。
「夢の中で私は子供でした。1人ぼっちでした。周りには、だれもいませんでした。来る日も来る日も、私は泣いていました。
寂しかったんです。助けて欲しかったんです。誰かに、側にいて欲しかった。そしたら、1人の人が私に手を差し伸べてくれました。私は喜んでついていきました。
その人を信じてたんです。なのに、その人も突然私の前からいなくなりました。また独りぼっちになりました」
乱菊の声は震えていた。
「私は、独りぼっちが、怖いんです」
「…………」
「たまに同じような夢を見るんです。それでも近頃はなかったんですけどね。久しぶりに同じ夢を見たら、急に不安になって、皆、皆がいなくなってるんじゃないかって思いました。隊長も、みんなみんなみんな」
冬獅郎の体は乱菊の体温を感じた。気がつけば乱菊が冬獅郎の体に腕を回していた。自分の隊長が、自分の前から消えるのではないか、その不安が起こした行動だった。
乱菊は冬獅郎の小さな体を抱え込むように抱きしめる。
冬獅郎はいまだ目をつぶったまま乱菊の行動を拒否しなかった。
ただ、呟いた。
「俺は、消えねえ」
「…………」
胸の前で組まれる乱菊の両手を冬獅郎はその手で握った。
「俺は、お前の前から消えねえよ」
「…………隊長」
「…………」
「……………………ありがとうございます」
そう言って乱菊は口元で笑った。冬獅郎にもそれが分かった。
「……だからもう寝ろ。明日も早い」
普段の戦場での姿からは想像も出来ないほどに優しい声色が乱菊の耳に届いた。
本当に自分の事を大事に思ってくれている、それが確認できるような声音。
いつでも、自分を安心させてくれる声音。
(ああ、この人が隊長でよかった)
乱菊は心の底から思った。
乱菊は冬獅郎の体に絡ませていた腕を解いた。
「隊長、寝る前に少しいいですか?」
「なんだ?」
「ちょっとこっちを向いてください」
「ん」
言われたとおり、冬獅郎は乱菊の方にむくために寝返りを打った。そして二秒後、はめられた、そう思った。
彼が振り向いた瞬間、彼の唇に乱菊の唇が押し当てられたのだ。チュッという音がして、二人の唇は正常な間隔を取り戻した。冬獅郎がその鋭い瞳で乱菊を睨む。
「何のマネだ」
その様子は人を震え上がらせるのに充分なものだったが、当然、乱菊はそんなことでは怯まない。
「さっき隊長、私がおかしな夢を見たんじゃないかって言いましたよね」
「……言ったな」
「見たんですよ、おかしな夢を」
その言葉が合図だった。その言葉と同時に乱菊の手が動いた。乱菊の手は冬獅郎の寝巻きの隙間を縫って入り彼の体に触れた。そして最終的には彼のモノに手をやり、その手でつかんだ。その一瞬の動きに反応できなかった冬獅郎が叫ぶ。
「やめろ! 何のマネだ!」
「しー! 隊長、皆が起きちゃいます」
「……とにかくやめろ」
「あららら、隊長のって以外と可愛いんですね」
「黙れ、その手を離せ」
冬獅郎は殺気も露に乱菊を睨みつける。
しかし、乱菊はその視線を正面から受け止めた。この行動の本位を彼に告げるため。
「隊長、女が一番寂しさを紛らわせられる事知ってますか?」
「あ?」
「大切な人に、抱いてもらうことです」
乱菊はもう一度、冬獅郎に口付けた。
「日番谷冬獅郎隊長、私を抱いてください」
「どういう意味だ」
「あれ? まさか隊長、『抱く』の意味が分かりませんか?」
「そうじゃない。俺はお前の『大切な人』じゃない」
「大切な人です」
「違うな。俺はただの隊長だ。お前が副隊長であり俺が隊長である事、それはただの役職だ。お前の言う『大切な人』とは違うだろう」
「違いません。隊長は私の隊長で、大切な人です」
「俺はお前にそんな感情は抱かない。第一俺はお前を仲間だとは思っても、女だとは思わない」
「え? そうですか? でもそれにしては」
乱菊は含み笑いをしつつ右手をもぞもぞと動かした。何をしているのかは明白だ。
「隊長の、さっきより大きくなってますよ」
「それはただの反射に近い」
「あはは、隊長赤くなってますよぉ。可愛い」
「黙れ。とにかくさっきから言ってるだろう、今すぐやめろ」
「…………お願いします」
乱菊の声が急に落ちた。冬獅郎の脳に楔を打ち込むような声だった。
「何をだ」
「今日だけ、今日だけでいいんです。私の、大切な人になってください」
そうして乱菊は冬獅郎を見つめた。冬獅郎は驚き、戸惑う。
乱菊の目は、なぜか涙に濡れていた。
その眼を見ると、全てのものがいたたまれない。
昔からそうなのだ。冬獅郎は涙に弱かった。
(…………ったく)
「松本…………」
「はい」
「好きにしろ、今日だけだ」
「え?」
「お前の好きにしろと言ってるんだ」
その言葉に乱菊は表情を一瞬戸惑わせ、すぐに輝かせた。今までに、見せた事のないような笑顔だった。
彼女の笑顔に値する事を自分がしてやれるのなら、それもいいと冬獅郎はおもう。
大切な人だかなんだか知れないが、それもいい。
冬獅郎はふっと乱菊に笑いかけてやった。
「じゃあ隊長、早速」
乱菊はそこでようやく冬獅郎のモノを掴んでいた右手を離した。そこから彼女は身を起こすと上半身の寝巻きを脱ぎ捨てた。
その寝巻き以外に彼女は何も身に着けてはおらず、その結果すぐに彼女の豊満な胸があらわになる。
冬獅郎は乱菊に合わせて身を起こした。いつも悪態をついてはいるものの、その美しい乱菊の肢体に冬獅郎は思わず息を呑んだ。自分の顔に血液が上ってくるのを彼は感じた。
「どうですか? 私の身体」
「…………え、あ、いや」
「赤くなってますよ。可愛い」
「あのな、さっきも可愛いだの言ってたがな、言っておくが俺は隊長だぞ」
「知ってますよそんなの。隊長も私を可愛いって言ってくれればいいんですよ」
「可愛いの意味が違うだろう」
顔を赤くしている事に自分自身でも気付きつつ冬獅郎はふてくされたようにそっぽを向いた。乱菊にしてみればその姿はいつもの冬獅郎には似ても似つかない可愛らしいその外見年齢そのままのものに違いなかった。
乱菊は思わず微笑みを漏らす。
「では、隊長も脱いでください」
「ん、ああ。……よっ」
冬獅郎はすぐさまに上半身の寝巻きを脱ぎ捨てる。彼の上半身が露になると乱菊は思わず、ほぅと息をついた。
彼の体は戦場を行きぬく者の持つ物だった。
その体に無駄な脂肪は一切付いておらず鍛え抜かれた筋肉の鎧だけが表に浮き出ている。
そして全身に存在する細かな傷傷傷。
目立つものはまだ無いにしろそれは確かに彼が最強の十三人の死神の一角として日夜戦い続けていることを示していた。
その天才剣士の身体に、今度は乱菊が見惚れた。
それはただただ美しく見えた。
乱菊はその美しいと感じる、自らを軽く凌駕する力を持った死神の身体に触れた。
すると彼はくすぐったそうに顔を顰めた。
乱菊は最初に胸に手をやり、そこから徐々にその手を下方へと持っていった。
当然いつかはその手は彼の肌が途切れる所まで辿り着いた。それでも乱菊はその手を止めず冬獅郎の下半身の寝巻きの中へと手を滑り込ませた。
すぐにその手は冬獅郎のモノを見つけて、触れた。
「あら?」
「ん? どうした」
乱菊は驚いたような表情を作った。その表情に冬獅郎が表情で疑問符を浮かべる。
「隊長の…………もうすっかり大きくなってます」
「…………俺も男、だからな」
「……………………見た目は子供のくせに」
「あ? 何だって?」
「いえ、何でもありませんよ。ええ」
くすくすと乱菊は笑う。冬獅郎にはなにやらその笑みが不愉快だった。
だから意識的に強い口調で言う。
「どうすんだ松本。俺がお前を抱けばいいのか?」
「…………その前に一つ聞いていいですか?」
「なんだ」
「隊長って、童貞ですか?」
…………一瞬の間が空く。
乱菊は、その手で冬獅郎のモノを弄りながら上目遣いに彼に問うた。実際、気になったのだ。
どちらでもよかったのだが、気になったので聞いてみた。それだけだった。
その問いに対して、冬獅郎はシニカルに笑った。
「どう思う?」
「えっと、どっちでもいいんですけど、違う……と思います」
「じゃあ、そういう風に振舞おう」
「え?」
乱菊が疑問の声を上げたときにはもう遅かった。彼女の身体はその一瞬の間に冬獅郎に押し倒され、彼女の唇はその一瞬の間に冬獅郎に奪われていた。
彼女が反応しきる暇も与えずに、冬獅郎はどんどん行動を移していく。冬獅郎はまず自らの舌を乱菊の口内へと挿しいれた。二人の脳内にくちゅくちゅという擬音が響く。いやらしく二つの舌が絡み合っていた。
あらかた乱菊の口の中を蹂躙し終わると冬獅郎は一度唇を離した。二人の唇の間に愛の橋のような糸が紡がれる。
冬獅郎が乱菊の顔を見てみると、彼女は顔を赤くさせ目はきちんと焦点があっていなかった。
意外となれていないのかもしれない、冬獅郎はそう思い優しく彼女に触れることにした。
乱菊の首筋にキスをし、それからその大きな胸にキスをする。彼女の胸は突起もその周辺も綺麗な桃色をしていた。素直に綺麗だと冬獅郎は思う。その部分に冬獅郎は愛おしげに口付けた。その瞬間、乱菊の身体が震えた。
「あ!」
彼女の口から艶やかな声が洩れる。それによって冬獅郎は首をかしげた。そして浮かんだ疑問を試してみようと思った。
冬獅郎はまたゆっくりと乱菊の胸に唇を近づけ、今度は先程の口付けによって多少膨らんだその突起を、吸い上げた。
「ひゃあ!」
乱菊の口からはやはり冬獅郎の予想通りの嬌声が聞かれた。冬獅郎は笑いながらため息をつく。
「松本」
「…………はい、なんでしょう」
「お前、あんまり経験無いだろ」
冬獅郎がそう聞くと乱菊の顔が一瞬にして朱に染まった。本人もそれに気づいたのか乱菊は両手で自らの顔を覆う。
それを見て冬獅郎はまたため息混じりに笑った。
「わ、笑わないでください」
指の隙間から涙で滲んだその目で冬獅郎を見つめ乱菊は控えめに叫ぶ。
「ああ、悪いな。意外だと思ったんだ」
「い、がい?」
「ちょっとな」
冬獅郎はまたも、今度は微笑んだ。その顔を見て乱菊はまたも赤くなる。
可愛いな、冬獅郎がそう思うほど。乱菊の様子は女の子のようだった。
自分は隊長で、彼女は副隊長であり。
男と女ではないはずなのに、今二人はお互いを「そう」感じていた。
だから冬獅郎は今は乱菊を副隊長として扱うことをやめた。
彼女を松本副隊長ではなく、松本乱菊として扱う。
冬獅郎は乱菊が自らの顔を覆う両手をどけ、晒された彼女の頬に口付けた。日番谷隊長なら、絶対にやらないことだ。
頬から唇を首筋に、胸元に、桃色の突起に、腹部に、臍に、下腹部に移動させていく。
場所が変わるたびに乱菊の口からはいちいち驚きと喘ぎの入り混じった声が聞かれ、冬獅郎は各場所に優しく口付けた。
冬獅郎は乱菊の鍛えられた下腹部を一度舌でちろりと舐めると、彼女の身体に沿っていた上半身を一度上げた。
「腰を上げろ……松本」
「え?」
乱菊は冬獅郎の言っている事を理解しながらも疑問符をあげた。
「腰を上げろ」
「…………ぬ、脱ぐんですか?」
「……そりゃあなぁ」
「…………解りました。待ってください。自分で脱ぎます」
そう言って乱菊はベッドに横たえていた身体を起こしゆっくりと下半身の寝巻きを取り去った。
乱菊の身体には彼女の秘所を覆う白い布だけが残る。彼女のそれは腰の両端で紐を縛っているようなもので、彼女はそれを先程よりも更に遅い調子で解いた。
冬獅郎はそれを待つ。
「た、隊長。お互いの身体を全部見るなんて、初めてですよね」
「そうだな」
「恥ずかしいです」
顔を真っ赤にしながら乱菊はその最後の衣服を手に取り脇に投げ捨てた。
「だから、隊長も脱いでください」
「…………」
「そゆことするなら、脱がないと……」
笑いと恥ずかしさを含んだ彼女の言葉に冬獅郎は頷いた。ベッドの上に膝立ちになり下半身の衣服を脱いだ。乱菊の眼前にすっかり怒張した冬獅郎のそれが現れる。
「わぁ」
「意外と可愛い……か?」
「いえ……その……大きい、ですよね」
「…………そうでもないだろ」
「そうですか。じゃあ」
乱菊は身体を再びベッドへと横たえた。
「お願いします」
「ああ」
目の前に晒される乱菊の秘所に、冬獅郎は手を伸ばした。
彼女の両足を持って割り開きそこに口をつける。
彼女のそこは、もう既にぐしょぐしょに濡れていた。
「濡れてるな……」
「……隊長」
「?」
「私を辱めて、そんなに楽しいですか」
「いや、そんなつもりは」
「黙ってしてください。隊長のが大きくなるように、私のも濡れます。生理現象です」
「解った解った」
冬獅郎は苦笑しながら再度彼女のそこに口をつけた。舌を差し入れてみる。
「あ、ん!」
予想通り乱菊から響く嬌声。
それはすさまじくあでやかで、つややかで。
予想していたことだったが、それが冬獅郎の欲を誘った。
自分でも言っていた通り、彼も男なのだ。
女の嬌声は、耳ではなく、脳に響いてしまう。
それがいつもそばにいる乱菊のものだとすれば、尚更だった。
冬獅郎の脈が、一瞬高鳴る。
(…………くそっ)
冬獅郎は心の中で自分に対し悪態をついた。
乱菊をそんな目で見てきた気は無い。彼女は副隊長であり、女ではないのだ。
だが、今現在に限っては、冬獅郎は彼女を女として見ていた。
だからつい、いつもは絶対に言わない言葉が口をついて出た。
「乱菊……」
「…………え?」
「……ん?」
「今、隊長……私の事を乱菊って……」
「……言ったか? そんな事」
「言いましたよ。初めて、私を乱菊って」
「……そうか」
冬獅郎は目を瞑った。
今まで彼が乱菊の事を松本と呼び続けていたのには理由があった。
それは彼女を副隊長としてみるため。
なのに、それを破ってしまった。
冬獅郎は、覚悟を決めた・
「じゃあ、乱菊、もういいか?」
「乱菊って、呼んでくれるんですね……。はい。いつでも」
「悪い。我慢がな、出来ない」
「はい…………。あ、でも、一つお願いをいいですか?」
乱菊はそういってまた顔を両手で覆った。
弱々しい声で、つぶやいた。
「痛く……しないでください」
「…………は?」
冬獅郎は思わず声を上げた。
彼女の言っている意味が分かったのだ。
「お前、もしかして」
「はい…………。私、初めて……なんです」
冬獅郎の脳に、その言葉は届いた。
「初めて……だと?」
「…………はい」
告げられた事実に動揺する冬獅郎の問いに、乱菊は消極的に頷いた。
その顔は朱に染まり、男の心を射抜くには充分なはずなのに。
冬獅郎には見えていなかった。
乱菊は言葉をゆっくりと紡ぎあげる。
「おかしい、ですよね。この年で……処女だなんて」
「いや、それは……」
「いいですよ、笑っても。隊長の歳でも……経験ある人もいるのに……。私が……処女ですもんね」
乱菊は笑った、冬獅郎にも笑って欲しくて笑った。
それでも、冬獅郎は笑わなかった。
「仕事に明け暮れてた……なんてことは無いですよ。そこは知っての通りです。ただ、今まで経験が無かった、それだけです」
「…………」
「理由が……無かったといえば、嘘になります。でも、そんなのはもうどうでもいいんです」
「……大方」
「はい?」
「……大方、誰かのために貞操を守っていたとでも言う気か?」
「…………」
「図星か……」
「……正確では、ありません」
乱菊の笑顔が、自虐的なものになる。
「貞操は、守っていたわけではありません。ただ、怖かったんです」
「男に抱かれることがか」
「違います。誰か他の男に抱かれた時に、『あいつ』の事を考えてしまうんじゃないかと思う自分が……怖かった」
「…………」
「……隊長、私を抱いてください」
「…………」
「……隊長は、私にとって『あいつ』より大きな唯一の存在です」
「…………」
「私は、隊長のような人に抱いてもらいたい。私の大切な人に、抱いてもらいたいんです」
「…………」
「隊長……」
「…………やめだ」
「……え?」
乱菊は驚いた。冬獅郎の言葉ではなく、彼の声に。
その声はあくまで平坦で、冷徹で、沈着で。
その姿はあたかも副隊長に命令を下す隊長のようだった。
冬獅郎はベッドから下りて立ち上がる。
それに合わせて乱菊も上半身を起こした。
「服を着ろ…………『松本』」
「え…………松、本?」
冬獅郎からの呼び名が元に戻ったことを、乱菊はすぐに察知した。
「どうしてですか? 隊長」
「…………」
「なんで、ですか?」
「…………」
「答えてくださいよ隊長!」
「…………黙れ松本」
「乱菊って……」
「…………」
「乱菊って呼んでくださいよぉ!! 隊長!」
薄暗い部屋の中に乱菊の叫びが響いた。
悲鳴。
冬獅郎はそれを全身で受け止めた。だからどうという事はない。
ただ、その悲鳴が虚から助けを求める者達のものと同一に聞こえただけだ。
違いは、冬獅郎は虚に襲われるものは助けるが、乱菊を助ける気は無いという点。
冬獅郎にも本音はある。それでも、それは隊長として漏らしてはいけないものだ。
隊長としては、漏らしてはいけないものなのだ。
だから彼は乱菊の叫びに答える気は無かった。
答える事の出来ることだけを答える。
「……お前の言う『あいつ』が誰なのか俺はしらねえ。でもな、そんな相手がいるのに、そばにいるからなんて理由で俺がお前の『初めて』を奪っていいわけが無いだろう」
上着を羽織り、乱菊の目を正面から睨みつける。
びくりと、乱菊は初めて冬獅郎の気迫に震えた。
それでも乱菊は言葉を返す。
「……違います。傍にいるからじゃありません。隊長が私の大切な人だから、私は」
「大切な人だと?」
ギラリと光る隊長の眼光に、乱菊は一瞬身を引いた。
「お前は、俺を、その『あいつ』の代わりにしようとしているだけだ」
そう言う冬獅郎の顔は、本当に恐ろしかった。
乱菊は不思議に思う。
「何を……そんなに怒っているのですか……隊長」
「怒ってるだと? 俺が、俺がか?」
「はい。隊長、なんだか知りませんが怒ってます」
「怒ってる?」
冬獅郎は乱菊の言葉に戸惑った。
自分が怒っているだと?
ならば理由はなんだ?
そう考えて、すぐに答えに気づいた。
(ああ、そうか……)
そして冬獅郎は自分自身をせせら笑った。
「……俺は、イラついてるな」
「…………なんで……」
「なんで、だと?」
冬獅郎はまた笑った。そして、
「おそらく、俺はお前の言う『あいつ』に嫉妬してるんだろうな」
「嫉妬?」
「そうだ」
はき棄てるように様に言う冬獅郎の顔は赤く染まりぬいていた。
乱菊はそれを不思議そうに見つめる。
「お前、俺は経験あるのに自分は処女なんておかしいって言ったな」
「あ、はい」
「よく考えろ。俺に経験があると思うか?」
「え?」
「あるわけないだろ。この歳で隊長になって……お前以外は俺に気を使って近づこうともしねえ」
顔を赤くしてそっぽを向いて冬獅郎は続ける。
「女の初めてと男の初めては違うけどな……でも俺は女だとしても」
「…………」
「お前に初めてを捧げようと思ったんだよ。くそ、隊長にこんな事言わせるんじゃねえ」
冬獅郎の顔は、すでに赤くなりすぎて爆発寸前という様だった。
乱菊の前で、彼が初めて見せる顔だ。
恥じらい、そんなもの見せる必要は無かったし、見せもしなかった。
そんな冬獅郎の顔に、乱菊がとる反応は一つだった。
「はは、あははははははははははははははははは!!」
「笑うな!」
「だって、はははっははははは、可笑しいですよ!」
「笑うなって!」
「だって、隊長、そう言うって事は、私の事……」
「…………くそ」
「あは…………隊長……」
「くそ」
悪態を付く冬獅郎は乱菊には可愛く見えた。
少年としても、隊長としても、男としても。
乱菊の心の女の部分と、乱菊自身としての部分が締め付けられる。
自分を好いてくれる男が目の前にいるのだ。
それも、自分の大切な人なのだ。
「隊長……」
「…………なんだ、松本」
「……やっぱり、松本なんですね」
「…………」
「それでもいいです。私は松本で、貴方は隊長で。出会った時からそうなんですから」
「松本……」
「ですから私も永遠に貴方を名前で呼ぶことはしません。まあ人生の伴侶にでもなれば別ですが」
「まあ……ガラじゃない」
「隊長と副隊長というのは伴侶と言えないことも無いですけどね」
軽い調子で乱菊は笑う。いつもの笑顔だ、冬獅郎はそう思った。
「ですから、私達の関係は変わりません。私達は相棒です。でもそれでもいいです」
「…………」
「もう一度お願いしていいですか? 隊長」
乱菊は、最高の笑顔を自らの隊長に見せた。
「私を抱いてください。寂しさを紛らわすためじゃなく。お互いに、文字通り愛し合いましょう。ですから今日一回じゃありません。これから先、なんども、なんども、交じわりましょう。大切な人を、そうして知っていくんです」
「……」
「どうですか?」
「…………女が、交わるとか言うんじゃない」
「ははは」
冬獅郎の顔は赤かった。恥を隠すために乱菊を叱咤した。
それを乱菊は知っている。
だから、笑みがこぼれた。
涙ではなく笑いがこぼれた。
「じゃあ、ヤりますか?」
「だ・か・ら、女がヤるとか言うな!」
「そんな事どうでもいいですよ。私は、隊長に抱いてもらえさえすれば」
「よくねえよ」
銀髪の少年は笑いながら眉間にしわをよせるという器用なことをする。
それは彼のはれる精一杯の虚勢だった。
それを見て取った乱菊は平手を、冬獅郎を自らに招き入れるようにひらひらと振った。
「さあ、隊長」
「…………なあ、松本」
「はい?」
「本当にいいのか?」
「…………しつこいですね。お互い初めてなんです。そんな事、勢いで頼めるわけ無いでしょう」
今度は、乱菊が赤くなる番だった。
そうなっても彼女は怯もうとはしない。
自分は冬獅郎の次官なのだ、こんな事ではひるまない。
「……やい、童貞隊長」
「…………黙れ処女副隊長」
二人は一瞬、口を噤んだ。
そして、その間を乱菊が切り開く。
「…………来て」
その言葉を合図として冬獅郎が動いた。
今度は最初から乱菊の秘所に口付ける。
口をそこにつけるたび、乱菊の口からは淫靡極まりない声が洩れていた。
やがて、そんな事をずっと続けていると乱菊のそこが湿り気を帯びてきた。
それはすぐに露から、大洪水へと様子を変える。
冬獅郎の神経は、長くないうちに限界を迎えた。
乱菊の両足を両手で抱え込み、自らの抑えきれぬ怒張を乱菊のそこへと向けた。
一度、動きが止まる。
「松本…………」
乱菊の名を冬獅郎が呼ぶと、彼女の身体は一度大きく震えた。
(怖い、のか……)
冬獅郎は乱菊の頭に手を伸ばし優しく愛撫する。
すると、小刻みに震えていた乱菊の身体が止まった。
もう一度、冬獅郎は聞く。
「いいのか? 松本」
その問いに、松本は無言で頷いた。
冬獅郎は、腰を突き入れた。
「ああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
本当に、本当の意味で耳を裂くような悲鳴を乱菊が上げた。
「はぁ〜あ」
「どうしたんですか? 隊長?」
「いや……」
二人は一度行為を終えた後、二人してベッドの上に横たわっていた。
乱菊は最初は明らかに冬獅郎を拒んでいたものの、しばらくたつとそこは歳の功か冬獅郎よりもその行為に慣れ始めていた。
冬獅郎はもう一度大きなため息をつき、乱菊に向いた。
「俺は、隊長をやめるべきか?」
「なんでです?」
「……俺は、お前と隊の人間全員を天秤にかけられたとき、隊の人間を選ぶ自信がもう無い」
「ははは、隊長らしいですね」
「どうだろうな」
「でも隊長はそれでいいと思いますよ? だから私は恋人じゃなくて副隊長なんです。乱菊じゃなく、松本なんです」
乱菊はにんまりと笑う。
それにつられて、冬獅郎も笑った。
「じゃあ、もう一回します?」
「……もう一回か?」
「はい。今度は私を気持ちよくしてくださいね。さっき隊長一人で気持ちよくなってたでしょう?」
「…………」
冬獅郎の顔がまた赤くなる。
冬獅郎は恨んだ。松本乱菊を十番隊の副隊長に選んだ死神達に。
そして、全身全霊でもって感謝した。
松本乱菊を十番隊の副隊長に選んだ死神達に。
冬獅郎は息をつく。
「松本乱菊副隊長」
「はい?」
「これからも、よろしく頼む」
そうして二人は再度結ばれた。
だれも知らない。
恋人同士ではなく、あくまで隊長と副隊長の情事が行われる。
こうして、十番隊の夜は更けていった。
余談。
「隊長! 隊長! 起きてくださいって……ふ、副隊長!?」
「ん?」
「ふわ?」
二人は寝過ごした。
その結果、隊員に見つかった。
その日初めて、十番隊の宿舎内で二つの剣が同時に抜かれたらしい。
(終)
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