「之〜芭!」
あたしは座り込んでる之芭に背中から抱きついた。
そのままぎゅーっと抱きしめて、頬をすりすり、すり寄せて甘える。
背中に顔を押しつけて、思い切り息を吸う。
之芭の匂いが胸一杯に広がって、身体の奥の方から熱がじわーっとこみ上げてくる。
「…りりん……?」
「えへへへ〜」
振り向いた之芭を上目遣いで見つめて、はにかむあたし。
自分で言うのもなんだけど、どうよ!この破壊力抜群の仕草は!
これで落ちなきゃ男じゃないでしょうって感じ?
「ねえ…之芭……」
とどめとばかりに、耳元で甘ったるい声で名前を呼んであげる。
ここまですれば、さすがに辛抱たまらなくなって…
「…したいのか?」
「あのねえ…」
ガクッと力が抜ける。このあたしが! ここまでしてあげてるというのに!
どういうつもりなの、この男は!
「………」
「何無言になってるのよ! 確かにしたいわよ! だから誘ってるんじゃない!
だけどそこで『…したいのか?』なんて訊かないでよ!!
黙って察して、さり気な〜く女の子をリードするのが男ってもんでしょう!?」
一気にまくし立てて、じっと之芭の様子を窺う。
「………」
之芭は、あたしと見つめ合ったまま微動だにしない。
「………」
「………」
なんなの。なんなのこの沈黙は! どういう意味があるの!?
もう、何でもいいからしゃべって〜っ!!
「………」
「………」
ああ、勘弁して。もうこの沈黙に耐えられない…!
頭を抱えて叫びだしそうになった時、あたしを見つめたまま之芭がゆっくりと頷いた。
次の瞬間、あたしの視界がぐるっと回転した。
いつの間にか之芭の後ろに天井が見える。
どうやらあたしは前置きもなくいきなり押し倒されたらしい。
しばし呆然。それからムラムラと怒りがこみ上げてきた。
「ちょっと! なんで無言で押し倒すのよ!
ひょっとして『黙って察してさり気な〜くリード』のつもり!?」
之芭はあたしの剣幕にひどく戸惑ってるみたい。
目しか見えないんではっきりとは分からないんだけど。
「………?」
………なに可愛らしく小首傾げてんのよー!!
『これじゃダメなの?』って意味かーっ!?
これは怒るべきなの?
それとも素直に、あーん、之芭ってば可愛いーって抱きついちゃうべき?
どうしていいか分からなくて、押し倒されたまま固まっていたら、
之芭の割と切羽詰まった息づかいが聞こえてきた。
こっそり膝を立てて之芭の下半身を探ると、固い感触。
膝が掠めた瞬間、之芭の背筋がピクッと反応した。
な〜んだ、ちゃんと興奮してるんじゃない。
嬉しくって、顔が勝手ににやけてくる。
「ね、コレ取って」
之芭の覆面をくいっと引っ張る。
「………」
「ちゃんと顔出してキスしてくんなきゃ、これ以上させてあげないんだから」
「…………」
暫くためらってから、之芭は諦めたように覆面を下ろした。
之芭の赤い髪と整った顔が露わになる。
どうしてこれを隠したがるのか、あたしには今ひとつ理解不能。
それから之芭はあたしの額、頬、唇と、ついばむようなキスをしてくれた。
唇へのキスは、すぐに深いものになる。
之芭の首に腕を絡めながら、あたしは勝利の余韻に酔いしれた。
「…浦原さんも、気が利かないわよね…」
之芭に突き上げられて喘ぎながら、あたしは呟いた。
「…?」
あたしを揺さぶりながら之芭が首を傾げる。
あーもう、その仕草可愛すぎるからやめて!
「ほら、あたしのこの義骸、子供の姿じゃない。
もうちょっと、オトナの色っぽいお姉さんの義骸にしてくれれば、
之芭だってもっと楽しめたのに…んっ…」
あたしのささやかな胸を、之芭が両手で包み込むように揉みしだく。
「あん…この胸だって…大きい方が、嬉しいでしょ…?」
「……別に」
「…えっ?」
「今のままでも」
「えーっ!? ちっちゃい方がいいわけ!? この姿がいいの?
ひょっとして之芭ってばロリ…」
「………」
之芭がぶんぶんと首を振る。
「えっ、何? 違う?」
「………」
之芭がコクコクと頷く。ええい、もうちっとしゃべれ。
「…りりんがいい」
「えっ?」
「りりんだったら姿は何でもいい」
「あたしだったら…?」
……つまりそれは…。
之芭の言葉の意味が分かった途端、あたしの顔がカーッと真っ赤に染まった。
ク、クサい! クサ過ぎる!!
普段しゃべらない分、効果抜群、クサさ倍増!!
真顔でそんな事言えるなんて、なんて恥ずかしいヤツなの!!
聞いてるこっちまで恥ずかしいじゃない!
「之芭…ふあっ…あっ…」
「………」
からかってやろうかと口を開いた途端、之芭が激しく腰を揺すりだした。
「ちょっ…やっ…あっあっ…っ」
もう、口を開くとあえぎ声しか出てこない。、
どうやら、あたしにしゃべらせないつもりらしい。
「ずるい…っ…あっ…ああ…っ」
気持ちよすぎて、だんだん意識が遠くなってくる。
之芭は照れてる顔を見られたくないみたいで、また覆面をかぶっちゃってる。
「って閉めてどうすんのよ! あたしの顔をちゃんと見なさい!」
あえぎまくってるのに、ツッコミだけはちゃんと出るのが自分で不思議だった。
と、無駄にラブラブしていた頃の事を思い出すにつけ、
なんて贅沢な文句を言ってたんだろうとつくづく思う。
そしてじっと手を見る…ってぬいぐるみの手なんだけど。
っていうか羽根かしら、これは。一応トリのぬいぐるみらしいから。
ホント、人間のカタチしてただけマシだったのよね〜。
之芭なんてクレーンゲームで100円で取ったみたいな
安っぽいカメ(?)のぬぐるみになっちゃったし。
それでも、中に之芭が入ってると思うと、
あんなぬいぐるみでも可愛く見えてきちゃうんだから不思議よね。
ふと、あたしの視線に気付いた之芭が「何?」と小首を傾げる。
やっぱり可愛い。
「りりんだったら姿は何でもいい」って言ってくれた之芭の気持ち、
今ならちょっと分かる気がする。
カメのぬいぐるみになっても之芭は之芭だし、
やっぱりあたしは之芭が好きだ。
きっと之芭も、今のあたしの事を好きだと想ってくれてるから、
この珍妙なトリのぬいぐるみ姿も、少しだけ可愛い気がしてくるのだった。
あくまで、少しだけ、だけどね!
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