死神界を揺るがした大きな出来事は至る処に波紋と傷跡を残した。
全てが終わった後‥(正確には終わっていないのだが)には、普段は飄々と
物事を楽天的に捉える自分にさえも、痛みのような、喪失感にも似た虚しさ
が胸の奥に在る事を松本乱菊は感じていた。
痛み。喪失感。どちらも正しい。
豊かな胸の片側に手を添える。その中に見えない孔が空いている。
そんな感覚がずっと在る事が忌々しい。それを空けた男の横面を張り飛ばし
たいのに、それが叶わぬ今の状態もまた、忌々しい。
だが現在の状態では何も出来ない乱菊は、仕方なく己の孔を酒で満たす事に
執心していた。
執務室の中は酒瓶が無数に転がっている。部屋の主である十番隊隊長が目に
したらおそらく眉を顰めて睨みつけられるであろう惨状だが、一刻前の酒に
潰れた男たちの骸が累々としていた時よりは幾分かマシな状況である。
「‥ったく‥だらしない男どもめ‥。」
豊かな谷間を見せ付けるばかりか臍の辺りまで素肌を露にしている、そんな
だらしない死覇束の着こなしのまま乱菊は酒瓶を片手に呟く。
艶やかな肢体と酒に濡れた唇。そんな姿の乱菊に誘われ、一刻前は誘蛾灯に
集まる羽虫の如く好色な男どもが酒席に寄って来ていた。だが、浅薄な男た
ちの期待とは裏腹に、乱菊は酔い潰れなかった。
というよりも、乱菊ほどの酒豪は誰ひとりとして居なかったのである。
脆弱な男共は引き攣った愛想笑いと一緒に酔い潰れた同僚を連れて逃げ去り、
結局乱菊は一人となってしまった。
それでもまだ呑んでいる訳だが。
一人で酒を呑んでいれば、自分の胸に孔を空けた男の顔がまた浮かんでしまう。
‥あいつは酒‥強かったっけ‥。
呑んだのを見た記憶があまりない。杯を交わすよりも避わす方が上手な男だっ
た気がする。乱菊は頭の中の男を振り払うように、ぐいと酒瓶のまま酒精を
喉に流し込み執務室の窓を開けた。深夜には白い月が浮かんでいるばかりで
ある。
満月かな‥。
振り向いて部屋を見直せば、転がっている瓶たちの中は虚ろな黒さだ。
外の空気に気を直しかけたが、自分の空けた酒どもを目にした途端、妙に気分
が萎えていく。肩に掛かった長い髪を指先で追いやり、面倒臭そうに長椅子に
戻ろうとしたその時、乱菊は足元の瓶に足を取られてしまった。
「う‥わっ!」
咄嗟のことで受身も取れずに執務室の床に這うように倒れてしまった。
萎えた気分のまま暫く床に身体を預ける。
痛みは無いが起き上がるのが酷く鬱陶しい事に感じられたのだ。
何だかんだと酔いも回っているのだな、と床を抱きしめながらぼんやりと考え
ていた。いっそ酔いつぶれて眠れればいいのに。
身体を寝かせてぼうっとしていると、開け放った窓から這入る風の音が感じ
られた。木々のざわめきも耳に届く。風を浴びたわけではないが、少しだけ
心地良い。
がざ‥という葉ずれの音と共に別の音がした。
それは、ひとつの聞きなれた足音。
そして、誰かに似た空気の匂いを感じた。
居るはずのない男の気配を感じるなんて、どうかしている。
「ああ、またこないに呑んで‥」
「!!」
気のせいではなかった。
後方から聞こえたその声に、乱菊はがばっと身を起こし振り向く。
月の光が逆光となって顔は見えない。
だがその姿は、月の光と同じ銀髪は、まぎれもなくあの男だった。
「ギ‥ン‥!」
勢い良く立ち上がったので、ぐらりと頭が揺れ、乱菊の上体がふら付く。
「おっと、あぶない。」
そんな乱菊の肩を掴み、支えた腕。それは間違えない、市丸ギンの手で
あった。酔った為の幻か夢なのか。夢の男が声を掛ける。
「ふらふらやないの。」
乱菊はギンの腕に支えられたまま、返事の代わりに自分の右手をぶん、と
揺らしてギンの頬を思い切り打った。
「痛ァ」
「夢の癖に痛がってるんじゃないわよ!」
「夢とちゃうよ。」
ホラ、と言ってギンの幻は左手を開いた死覇束の間に滑り込ませ、乱菊の
たわわな乳房を鷲掴んだ。
「っ‥!」
大きな手、細く長い指。
前にも確かに感じた、現実の感触。
大きな手でも収まりきらない乱菊の見事な乳房を、上からさすり降ろし、
たゆん、たぷんと指先で持ち上げ、指の間に先端部を挟みこむ。自分を抱く
時のギンの手の感触と寸分違わない。
「んぅ‥嘘よ‥だいたいどうやって‥」
怪我人も死者も出してしまった護邸、現在の警備は確かに手薄だ。
だが、仮にも此処は十番隊の執務室。護邸の中央にも近いというのに‥。
「ぬるいんよ。」
ギン乱菊の胸に指を這わせたまま短く答え、
「それにボクはココを知り尽くしとる。」
そう付け足して、乱菊の胸の敏感な先端をひねり上げて、指でクリクリと
弄んだ。
「はっ‥んぅ‥」
ギンの冷たい指がぞくっとする程気持ち良い。指先で摘まれた桃色の先端が
硬さを増してくる。親指の腹でくに、と潰され、また弄られる度に、乱菊は
身体を震わせる。死覇束は肩も露に開かれて、胸元に突っ込まれていたギン
の腕は既に月の光を浴びていた。白い月の光に、乱菊の白く大きな果実が照
らされ、男の手によって形を変えられている。
抵抗できない。
現実感がないからか。酔いの所為か。或いは‥求めていたからなのか。
乱菊には判らなかった。
ギンは後ろに回って倒れそうな乱菊の背中を身体で受け止め、両手を使って
彼女の豊かな乳房を揉み上げはじめた。ぷるん、たぷん、と音がしそうな
ほどに揺らされ、大きく開いた手に掴み上げられ、先端を指で捏ねられる。
「はっ‥あん‥!」
乱菊が肢体を捩じらせると、死覇束はするりと落ち、豊かな腰のところで
かろうじて止まる。上半身裸となった乱菊はギンに体重を預け、彼の成すが
ままにその胸を踊らせている。
長い髪の隙間から見える白い首に、ギンは舌を這わせてつう、と舐め上げた。
「ん‥ふぅ‥っ‥あ‥どうして‥ひぁ‥あっ」
どうして戻ってきたのよ。問い質したいのに言葉は愛撫に遮られてしまう。
身体がギンにあまりにも素直に反応し、開かれてしまっている。ギンの手が、
舌が、唇が冷たいのに、乱菊の身体は余りにも熱い。
乱菊の耳を噛んでいた唇が、彼女のきちんと言えなかった問い掛けに漸く
答えた。
「キミに会いとおて。」
昔と変わらない、人懐っこい笑顔でギンは言った。
この男らしいのか、らしくないのか、嘘なのか、本当なのかも乱菊には判ら
ない。乱菊はギンのそんな表情を見る度に、儚さを思い知らされる。
「嘘‥ばっかり‥っあぁ‥っ」
乱菊は憎らしげにそう返した。
「熱いなァ‥呑みすぎや。」
乱菊の全身は酒精とギンの愛撫によって火照り、桃色付いている。
「少し冷まさんと。」
そう言ってギンは、そのまま乱菊を床に押しやる。四つん這い、というよりは、
上半身を床に押し付けた形となってしまった。ひやりとした床に体温が奪われ
ていく。ギンはそのまま、乱菊の足元から裾を捲り上げ形の良い足を、そして
尻の辺りまでも露にした。
外気がひやりと足を撫で、ギンの右手が乱菊の露になった中心を撫でる。茂み
を開き、熱くしっとりとした乱菊の秘部はやはり熱く、ギンの指に反応し
ひくん、と震える。ギンは指先で彼女をゆっくりと象り、やわらかく撫ぜて
いく。
「あ‥ん‥」
信じられないくらい優しい指先だった。
「んぅ‥」
花弁にやわやわとした刺激を受け、乱菊は嬌声で返事をする。ギンは片膝を
付き、両手で乱菊のむっちりとした尻を撫で始め、指を時折中心に這わせる。
とろりとしたものが肉襞から零れ、太腿を伝って下りてゆく。
両手の指先で花弁を開き、ギンは舌でべろりと舐め上げた。
「あひぁん!」
ひやりと舌の感触が敏感なところを舐るその感覚に、思わず声を上げる。
ギンはそのまま小鳥が啄ばむようにちゅく、ちゅくと乱菊の陰花を唇で愛撫を
続ける。酒精に蕩けた乱菊の脳をギンの唇が更に溶かしてゆく。
「あっ‥はぁ‥っ‥あん‥っ」
啄ばまれる度に甘い声を上げてしまう。
だが、柔い快楽はそこまでであった。
「はあぁ!」
乱菊が一層に高い声を上げる。ギンが乱菊の花弁を開き、指をねじ込ませたの
だった。濡れていたそこはギンの細い指を三本一気に咥えこみ、指の動きに
合わせて、じゅくじゅぷと淫猥な音を立てている。ギンは指で抜き差しを繰り
返しながら、乱菊の丸みを帯びた尻に唇で甘く噛み付く。左手は太腿に巻き
つけるように抱き寄せ、その指で更に陰核も責めていった。
激しい刺激に乱菊の全身がビクビクと震える。
「あひぁ‥っ!あふっ!んぅッ‥!」
ぬちゅう‥とギンはゆっくりと指を引き抜き、それを舐め取ると、袴を開き、
己の中心を抜き出した。それは涼しげな表情のギンとは裏腹に、否、ギンの
内側を象徴するかのように隆々と屹立していた。
ずずぶっ、という鈍い音だけを残したが、ギンは声も立てずに乱菊のそこに
己を押し込んだ。
「‥‥ッ!あ‥‥っあぁ‥ッ」
奥まで。
それは彼の神鎗のように一気に乱菊を刺し貫く。
「はあぁ‥っあ‥っ‥ひぃん‥」
乱菊はまともな言葉も出せずにギンの一物を全身で感じている。がくがくと
震える優美な肢体。床を向いた彼女の乳房が全身の痺れと共にぶるぶると
揺れている。
ギンが腰を動かし始めた。
「はぅ‥うぁ‥ッ‥あ‥!」
ずっしりと重みの在る乱菊の乳が、ギンの動きに少し遅れてだぷん、だぷん
と前後に揺れ動く。乱菊の後ろ髪をぞんざいに掻き分け、うなじに唇を這わ
すと、んぅ‥と女は顎を上げた。
そのまま背中に口付けを降らせる。
「あぁ‥っ」
乱菊は背に敏感なようで、しっとりと濡らした瞳を宙に彷徨わせる。
ギンはそんな乱菊を見つめながら、腰の動きを少し加速させる。パツパツの
女尻とギンの腰がぱん、ぱんと音を立て執務室に響く。
「んぅ!くふぅ‥ッ!あっんんっ!」
深く刺され、ずぐぅ、という引き抜きを内側で繰り返される度に乱菊が激しく
声を上げる。ぞくぞくと肌が粟立つほどの快楽が乱菊を巡っていく。
手足を冷たい床に預けたまま快楽に蕩ける乱菊のその姿は、まさに美しい獣
のようであった。獣からはそれを操る男の表情は読めない。だが、先程よりも
熱を帯びた舌や、時折背に落ちる吐息で、男が感じている事が判る。
「あん‥っぅ‥」
繋がったまま前後に揺れている身体が月明かりに白く浮かんでいる。乱菊の
大きな両の乳房は、前後というよりは楕円の動きとなり、ゆっさゆっさと重み
を持ったまま床の数センチ上を振り子のように揺れている。
「‥ン‥っ‥ギ‥ン‥っ!」
乱菊が背の男の名を呼ぶ。呼ばれた男が短く一言返した。
「‥なに?」
声と共に乱菊の中を抉り、捏ね回す。開き侵された乱菊の陰花から蜜が
ぷしゅると零れ落ちる。
「あっ‥ん‥!‥っ!ギン‥ッ!‥なん‥で‥っ‥」
その後の言葉は続けられなかった。乱菊の中でギンが弾けて脈打ち、その
刺激に呼応するように、乱菊の意識が白くなった。
「あっ‥あぁっ!あぁはぁ―――っ!」
乱菊の全身が激しく揺れ、絶頂を印した愛蜜が噴き出した。
「‥っ‥まだや。」
ギンはぽつりとそう言い、乱菊の右足をぐいと上げて一層深く差し入れる。
繋がったまま器用に脚を開かせ、乱菊の身体をこちら側に向けた。
「んはっ‥っ!」
乱菊の汗ばんだ左半身が床をしっとりと濡らし、大きい乳房が重力に逆らえず
左にたっぷん、と落ちる。斜めに繋がった状態でギンが上から乱菊を覆い、
床にたゆん、と広がりかけた乳房を掴んだ。乳首を指先で擦りながら柔らかい
乳房の形を変えていく。
冷たい床、冷たい指先が乱菊の乳房の熱を奪う。
「ひ‥あん‥!」
両の乳房を手の平でたっぷ、たっぷと弄び揉み揺らす。先端の桃色が硬く
尖って痛いほどに乱菊の刺激を手伝っている。ギンは床に面した乳房の先端を
冷たい床で擦らせ、もう一方の先端に舌先を伸ばし、ちるちると舌で捏ねた。
「あっ‥!あぅ‥っ!あっああ‥んっ!」
そのまま唇で乳首を咥え、吸い上げる。乳首だけではない。舌で乳房を満遍
なく舐め上げ、突き、口付けを激しく繰り返した。乱菊の中でギンのものが
再び力を増していく。
その感触がまた乱菊を激しく悶えさせる。
ギンの激しさが乱菊の奥を刺激しながら、その激しさが逆に乱菊の心の奥を
切なくさせた。
「ギ‥ン‥ッ!‥あっ‥あんっ!あっ‥んんっ」
ギンの唇がはじめて乱菊の唇を塞いだ。
唇が熱い。
乱菊の頬に、涙が零れた。
自分が泣いていた事に、乱菊は気が付かなかったのだが。
ギシギシと貫かれる感触はもはや痛みも快楽も越えた処に乱菊を誘っていた。
ただ、ただ熱い。
乱菊は髪を、唇を乳房を、そして全身を震わせた。
ただ、ただ、ギンを感じていた。
「―――ッ‥!」
ギンが声を出さずに精を放ったとき、乱菊は意識の殆どを失っていた。
乱菊が目が覚めた時、まだ夜は明けていなかった。
月は白く、まだ我が世界とばかりに輝きを主張している。
だが、当たり前のように独りだった。
衣服の乱れは何事も無かったかのように整えられ、乱れた跡もない。
「‥‥夢‥だったりして‥」
独り呟き、ソファから身体を起こした瞬間に、全身を気だるく鈍い痛みが
乱菊を襲った。
「痛‥ッ」
夢じゃない。酒も、乱れた身体も、二人が交わった淫らな体液も全て綺麗に
無くなっていたが、自分の中にはギンの熱い感触が残っている。
夢ではなかったと乱菊は確信した。
眠っていた間にあの男は自分を拭い、服を着せ、片付けまでしたのか。
そう考えると可笑しくなる。だが、笑う気分にはなれなかった。
窓際に立ち、銀色の月を見上げる。
月は満たされている。一瞬だが満たされたと思った自分とは真逆に。
馬鹿‥と乱菊は呟いた。
「‥どうせなら‥アタシの中からも消してってよ‥。」
終
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