職場に居ないのは日常茶飯事である。
自分の好みに合わせた装飾を多少施してはいるものの、やはり四角く切り取
られた空の見えない空間である執務室は好みではない。見上げれば青く広が
る彩りのほうが好きだし自分には合っている、そう思っている。だから天と
平行に向かい合った姿勢――つまり寝そべった形で、護邸八番隊隊長、京楽
春水は今日も外に居る。
外の薫りは京楽の胸に心地良い空気となって染み入り、目を瞑っても日の光
を感じられる明るさがまた良い。隣にある花を一つ摘み、瞳を閉じたまま
嗅覚と触覚を頼りに花を愛でてやる。
雅な服装に合わせた仕草だが、やっている事は一般的には職務放棄――
つまりサボりの状態である。
突然、京楽の視界に影が落ちた。
「何を‥してらっしゃるんですか。」
鈴を鳴らすような心地良い響きを持つ声は、多少、いや、かなりの硬質を
持っている。つまり、怒っている声である。だが、京楽は動じる事はない。
怒らせるのも日常茶飯事だからだ。笠を上げて微笑み、腕を広げる。
「七緒ちゃんもボクの隣で寝ない?気持ちいいよ。」
だが返された眼鏡越しの視線は汚物でも見るかのように冷たい。
「いっそ永眠致されますか?お手伝い申し上げますが。」
「怖い怖い。そんなに怒らないでよ。仕事はしますから。」
睨む部下―――八番隊の副隊長である伊勢七緒にのんびりとした笑顔を向
けて、京楽は漸く上半身を起こす。上司である彼は、この辛口の部下を
実は非常に気に入っている。
背筋をぴん、と伸ばし、黒髪を束ね上げた姿。眼鏡の奥の瞳には知性の光が
見える。吊り気味の眉とその雰囲気は一見近寄り難いものを感じさせるが、
京楽からしてみれば、そのつんとした処がまた「可愛い」と思わせるので
ある。
簡単に手に入るより、手間の掛かるものの方が面白いのだ。七緒はそんな
京楽の心中を見透かしたかのように、不快極まりない、といった顔をして、
では早く起き上がって執務室にお向かい下さい、とそっけなく言った。
にべもない。
京楽の胸の内に、ふと悪戯心が浮かぶ。冷たい副隊長を困らせるのも日常
茶飯事なので、それをすぐに実行に移す。頭の後ろに組んでいた手を解き、
七緒が見下ろす位置に差し出す。
「起こしてくれない?」
人なつこい笑顔を七緒に向けると、きりりと上がっていた彼女の眉が少し
困ったような、呆れたような感じで下がる。
「ご自分で動かないと体が鈍りますよ。」
そう言って細い腕を差し出す。
(これが彼女の甘いところだ。)
京楽は思い、口の中で少し笑う。勿論、可愛いところでもあるんだけどね。
差し出された腕を掴み手前にぐいと引いた。
「あっ!」
当然のように七緒は京楽の胸に飛び込む形となる。大きな腕で抱きくるめ、
彼女の細い身体、曲線の美しい背中をその手に充分感じとってから、不良
隊長は副隊長に大丈夫?と甘い声を出した。
状況を把握した七緒は途端に弾かれたように身体を離そうとするが、京楽の
腕にはしっかりと力が込められている。
「隊長!ふざけないで下さい!」
「ふざけちゃいないよ。七緒ちゃんの方から飛び込んで来たんじゃない。
大胆だなあ。」
「引っ張ったのはそちらでしょう!」
目線はそのまま京楽を見据え、凛とした声は相変わらず崩れずに硬さを保っ
ている。大抵の女性たちは、京楽の低く甘い声と広い胸板に抱きとめられれ
ば、徐々に夏の氷菓のごとく蕩けてゆくのだがこの氷は永久凍土の勢いで
ある。動揺もほとんど見られない。それどころかより一層の気温の低さの
篭った目線を投げつけてくる。
その気丈さが、また京楽を喜ばせる。
「仕事をする気がないのでしたら、私がある程度片付けておきます。お放し
下さい。」
「する気がないなんて言ってないよ。」
「じゃあ、あるんですか。」
「んんー‥。まあ。」
のらりくらりとした返答に七緒のこめかみの横がひくりと動く。
怒りが頂点に達したようだ。
「はっきりして下さい!」
京楽の上で七緒がきつく言う。傍から見れば恋の修羅場のようだと思って
京楽はより楽しくなった。だが、そろそろ怒らせたままという訳にもいか
ない。
少しの沈黙の後、京楽は七緒ごと自分の身体をぐるりと反転させ、位置を
逆に持っていった。
京楽が上、七緒が下の位置となる。
「ちょ‥っ」
七緒の表情に一瞬の動揺が見える。
「じゃあ‥さ。」
七緒の小さな顔の横に、京楽は自分の逞しい腕を草むらに押し付けて小声で
囁く。低く、甘い声が七緒に浸透していく。
「七緒ちゃんもはっきりさせようよ。」
「はっきり‥って‥」
土と京楽に挟まれた七緒が、か細い声を出す。普段と違う上司の様子に戸
惑っているのか、或いは少し怯えているのかもしれない。
京楽はそのまま七緒の形のよい耳に唇を寄せて、もう一段、低い声で続けた。
「僕のこと、好きか嫌いか。」
「なっ‥」
七緒の頬が熱を帯びる。これだけの言葉で余りにも容易く外れてしまう副隊
長という肩書きの仮面の脆さに、京楽は微笑む。思わず零れてしまうこの
表情は、紛れもなく自分の事を好いているからだと京楽は確信しているの
である。そして、その表情とは裏腹な言葉が彼女の口から出される事も。
案の定、彼女は息をすう、と吸い込み自らを整えてから答えた。
「嫌いです。尊敬はある程度しておりますが。」
きっぱりと、よどみなく答える彼女。
だが惜しい。頬はまだ赤く染まったままであった。
それじゃあ嘘にしか聞こえないよ、と男は心の中で呟いてから言う。
「悲しいなあ。僕はこんなに好きなのに。」
七緒が睨みつける前に京楽は唇を塞いだ。きつい視線は驚きへと変わり、眼
鏡の奥で瞳が見開かれる。軽口は何度も聞いたが、行動に移されるのは初め
てだった。混乱、羞恥、さまざまな感情が七緒の中を駆け巡る。
そしてその感情たちの中に、快楽という感覚すらも入り混じってくる。
京楽の唇と舌が成すものは、そういったものであった。
「っ‥は‥!」
京楽から唇を離されるまで、何も出来ずにいた七緒は、息を一つ吐いた後に
先程失敗した睨みをもう一度繰り返す。
「ど‥どういうつもりですか‥!」
だが、厳しい目線とは裏腹に声は震えている。恐怖というよりは激しい動揺
の為であった。
「どう‥って。そのままの意味だよ。」
七緒ちゃんが可愛いくて、好きなんだよ。
我慢できないほどに。
からかうだけでは止まらない何かの塊が、七緒に問われた事により、京楽の
胸の内をせり上がってきた。彼女の脆さを興味深いと思うと同時に愛しくて
堪らなくなってしまったのだ。
「七緒ちゃん‥お願い。」
耳元で低く囁く。
「や‥」
「七緒ちゃん。」
唇を耳たぶの後ろに這わす。
「七緒ちゃん‥。」
「あっ‥!」
幾度となく名前を呼ばれる度に、七緒は短く漏れる声で返してしまう。
京楽は片手で七緒を抱きながら、もう一方を死覇装の中へと入れる。ひやり
とした太腿の内側をなぞり、腰へと滑らせ帯を解いた。
はら‥と七緒の中心が開かれる。黒い衣服の間から輝く白い肌に、京楽は思
わず目を細めた。両の乳房の間に指を這わせ、そのまま片方の果実を揉み
しだく。小振りながらも形のよいそれは、頂上の桃色が触れられるたびに
ピクン、と反応をする。
「七緒ちゃん‥」
再び名を呼ぶ。と七緒は「んん‥っ!」と瞳をぐっと瞑ったまま返してきた。
耳もとに寄せていた唇を、七緒の白桃に吸い付ける。
「ひぁ‥っ!」
ぞり、という髭の感触と共に温い湿感が七緒の胸に触れてくる。同時に京楽
の大きな手は七緒の下方の桃、尻のあたりを弄ってきた。布の下に侵入した
手は、大きく七緒の片方の尻を掴み撫でさすり、割れ目にそって下方の茂み
に近付く。
「あっ‥!だ‥めっ‥っ」
なんの抗力も持たないその言葉は、京楽の欲望を膨らませるものでしかない。
泣かせてしまいたくなるような甘い抵抗に、京楽は指で答えた。
「んあぁっ!」
七緒の奥はちゅく、という音を立てて京楽の指を迎える。いつの間に濡れて
いたのか、ねっとりと熱い。中指と薬指で捏ねるとじゅぷ、ぴちゅと水気を
伴った音が漏れた。京楽は指の腹でそこを押えたまま、唇で上半身の果実を
摘み上げ、吸い上げてやる。
「あぁは!」
細い肢体が弓反りになり、一際大きな声が青空に響く。吸い付いたまま口内
で舌先をちりちりと動かして七緒を激しく責め立ててやると、もう一度、
がくんと身体が仰け反った。下部を押えた指に熱い感触が零れる。
「濡れちゃったね‥こんなに。」
七緒の目の前で手を開くと、透明なものがとろりと糸を引く。
「やっ‥!やめてくださ‥」
力なく七緒が反論するが、彼女が一層昂ぶった事は京楽には判っていた。
「いやらしいなあ、七緒ちゃん。」
彼女の深層を揺さぶり、七緒自身も気付かない彼女の欲望を起こす言葉を投
げつける。
「い、いやらしいのは隊長です‥っ!」
七緒は京楽の予想通りに反論をする。全く可愛いらしい。だがその思いとは
裏腹に指は七緒の奥をくちゅくちゅと抉り、彼女の耳に届かせる。
「あぁあんっ!あっ‥あひぁっ!」
打てば響く鐘のように七緒は京楽の指に沿って高音の鈴を鳴らし京楽の欲望
を満たしていった。
「七緒ちゃん‥いい?」
「あ‥‥んっ‥だ‥駄目ぇ‥。」
「お願い。」
指を抜き差ししながら。
「い‥っ‥やぁ‥ん‥」
「お願い。」
もう一方の手で七緒の乳房を満遍なく撫で回しながら。
「あ‥ひぁ‥」
「お願い。」
首筋に舌を這わせて、京楽は低い声で七緒に呟く。ぞくぞくと粟立つ肌の感
覚は嫌悪ではなく、全身で京楽を感じてしまっている為である。
「あ…あん…っ!」
「それともこうやって…ずっと責められてたい?」
「そっ‥!!」
反論の隙を与えずに指を数本挿れたまま親指で陰核を擦る。びりびりと痺れ
るような快楽に、七緒は言葉を失って身体を弾かせた。京楽は脚を開かせる。
死覇束の黒と七緒の白い肌、そして中央の濃い桃色の果肉が淫らに京楽の
前に広げられた。モノクロに浮かび上がる桃色の果実に京楽は己を宛がい、
ずぬ…と挿入した。
「いっ‥あぁ…っ!…は…い…っぁ…」
「そうだね…挿入ってるよ。」
事も無げに京楽は七緒の言葉を受け、大丈夫?と一声掛ける。
まあ、大丈夫じゃなくても止める訳ないんだけど。と心の中で呟いて。
腰をゆらりと揺らしながら深く、浅く回転し責めていくと繋がりから水気を
伴った音が零れる。
「んぅ…んっ!…ふぅ…っ!」
七緒が声を立てまいと唇を塞ぐが、漏れる水音と我慢する声がより一層悩ま
しい。京楽のものが更に怒張していき、七緒が耐えられずに声を出した。
「んぁあ…っ!た…いちょ…っ!やっ…ああ!」
京楽は先ほどまで七緒の奥に入れていた指を、七緒の口へと入れ込む。
唇を閉じないようにさせ、熱い舌と指を絡ませてやると、二人の繋がりから
熱いものが溢れ出た。
「ふぁ…っ!はぁっ!…いひぁ…っ!」
「七緒ちゃん、ダメだなあ。口のまわり、涎と七緒ちゃんのやらしいもので
ベトベトだよ。」
京楽は愉しそうに呟き、腰を深く押し込む。
「ひはぁっ!はあぁ…!あふっ!」
京楽は指を抜き、七緒の尻に両手を宛がい、ずく、ずく、と腰をねじ入れる。
両手に掴んだ白く柔らかい尻の間を京楽の太いものが縦に入出を繰り返され、
卑猥な音が辺りに聞こえていく。
ぢゅぷ、じゅく、と七緒の耳に届いていたあられもない音が、少しずつ遠く
なっていった。まだ挿れてからさほど時間が経っている訳ではないが、七緒
の意識は朦朧とし、細い身体は限界が近いようだった。
「はぁ…はぅ…っん…あは…あ…」
「七緒ちゃん…もう少しだから…」
掴んでいた両手を揉み上げて、七緒の白桃を揺さぶってやる。
「はあっ‥んあ…っ!」
尻を揉み上げられる羞恥と快楽に、七緒は声を上げて答えるばかりである。
結い上げた髪は幾筋か乱れ、眼鏡の奥では涙が滲んでいる。
その弱さがまた、愛しい。
七緒の唇から零れた涎とも愛液ともつかぬものを京楽は舐め取り、そのまま
顎を、首筋を舌でなぞって鎖骨まで舐めやる。当然の如く、その下の震える
胸も、その頂点のぴくぴくと感じ入ってる突起も舐り、吸い上げ舌で弾く。
同時に深く射し込んだ。
「あっ!あっ、ああっ!ひああっ!あぁーーッ!」
七緒の白い胸が震え、白い脚が、全身がガクガクと痙攣した。
京楽も軽く息を詰め、七緒と繋がったまま熱情を吐き出す。
繋がったままの二人は熱い息を漏らして脱力した。
「まだ怒ってるの?七緒ちゃん。」
隊長の甘えた仕草に振り向きもせず、髪を結い上げ直した副隊長は護邸の廊
下をきりきりと歩く。足腰は相当な痛みを持っているだろうに、七緒の気丈
さには驚きと尊敬を抱かざるを得ない。
「ちゃんと仕事するからさあ、七緒ちゃあん。」
きりりと整え直した死覇束からは先ほどの乱れは微塵も感じさせない。京楽
の声など聞こえないかのように七緒は執務室への足を休める事無く進めて
いく。
「それとも…気持ちよく無かった?」
七緒の足が止まった。
くるりと振り向いたその瞳は永久凍土のように冷たいかと思いきや、瞳の
奥は熱っぽく、頬は赤く染まっていた。
「止してください!こんな処で!」
口を利いてくれた事が嬉しかったのか、或いは照れている仕草を可愛いと
思ったのか。京楽は子供のような笑顔を七緒に向ける。
「はいはーい、ごめんね。」
顔を向きなおした七緒の背中に京楽は愉しげに言う。
「執務室でなら、いい?…っていうか執務室でも…する?」
眼鏡越しに刺すような目線を投げつけてきた七緒に、京楽はいやに真面目な
顔で返した。
「そうしたら僕も、もう少しあの職場が好きになれるんだけど。」
終
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