空座町商店街を無愛想に歩く一人の『小学生』の少年。
その後を女子高生風の少女が何やら怪しげに追尾する。
「一人で大丈夫かなぁ…冬獅郎くん…お使いならあたしがするのに…」
ぐうたらな乱菊と異なりその少年…十番隊隊長日番谷冬獅郎はまめに家人の手伝いをしてくれた。
「居候だからな、これくらいはするさ。気にするな」
生真面目な彼の口癖だったが織姫は逆によそよそしさを感じて寂しかった。
(あたし…居候なんて思ってないのにな…)
子供のなりをしてるのに、織姫よりよほどしっかりしている日番谷。
織姫は感心する反面何か物足りなさを覚えていた。
込み合った夕刻の商店街で、見るからに挙動不審な織姫に注目する暇人はいなかった。
しばしターゲットの行動を見守っていた織姫は日番谷の買い物の手順の良さに感歎していた。
(成程…あれを先に頼んでおけば後で待たなくて済むよね…ふむふむ)
おっとりのんびりな織姫は、買い物でも行く先々で時間ロスする事が多かった。
以前、一緒に買い出しに行った時冬獅郎に
「…次から俺一人で来る」
と険しい顔で云われた理由は未だに自分で分かっていない。
(あっ…お店のおばさんに話し掛けられてる!う〜ん残念…内容聞こえないや)
不思議な事にあんな仏頂面の日番谷なのに、やたらと店の人に優しくされたりサービスして貰ったりしていた。
(分かるなぁ…冬獅郎くんて何か放っとけないんだよね……あれ?)
不意に日番谷が立ち止まり店のウィンドウをみつめる。
そこには女性用の綺麗な髪止めがズラリと並んでいた。
(おおっ!乱菊さんへのプレゼントかな…?迷ってるみたい…可愛いな。意外な一面見たよ〜)
織姫の持たせた財布とは別に、ポケットから自分のお金を取り出す。
(あ、手に取った!…見えないな…どんなの選んだんだろ?)
包みを持って店から出てきた冬獅郎が再び歩きだす。
(乱菊さんにあげるなら、きっと大人びたやつだろうなぁ…後で乱菊さんに見せてもらおっ)
(…あの尾行で、気付かれてないと思ってるのが…井上だな…)
眉間に渓谷のような皺を作りながら日番谷は溜め息をついた。
(子供扱いしてるのか?たく…どっちがだ…)
正面から来た自転車を織姫がわたわた避ける様がウィンドウに映って見えた。
(馬鹿…ああもうっ)
いっそ戻って手を引いてやりたい気分に日番谷は駆られた。
何故かよく平地でつまづく織姫にハラハラする日番谷。
(…何て心臓に悪い奴なんだ…)
あの雛森よりも群を抜いているかもしれない。
心配と苛々が頂点に達した時、ようやく織姫から声をかけてきた。
「冬獅郎くんっっ」
(やっとかよ…)
いつもの不機嫌な顔で日番谷が振り返る。
「に…荷物半分持つよ!かわいそうに…重かったでしょ?」
「…ぁ?別に重くねぇよ。それよりお前な…」
「ごめんね!あたし、ずっと後ろにいたんだけど…声掛けないつもりだったのに
冬獅郎くん見てたらハラハラしちゃって我慢できなくなっちゃった。えへへ〜」
そ り ゃ 俺 の 方 だ よ っ っ っ
日番谷の眉間の皺にも、こめかみの血管にも気付かず織姫はほんわか笑っている。
「………」
長すぎる溜め息をつききると日番谷はスタスタ歩きだす。
「あっ、冬獅郎くん待って、荷物…」
「重くねぇっつったろ」
「あ、もしかして、あたしのことレディ扱いしてくれてる?優しいね冬獅郎くん!」
屈託のない織姫の笑顔に日番谷の顔が微量に赤らむ。
「でも悪いからやっぱり持つよ?冬獅郎くん、ねっねっ」
「…だったら、これ持っとけ」
と、小さな軽い包みを渡された。
「あ…これ…」
「…世話んなってる礼だ。松本は気がきかねぇ」
(え…じゃあ、あたしに買ってくれたんだ…冬獅郎くん)
「?何だよ?」
自分を凝視する織姫を訝る日番谷。
織姫は上機嫌な様子で首を振った。
「何でもないっ!ねっ、荷物片方貸して?そしたら手つなげるよっ♪」
絶句する日番谷。早足で歩きだす。
「あ、待って〜」
「ついてくんな!」
無理な注文をする日番谷だった。
終
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