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【一角×織姫】

「あーあ、つまんねえ。下りるか」
一人ごちて、立ち上がろうとすると、誰かがやってきた。
「わぁ。すごい」
なぜか、箒を持った織姫だ。いや、箒を持っていること自体は、不思議ではない。
先程、掃除をしているのを見かけたばかりだ。
「何しに来たんだ?」
「屋根の上が光ったから、斑目さんがいるんだと思って」
「失礼なやつだな。帰るぞ」
「ええー、せっかく上ったのに。箒で空を飛べるかと思ったら飛べないから、大変だったのよ」
「…」
一角が呆れていると、手でひさしを作って、ぐるっと周りを見渡す。すごいすごいと言っていたが、ぴたりと口をつぐんだ。
あれを…見たんだな。そう、思う。
「危ねえから、下りるぞ」
「う、うん」
やっぱりこいつも、普通の娘だった。あっけらかんと振舞っていても、きっとまだ、惹かれていたのだと思う。
扉越しで現場を見たわけじゃないし、考えるのもこっ恥ずかしいが、女にとって大事なものを、あいつなんかに取られちまったんだからな…。
「何だか、腹減ったな。織姫ちゃんよ、どっかつきあわねえか?」
「はーい!あ、お掃除、どうしよう…」
「そんなもんはなあ…。お、荒巻じゃねえか!」
不運にも、マキマキが通りかかる。
「お疲れ様です、斑目三席」
「お前ここ、掃除しとけ」
「へ?」
「俺は織姫ちゃんと、でぇとだ。じゃあな」
「ほげ?」
「よろしくお願いします」
織姫に箒を押し付けられ、マキマキは立ちすくんだ。
その後も、誰かに遇うたびに、一角はデートだデートだと言う。勿論、誰も本気にしない。だが、それでいいと思う。
こいつに何か、甘いものでもおごってやって、また、無邪気な笑顔を戻してやろう…。

「斑目さん」
「あん?何だ?」
「私の部屋にも、お菓子がいっぱいあるの。そこでいいわ」
「あ、ああ…」
何だかよく分からないが、織姫の使っている部屋に行くことになった。
うーむ。いいのかな…。女の部屋なんか、行ったことねえぞ…。
心密かに動揺する一角を連れ、織姫は小さな部屋の前に立った。

狭いながらも、小奇麗にまとまっている。色々と物珍しく、一角はきょろきょろと見回した。
「どうぞ、上がってください」
「お、おう。扉は、開けておいた方がいいんじゃねえのか…?」
「暑いの?」
「いやいや。誤解されたら困るから、そうするのがマナーだって…前に、弓親が…」
やべっ!名前、出しちまった!
一角は非常に焦った。
「あー、えーっと。織姫ちゃんに、変な噂でも立ったら、拙いだろ」
「私?今更、何も…。それにどうせ、ここにずっといるわけでもないし」
「そ、そうか」
冷たい飲み物を出してもらったが、何だか落ち着かない。暑くも無いのに汗をかいて、ごくごくと飲み干してしまう。
もう一杯出してくれ、織姫は隣に座る。

「さっき、屋根の上から、川原が見えた」
「…おう」
「斑目さんも、見てたんだ」
「悪いような気がして、すぐに下りようとしたら、織姫ちゃんが来たって訳さ。別に、覗きの趣味はねえよ」
「うん。ねえ、寂しいもの同士、仲良くしようか」

一角の腕を取り、ぎゅっと胸に抱いた。ふっくらとしたものが押し付けられ、焦って抜こうにも、なかなか抜けない。
「バ、バカヤロウ!もっと自分を、大切にしやがれ!!!」
飛びのくように離れた一角は、織姫を怒鳴りつけた。

「だって…だって…、寂しいんだもん。…ここで、初めて優しくしてくれたんだもん…あの人…」
織姫は泣き出した。一角は途方にくれる。
「仕方ねえよ。あの時は…あんたから情報を引き出したかったし…。あれが、あいつのやり方なんだ…。
悪かった。俺が代わりに、謝っておく。謝るくらいじゃ、すまねえかもしれねえけど」
ったく。半分以上はあいつの趣味でセクハラ尋問したのに。何で俺が謝らなきゃならねえんだ!
と思いつつ。一角は、人がいいのである。
「うん…。ひっく…、ありがとう。斑目さん、優しいんだね」
「優しくてもお人よしでもいいが、泣かないでくれよ」
「うん…」
赤い目をこすって、無理に笑う。

「あのね、私…」
織姫が自分のことを話し出す。それで気が落ち着くなら、好きにさせておこう。
年の離れた優しい兄と暮らしていたこと。事故で亡くなってしまったこと。
でも、いい友達がたくさんいる。そしてこちらで、その兄と会えるのではないかとも、思っていること…。
「そうか。帰るまでに、会えるといいな」
余程の偶然が無ければ、難しいだろう。だが、本当に…会わせてやりたいものだ…。
「斑目さんって、何だか、お兄ちゃんみたい」
「どうせおれは、そういうキャラだよ。安全なのさ」
一角は苦笑する。
「ううん。優しいなって思っただけ。大好き」
「はいはい。ありがとさん」
「だから…しても、いいよ」
「や、止めとけ。冗談で、男を誘うもんじゃない。俺だからまだいいけど、危ねえぞ」
何とか、そう言ったが、織姫は聞かなかった。
「本気で言ってるのに」
怒ったように言うと、腕を引いた。たつき仕込みの空手の技か、一角はうっかり、畳に倒されてしまう。
「な、何すんだよっ!」
織姫に押さえられて、一角は喚く。信じられないくらい柔らかで大きなものが二つ、彼を圧迫している。このままでは…拙い…。

「私ね…」
何だか知らないが、しゃべり出した。落ち着いてくれよ…?
「お兄ちゃんが死んじゃってから…寂しくて…。ふらふら、街に出たりして」
「…ああ」
「そしたら、色んな人が声をかけてきた。可愛いね、とか、胸大きいね、とか」
「バカ。危ねえじゃねえか」
「いっぱい、遊んだ。優しくしてくれた人たちと」
「…」
「でも、たつきちゃんに…えっと、女の子の友達なんだけどね…叱られて…もう、止めた。
病院で、大丈夫かどうか診てもらったりして…えへへ…」
「…」
「だから、そんなに気にすること無いよ。
ちょっと、久しぶりだったけど、あの人…、綾瀬川さんとお医者さんごっこしたときも、やっぱり、気持ちよかったし」
「…」
「もし、もしも…こんな、汚れた子でよかったら…、軽い気持ちで、いいから…。
…ねえ、何か言ってよ」
「汚れてなんか、いねえよ」
ポツリと言うと、下から軽く、抱きしめてやった。
長い髪が、さらさらとこぼれてくる。そしてまた、温かいものが、胸にしみる。
泣いてしまったな。仕方無いか…。

「俺よりずっと」
不器用な手つきで、髪を撫でながら呟く。
「うん」
「髪、長げえな」
「…ぷっ」
「へへへ…」

雰囲気が、少しほぐれた。一角は、言葉を続ける。
「俺は…」
「うん」
「遊び慣れてなんか、いねえから。軽い気持ちで誘い合って、なんて出来ねえ」
「うん。ごめんなさい」
「けど…、けど、もし、女を抱くことがあったら…。
過去は、気にしねえ。もう、変えようが無いことだから。責めて、苛める趣味なんかねえ。
ただ、俺のものになったなら…、浮気は許さねえし、いじけて悪ぶったりしたら、ぶっ飛ばす。
もしもあんたが、その覚悟があるんなら、もう一回誘ってみろ。へへん、出来ねえだろ。どんなもんだい」
「斑目さん…」
一人突っ込みが速くて、織姫のテンポでは、口を挟めない。
「それからこれは、あんたがどうこうって、言ってるんじゃねえけど…。
もしも弓親が、女に興味を持ったとしたら…、それは、綺麗だってことだ。自慢して、いいくらいに」
「えへっ…」
「だから、織姫のことを言ってるわけじゃないって」
「…大好き」
「そんなこと、気軽に言うんじゃねえよ」
「今、織姫って呼んだ」
「ウルセエ。どうでもいいだろ。早く、どけよ」
先程、織姫にのしかかられたままの体勢でいるのである。頭と、口はまだ回る。だが、身体が別の反応をしてしまいそうだ。
「やだ。私がまだ、話、終わってないもん」
駄々をこねるように、身動きをする。柔らかいものが、一角の身体に押し付けられたまま、ぷにぷにと動く。
「ずるいぜ、お前」
「何で?」
「こんな、武器使いやがって」
武器?何だろう…。織姫がきょとんとした顔を上げる。
一角は悔しそうに低く唸ると、織姫の頭を押さえ、ぐっと自分に引き寄せた。
カツン…。軽く歯が当たるほどの、乱暴なキスだった。
何が起こったか、一瞬分からなかった織姫だが、やがて微かに笑い、今度は自分から唇を近づける。
照れたように目を逸らされたが、でもちゃんと、受け止めてくれた。
「大好き」
「ウルセエ。ほら、とっとと起きろ」

しばらく経って。
織姫は、一角の腕にしがみついて歩き、夕日の映える小川の近くまでやってきた。

だが急に腕を離すと、彼女はバシャバシャと川に入っていく。
「お、おい!何すんだよ!」
底の見える浅い流れだが、うっかり足をとられでもしたら、危ない。
「大丈夫〜」
すぐに向こう岸に立つ。一角は何だか、嫌な予感がした。
案の定…。

「一角さーん!天の川を渡って、逢いに来てー!」
「誰が行くかっ!」
呼びかける織姫に、腕を振り回して拒否し、怒鳴る一角だが…。
音声が無ければ、渡れずに地団駄踏んでいるように見えなくも無い。
別に、あえてそう見る必要は全く無いが。

だがしかし。そのように見えた者がいたらしい。
「どうしたんだね?織姫や」
「あ、山本のおじいちゃん」
副官を連れた山じいである。最近は、耳も遠いようだ。
「あのね。川が邪魔をして、愛しい彼と逢えないの…」
高いトーンの音はまだ、聞き取れる。よって、女性の声は聞こえるのだ。断じて、女好きという訳では…きっと…無い。
向こう岸に目をやると、一角の頭が夕日に反射して光る。よく見えない上に、眩しくて涙が出た。
「私のために泣いてくれるの?」
織姫は感激した。何て優しい。こんなおじいちゃんがいれば、よかったな…。
「いやいや…。とにかく」
山じいはいきなり、もろ肌を脱いだ。傷だらけのたくましい身体が現れる。
「少し離れていなさい。織姫が困っているのならば、この川の流れを干上がらせてやるまでだ」
グオオオオオ…
恐ろしいほどの霊圧があがり、炎が溢れる。辺りは灼熱の地獄と化した。

さて。
いきなりの火事に、織姫と一緒に逃げ出した一角は、とりあえず隊の詰め所に向かう。
二人とも煤で顔が汚れ、着ている物もあちこち焦げている。
「何が、あったァ?」
「流刃若火を食らいました」
「アァ?爺ィに、喧嘩でも売ったのか。よォーし、大したやつだ」
剣八には、なぜか褒められた。
風呂でも入って、今日はもう帰っていいと言われる。有難く、その言葉に従うことにする。

隊の大風呂で、汚れも汗も流し、さっぱりとした一角が出てきたとき。
「一角さーん。一緒に帰ろう?」
織姫だった。何気なくもう、一角のことを名前で呼んでいる。

着物は焦げてしまったので、やちるのものを借りた。勿論、とんでもなく短い(ネムの格好をご想像ください)。
洗いたての髪をあげ、匂うようなうなじに、すんなり伸びた足に、どうしても目がいってしまう。

そして織姫は、今度は自分が、一角の部屋に行くと言い張る。
まあ、まだ早いし。まっすぐ帰りたく無いんだろう。
寝泊りしているところを見せて、気が済んだら、送っていけばいい。
そう思って、一角は自分のねぐらまで連れて行った。

「へぇ…こんなトコなんだ…」
「汚ねえだろ。あがるんじゃねえぞ。せっかく、風呂入ったんだからな」
「お掃除、してあげるよ」
「い、いいよ…」
がさがさと騒がしく、織姫が片付け出す。
一角は困って、そこに突っ立ったままだった。

ごみの山の中から、もう一度必要なものを選り分けると、二人で捨てに行く。
呆れつつも、ちょっと、楽しい。…こいつは、気楽でいいな。
だが、さっき垣間見せた寂しさから逃れるために、きっと、いつもそうしているのだとも思う。
頼っていた兄に逝かれ、自暴自棄になったという。
友達に救われたというが、自分を護るためにも、わざと明るく振舞うのが、もう癖になっているのだろう。
優しさに飢えて、泣いていた。可哀想だな…。

可哀想って思うのは、惚れた証拠さ
頭の中で弓親が、綺麗な爪を磨きながら言う。
この幻に、深い意味は無い。
一角の恋愛師匠なのだから、しょうがない。たまに、間違った風に思い出すが、弓親に罪は無い。

「ウルセエ」
一角はぶんぶんと首を振る。
「一角さん?」
「あ…、何でもねえよ。片付けてくれてありがとさん。さ、送っていくぜ」
「泊まっていこうかな。広くなったし」
返事も待たずに、織姫は布団を引っ張り出した。ガラクタに埋もれて、一角すらも忘れていたが、布団はもう一組あったのだ。
「止めろっつーの」
「やーだー!」
織姫は布団を敷き終わると、さっと入って丸くなった。
「もう、出ないもん」
「バカヤロウ、いい加減にしろ」
「さっきは、あんなに優しかったのに。酷い」
「酷いって…一体俺が、何をしたっていうんだよ…」
一角は非常に困る。その様子を見て、織姫は機嫌を直した。
「じゃ、寝るよ?」
「お、おう…」
何か釈然としないものを感じつつ、並べて敷いた布団の片割れにもぐりこむ。


まだまだ、夜は早い。いつもなら、夜回りと称してサボっているか、仲間と酒を飲んでいる時間である。
だが、今夜はこんなところ…自分のねぐらだが…にいて、何故か若い娘と、えーと…。

布団を並べる<枕を並べる<(越えられない壁)<床を共にする。まあ、大違いだね
頭の中で、また気障な声が響く。
ウルセエ!

「もう、寝ちゃった?」
「…まだ、だ」
「ねえ。手」
「へ?」
「手、繋いで寝よう」
ぽんぽんと、布団の上を叩いている。妙な娘だ。本当に…。
のそのそと腕を伸ばして、手を握ってやる。
「ありがとう。本当に…今日は、ありがとう…。嬉しかった。おやすみなさい…」
ほんの少し、声が震えている。まさか。
「ああ。たまには早く寝るか。…泣くなよ」
余計なことを言ってしまった。握った手が、細かく震え出した…。

しばらく考えていたが、やがて布団をはねのけて起きる。
隣の布団に滑り込むと、丸くなって泣いている織姫を抱いてやった。
「泣き止むまでだからな。早くしろよ」
「…」
黙って、しがみついてくる。一角はやはり、後悔した。
いや、優しい気持ちに偽りは無いが…。彼女の身体のことを、失念していたのである。

柔らかな胸のふくらみが、彼を圧迫する。微かに身動きをするたびに、存在を主張する。
止めてくれよ。ったくよー…
女を抱くなら云々と、織姫に啖呵を切ったほどではないにしても、軽い気持ちで手は出したくない。
手を出しても、怒らないだろう…とは思う。
経験いっぱいあるから、今更、平気だよと言うだろう。それが、わざと悪ぶっているのだとしても。
それでも、一角の優しい気持ちが伝わったから、本当に分かったから、さっきはしよう?と言っていた。
きっと、他に感謝の手段が思いつかなかったんだろう。
だから…いいかもしれない…。
でも…。

一角は、目を伏せた。
それが、出来ないのが俺だ。

もう一度目を上げると、織姫の視線と絡まった。まぶたを少し赤くして、じっと見つめていた。
微かに笑うと、そのまま近づいてくる。そっと唇を重ね、すぐに離した。
「な、何だよ」
「さっきの、続き」
「止めろって。だから俺は…」
「うん。一角さんの意思じゃない。襲われるの」
「バカヤロウ…そんな、格好悪いことが出来るか。やるなら、俺からだ」
言葉を切ると、織姫のあごに手をかけ、まるで押さえつけるように唇を重ねた。
押さえていないと、目を閉じたときに場所が分からなくなってしまう恐れがあったとも、言える。
不器用で乱暴なキスは、織姫には、男らしいと感じられた。
やがて帯を解かれて、豊かな胸を、細い腰を…無骨なほどにただ、撫でまわす手にも、たくましさを覚えた。
「わがまま、言っていい?」
「あ、ああ」
「こう、して?」
身体をずらし、ふっくらとした乳房を鼻先に持っていく。さすがに分かって、軽くつかむようにすると、唇をつけた。
「きゃ…、あ、あん…」
大きい上に、敏感ときている。少し痛いくらいの、むさぼるような愛撫に、たまらなく、感じてしまう。
「濡れ…ちゃった」
それは、いつの間にか二人とも、身体中、汗ばんでいたことか。それとも…。
織姫は蕩けたような目を開けると、身体をくねらせた。濡れた肌がすべり、下方に向かう。
そのまま偶然のようなふりをして、わずかに最後に手で場所を確認しつつ、とっくに勃ちあがっていたものを自分の中に収めた。
「えへっ。入っちゃった」
「えへ、じゃねえよ。ったくよー」

良かったじゃない。押入れの指南書を持ってこようかと思ってたよ。さっき、捨てられそうになったやつ。
表紙だけは武芸書みたいになってる、アレ…
ウルセエ!大きなお世話だ
ハゲは精力強いって、本当か?
ぶち殺すぞ、テメエ
まあまあ。落ち着いて…

…あれ?誰としゃべってんだ、俺。
一角が顔を上げると、横に舜桜と椿鬼(勿論一角は名前など知らない)が飛んでいた。
あまりの驚きに、声も出ない。
「ま、とりあえずおめでとう。頑張ってね」
「しかしお前、本当に下手だな」
「…」
何も言えずにいるうちに、二つの姿はすっと、織姫のヘアピンの中へと入っていった。
それを見送ると、織姫の顔が、目に入る。
頬を染めて、ぽうっとした目で…いつもとは違って、少し淫らで…何と言うか…。
織姫が唇を動かす。
「おっきい…」
「バカヤロウ」
だけど、そんな顔にさせてるのは、俺だ。可愛いもんだな。
いくときは、どんな顔をするんだろう。それまで自分が、持てばいいけど。
一角は自分を励ますと、抱いた腕に力を込めた。織姫が、甘い声を上げる。
「ああん」
「コラッ、締めるな」
「だって…すごく、いいんだもん」
「終わっちまうだろ」
「いいよ。また、してもらうから」
経験が少なそうなのを見て取り、そう言って気を楽にさせてやる。
プライドを傷つけないように気をつけなきゃ。そうすればきっと、何度でもしてくれそう…。
そんなことを企む、織姫なのだった。

翌朝。
一角は織姫と一緒に出かける。
まだ、早い。隊舎の植え込みの前に座って、途中の定食屋で作ってもらった握り飯を、二人でぱくついた。

「おはよ、一角。迎えに行ったら、いないから…」
背後から、弓親の声がした。
植え込みに隠れて織姫は見えず、今頃気が付いたらしい。驚いたようだった。
「おはよう。綾瀬川さん」
「…おはよう、織姫ちゃん」
織姫に明るく挨拶をされ、一瞬戸惑ったが、素直に返す。
「私、お掃除してこなくちゃ。じゃあ」
「うん。またね。今日は、ご機嫌だね」
「えへっ。昨日ね、一角さんと、えっちしたから」
ブハーッ!
一角が麦湯を噴いた。さすがに弓親も固まる。
「…あ、そう。よ、よかったね…」
「うん」
弓親がやっと言葉を返すと、織姫は上機嫌でその場を去っていった。

硬直している一角の手から、弓親は竹筒の水筒を外す。麦湯にまみれていたので、仕方なく拭いてやった。
「一角…大丈夫…?」
「げほっ…」
やっと、息を吹き返した様子である。
「…呆れた、だろう?」
「うん?何で?」
弓親は首を振り、微笑む。
「可愛いね。あの子。一角と仲良くなったのが、よっぽど嬉しいんだよ。
心配しなくても、他のやつには言わないだろうし…言ったとしても、誰も真に受けたりしないさ」
「そ、そうかな…。あ、あと…一つ、聞きたいことがある」
「うん?」

「あのとき、何をした?…いや、お前を責めてるんじゃねえ。あいつを、苛めるつもりもねえ。ただ、知っておきたい」
真剣な一角の様子に、弓親は少し考えて、口を開く。
「…彼女は、何て?」
「お医者さんごっこしたって、恥ずかしそうに…」
「じゃ、そういうことで。逆に、僕をどんなに悪く言われたとしても、僕はそうだと肯うよ」
「…」
「彼女はもう、一角のものだ。僕が何か言うことで、君達の仲を損なう資格など、ない。
でも、忘れないで。彼女は僕に…、他人の僕に対して、一角さんとえっちしたって、嬉しそうに言ったんだよ。
僕の悪戯はお医者さんごっこさ。大好きな一角に打ち明けるのに困って、恥ずかしかったろうね」
「そ、そうか」
(お医者さんごっこと、えっち。大した意味があって、織姫が使い分けているとも思えないが…)
「信じてあげて。僕じゃなくて、彼女をね。
さっきはすごく、いい顔をしてたよ。満ち足りたんだろうな。
ねえ、男同士だから、聞くけど…何度も、いかせたの?」
「いったかどうかわかんねえ、けど…回数なら、五回くらい、したかも…」
「そりゃ…すごい…。大丈夫?」
「結構寝たし、朝飯いっぱい食ったし…」
「参ったなぁ。そのうち追い抜かれそうだ」
「何をだよ。バカヤロウ」
「うふふっ…」

「一角さーん」
向こうで、織姫が呼んでいる。
「何だよ」
「ねえねえ。早くー!」
どうせ、大した用事ではないだろう。だが、行ってやるかと、一角は思った。
立ち上がって弓親を見ると、くいっと親指を立てている。
上手くやれよ…そんな微笑が、口元に浮かんでいた。
「面倒くせえな、女って」
「うふ。でも、可愛いだろう?」
一角は少し赤くなってうなずくと、声の呼ぶ方へ駆けていった…。

皆を善人にして、丸くおさめてしまいました。接点が少ないので、こじつけの説明が長くて申し訳ない。
短い期間ながら、仲良くエロの追及でもしたかと。
本誌の方でまた会えたことでもあるし。発展…しないかな…やっぱり。

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