4123

【一護×ネル】

はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…
俺はどのくらいこの道を走ってるんだ。壁も床も天井も真っ白で距離感なんか掴めやしねえ。
その上どこまで続いてんだか、走っても走っても曲がり角一つ無い一本道が目の前に広がっている。
あまりにも代わり映えのしない視界に、うんざりした気分で俺はただ走り続けていた。

ちらりと、脇を見る。俺の左腕に抱えられた小さな女の子は先程からぼう、と前を見据えその体を揺らせていた。
…女の子、と言っていいのかは解らないが、本人がそう言っているのだからそうなんだろう。
虚にも性別なんてもんがあったんだな。なんて変な所で感心してしまう。…まぁ元々は人間だ。そりゃあ性別くらいはあるか。
とにかく、こいつは虚だが悪いやつじゃない。さっきも俺を身を挺して助けてくれた。
どこか安全な所に──この先にそんな場所があるかは解らないが──辿り着くまで俺はこいつを守ってやらなきゃならない。
俺は左腕に力を込め、しっかりとネルを抱え直す。

「ネル、平気か?」
「あっ、いっスッ、だ、いじょ、うぶ、っスッ」
俺の声に反応し、ネルはニパ、と間の抜けた笑顔を向ける。返ってきたその声は体の動きに合わせて揺れていた。
その能天気な態度に思わず俺の緊張感まで解けてしまいそうになる。ってか顔はもう緩んじまってると思う。
ったく、こいつはここがどこかわかってんのか。さっきもドルドーニの野郎にぶっ飛ばされたばっかだってのに。

…そう言えば、あの時は腹に一撃をもらったのだ。本当にこの体勢で大丈夫だろうか。
否、大丈夫なワケが無い。痛む腹に力を込め、抑えられたまま無理に体を揺すられる体勢になっているのだ。
自分がネルになった状態を想像してみる。巨大な人間に小脇に抱えられ、猛スピードでダッシュされ上下に揺すられる俺…。
…無理。俺なら絶対文句言う。ってか、吐く。自分の気遣いの悪さに腹が立つ。

「わぅっ!…一、護…?」
「この方が楽だろ。嫌か?」
「…嫌じゃねっス。一護がいいなら、これでいっス」
俺はネルを持ち上げ、両手で抱え込んだ。ネルも最初は吃驚した表情を見せたが、その態度に抵抗の意志は見られない。
ネルは俺の腕の中で小さく丸まり、その身を俺の胸に預ける。…なんだかその姿は小動物のようで、実に可愛らしい。
うん、俺にとってもこの状態のほうが気楽だし心が安らぐ。我ながら良いアイデアだ。

…俺は何を考えているんだ?今はそれどころじゃないだろ。早く井上を助けねーと。
それに他の道を進んでるチャドや石田やルキア…あーっとそれだけか…の事も気になる。とにかく一刻も早くこの道を抜けるんだ。

「…一護はお仲間のために闘ってるんスよね…?」
「ん、ああ」
珍しく、ネルから話しかけてきた。
まぁ先程の体勢だと無理に喋ると腹に来る。口を閉じていたのはただ喋り辛かっただけなのだろう。
そう思うと、自分の気遣いの無さにもう一度腹が立った。
それにしても、上目遣いでこちらをおずおずと見つめるその顔はやはり可愛───って、それはもう良いって、俺!

「大切な、お仲間さんなんスか?」
「…ああ、俺が命をかけてでも守りてえ奴らだよ」
「そうっスか………」
…何だ?何が聞きたかったんだ。
結局、それっきりネルは黙りこんでしまった。まあ、あんまりペラペラと喋られてもまた緊張が切れちまう。
それに喋らなくても、この柔らかい感触だけで十分に俺はネルを感じられる。やっぱり胸に抱いてよかっ───

って、何ださっきから俺は!!どうなってんだ…なんでこんなにネルのことばっかり……。
いや、こいつには確かにさっき助けられたし、そのために怪我もさせちまった。その感謝と後悔の気持ちのせいで
ちょっとこいつを妙に意識しすぎちまってるだけだ。そうだ、そうに違いない。


…それより、さっきから妙に体が重い。まるで全身から力が抜けていくような感覚。
この道に何か罠でも仕掛けられてるのか?だが変な気配も霊圧も感じない。ドルドーニとの戦いで予想以上にダメージを
受けていたのだろうか。そう思うと、一段と体の重みが増していくように感じる。

「一護…一護こそ、大丈夫っスか?少し休んだほうがいいっスよ」
「あぁ?…はぁ、お、俺なら……全然……っ」
気付いたら俺は大きく息切れしていた。ただ走っていただけなのに、この程度の距離でへたばるような修行はしてないはず
だったのに。息を吸い込み吐き出すたびに身体から体力が奪われていく。
虚圏の特性か、それともやはり何かの罠なのか。周囲の酸素濃度が急激に減少している気がした。
俺は体力を取り戻そうと大きく息を吸い込む。その空気にまぎれ、妙な香りが鼻についた。
何故今まで気付かなかったのか、俺の周囲はやけに甘ったるい匂いに包まれていた。俺の身体の異常はこの匂いのせいだったのか。

…馬鹿か、俺は。今頃ようやく確信が持てたのかよ。こんなの罠に決まってるだろ。
しかし、こんな類の罠は初めてだ。と言うか、罠にハメられたこと自体が久々すぎる。特殊能力を持った敵ともあまり
戦ったことがない。この極限状態では、尸魂界での経験なんてほとんど役に立ちやしない。あいつら、いつだってガチンコ勝負
だったもんな…あいつらって考えてみたら、良い奴らだったなあ。…なんて、感傷に耽ってる場合じゃないよな。
後悔するのは後だ。既に俺はこの匂いを肺一杯に吸い込んじまってる。とにかく体力が底を着いちまう前にここを抜けるしか無い。

「気をつけろネル。敵が近くにいるかもしれねえ」
自分の馬鹿にこいつをつき合わせちまったらそれこそ救いようが無い。こいつだけは何としてでも守ってやらなきゃならない。
俺はネルを強く抱きしめ、周囲を注意深く警戒しながら速度を上げる。もう疲れたなんて言ってる場合じゃあ無い。
「…………大丈夫っス」
「え?」
「この匂いの事なら、大丈夫っスよ、一護」
だがネルは、全てを悟ったような精錬とした声を俺に向け、またニパ、と明るい顔を見せる。
何故だか俺はその表情に、心から安堵を覚えてしまった。
…こいつはなんて可愛いんだろう。正に俺の天使…いや女神とさえ言ってしまいたい。
そうだ、俺なんかのために仲間を裏切って、怪我をしてまで手を貸してくれたこいつのためにも、俺は前に進むしかない。
そして、井上を無事に助け出すんだ。俺の身体に再び力が蘇る。気が付けば、呼吸も徐々に整いつつあった。

「…まだっスか」
「ん、なんか言ったか?ネル」
「なんでもねっス。それより一護、この匂いをどうにかスたいと思ってるっスよね」
「ああ、そりゃそうだけどよ…何かいい方法知ってんのか?」
「あいっス!ネルのヨダレで治せるっス!」
「ま、マジか!?」
そうだ、こいつの能力を忘れていた。こいつのヨダレには弱いが治癒能力があるんだ。
外傷にしか効かないと思っていたが、この手の症状も治療出来るのだろうか。
まぁこいつはこの虚圏の住人だし、この匂いの正体も知ってるのだろう。何にせよ助かった。やっぱりこいつは俺の希望の女神様だ。

「とりあえず、ネルを降ろして欲しいっス」
「え?このままじゃ出来ねーのか?」
「無理っス。いいから降ろすっスよ、一護。心配スなくても、追っ手は来ねっス」
「お、おう…」
俺の危惧をよそに、実にあっけらかんとした表情で応える。その確信めいた言い方が少し気になったが、確かに周囲に
霊圧は感じられない。ドルドーニの部屋を抜ける時に、背後に無数の霊圧を感じていたがそれも今は無い。
この狭い通路で挟み撃ちに遭う危険は避けたかったが、この体調のまま敵と闘うことを考えたら今のうちに
治しておいたほうが良い事も確かだ。俺は足を止め、ネルを静かに降ろしてやった。



「いっスか、これからネルの言うとおりにスて欲しいっス」
「解ってるよ。いいからさっさとやってくれ」
「あいっス!」
俺はネルの言うとおり、床に座り込み壁に背を付け足を伸ばす。
特別な儀式のようなものが必要なのだろうか。やはり、外傷を治すように簡単にはいかないようだ。

「でもよ…ホントに治ンのか?」
「ネルを信用スるっス!ネルは嘘なんて吐かね良い子っス!」
「はいはい…」
「そんじゃ、まず身体の緊張をほぐスて、力を抜くっス。リラックスっスよ、リラックス。そんで────」
ネルはえへん、と胸をはり、人差し指を立て偉そうに俺に講釈をたれる。正直、全く滑稽な姿だ。
それにしてもこいつ、こうやって見るとちんちくりんだよなー。こんなちっこいのになんだ、その尊大な態度は。
あー、抱きしめてキスしてえ。

──いやいやいやいや!!いいかげんその危険思想を止めろよ、俺!!どっかおかしいぞさっきから!!

「…聞いてるっスか?」
「お、おおすまねえ、ちょっと考え事してた」
「もう、ダメっスよ、大事なトコなんスから」
ネルはいかにも『怒ったぞっ』と言わんばかりに、その意思を全身で表現しぷりぷりと頬を膨らませる。
それがまたなんとも可愛らしい。思わず本当に抱きしめたい衝動に駆られてしまったが、今はそれどころじゃあないな。
とにかく、ネルの話に集中しないとな。

「いっスか?ちゃんと聞くっスよ?」
「はいはい、ちゃんと聞くよ」
よし、今度こそネルの言葉を真剣に聞いてやらねば。
まず、身体の力を抜き全身をリラックスさせる。ふむふむ。
次に軽く目を閉じ、口を少し開く。…なんだか、傍から見たら死体と区別つかないような格好だ。
壁に背をもたれ床に足を投げ出し、ぐったりとうなだれているような体勢になっている。
この状態でどうやって治──────

「っ………ンムぅッ!?」

不意に、唇を覆う柔らかい感触。その突然の刺激に、思わず俺は大きく目を見開いた。
そこには眼前に大きく広がる、ネルの顔。座っていても俺の方が背が高い。ネルは一生懸命に足を伸ばし、
俺の首を抱きその小さな唇を俺の唇に押し当てていた。
…こ、これが治療なのか!?これが儀式!?こーゆーことするなら先に言え!俺にも心の準備ってもんがあるんだっ!
俺は一旦、仕切りなおそうとネルの身体を引き離す。…引き離すんだって。
だから、その手を使ってネルを引き離さなきゃならないのに、なんで抱きしめてるんだよ、俺!!

いくら脳がその腕を離せと命令しても、身体は動いてくれない。むしろいよいよネルを強く抱きしめてしまう。
まるで自分の意思と身体とが分断されてしまったような感覚…しかし、その感触や体温だけはしっかりと脳に伝わって来る。
ネルの身体は、本当に柔らかく暖かい。ぷにぷにふわふわとしていて、あまり力を込めたら潰してしまいそうな気さえする。
そう考えていると、まるでその意思が伝わったかのように俺の腕はその力を少し緩め、代りに身体も唇も、
もっと密着するように大きく全身でネルの身体を包み込んだ。
……なんだ、考えてみたら、抱きしめてキスしてえって俺の望んでた通りじゃねえか。
結局全部、俺の意思通りに身体は動いていたって事か。必死に自分に言い訳しても、心の奥の方ではこうしたかったって事だ。
それにこれは、治療なんだ。必要な事ならしょうがないよな。…なんてまた言い訳を探してしまう自分が情けない。
とにかく今はネルのすることに逆らわず、好きにさせてやろう。



「んちゅ……ぷぁ…はぁ…」
「ん…これで、終わり、か?」
オイオイ。こちらはやっとノってきたところだって言うのに、ネルの方が唇を離してしまった。
正直、これで終わりだと残念なんだが…。
ネルを抱きしめる俺の腕も、未練がましくしっかりとその小さな身体にしがみつき力を緩めようとしない。
「まだ、これからっスよ」
俺のその落胆が伝わったのか、ネルはンフフ、と悪戯っぽく微笑うと、また俺の首を強く抱きペロ、と舌を出し再び顔を近づけて来る。
もともと涎のよく出る体質なのか、その舌は全体が目に見えて唾液にまみれテラテラと光を反射していた。

「一護、さっきみたいにだっこして欲しいっス」
「お、おう」
俺は先程この通路を走っていた時のように、ネルを両腕で抱え込む。
なんだか、小さな子供をだっこしているようだ。…事実そうなのだが。
「なんか安心するっス…」
不意に、うっとりとした瞳で見つめられ。思わず顔がカァ、と紅潮してしまう。
ま、まぁ確かに、この体勢だとネルに無理をさせることもないし、俺も安心してキス…じゃなく治療に集中出来るってものだ。うん。
「そんじゃ、さっきの続きっスよ」
そう言うと、ネルはまた舌をペロリと出した。その先からはつぅ、と一直線に涎が糸を引き、そのダボッと着込んだ自らの服を汚す。
俺はコクリ、と小さく喉を鳴らし、その舌に吸い込まれるようにこちらからも舌を出し、くちゅり、とその粘膜同士を重ね合わせた。

「ん、む、ちゅ…んム、ふ…んちゅ……」
ぴちゃ、ぴちゃと粘液をねぶり合わせる隠微な音が響く。俺はネルの舌に付着した唾液を舐め取るように舌を這わせ、
しばらくその柔らかく滑った感触を愉しむと今度は俺の方からネルに顔を寄せその唇を奪った。
ネルの口内は過剰に溢れた唾液で蕩けていた。俺は舌を絡ませたまま、その唾液を掬い取り塗り付けるように口腔粘膜を愛撫する。
舌でぐじゅぐじゅとその口内をかき混ぜられ、ネルは密着した唇の隙間からだらだらと涎を垂れ流していた。
それでもネルの唾液は分泌を止めず、俺の口内にもトロトロと流れ込んで来る。その粘液はやけに甘く、良い匂いがした。

「ぷぁ……ど、どうっスか、効いてきたっスか?」
ネルは唇を離し、俺の肩にもたれかかる。その顔は真っ赤に高潮し、小さく震えているように見えた。
押し当てられた胸から伝わる、トクントクンと大きく早く高鳴る鼓動が、俺の心と同調して行く。
俺はその鼓動を全身で感じようと、更に強くネルを抱きしめた。ネルの口からはまだ唾液がダラダラと流れ出て
俺の肩を汚していたが、気になどならなかった。
気付くと、身体の不調はとっくに無くなっていた。ネルの治癒能力が効いたのだろう。
…だが俺はまだ、ネルと離れたくなかった。

「ん…効いてきたみてーだけど、まだ本調子じゃねえな。もうちょっと休んでから出発しよう」
「…あいっス。ネルは一護に任せるっス」
そう言うとネルは、俺の気持ちに応えるように俺の胸に顔を埋め、その身を全て俺に預けて来る。
俺もネルを包み込む腕の力を少しだけ強めた。



──いつまでそうしていただろう。俺は壁に背をもたれたまま膝を立て、右腕でネルの背中を支え全身で包み込むように
その小さな身体を抱き、手を握り頬を撫でキスを繰り返し、その柔らかい感触や甘い香りを飽きる事無く愛でていた。

仲間のこと、井上のこと、敵のこと…気がかりな事は一杯あったはずだ。
だが、今の俺にはネルとこうしている方がずっと大切な事のように思えた。
そうだ、他の事などどうでもいい。それよりも今はもっと考えねばならない事がある。
……ずっと思っていたが、この仮面は邪魔だって事だ。これじゃあ頭をナデナデしてやる事も出来ないじゃないか。
誰だ、こんな迷惑な設定を考えたやつは。今からでも着脱可能って事にしては頂けないものか。

そもそもこの仮面部分に感覚はあるのだろうか。
あるのなら、俺の感じる手触りはともかくネルには俺に撫でて貰っているという感触を与えることが出来るだろうが…。
とりあえず、撫でてみる。ナデナデ。
「?…なんスか?」
…一応、反応はしてくれた。いや、これではまだ解らない。俺だって帽子の上から撫でられてもその感触は頭に伝わる。
それよりも、やっぱりつまらない。本当につまらない。こんなゴツゴツした石膏のような感触など何が愉しいものか。

「えへへ。ナデナデっス」
俺の不満はともかく、ネルは至ってご満悦のようだ。
そんな顔をされたらこっちももう何も言えないじゃないか。
はいはい、ナデナデナデナデ。

「ん〜っ!一護ぉ〜っ!」
ナデナデがよっぽど効いたのか、ネルは感極まったように強く俺の首にしがみついてきた。
くぅんと子犬のように喉を鳴らしながら、その小さな身体で力一杯抱きしめてくる。
ネルの細い首筋に唇が触れる。息を吸い込むと、ネルの涎と同じ、甘い匂いが鼻腔をくすぐった。
ネルはどこもかしこも甘い匂いがするようだ。俺は味も確かめるべく、首筋に舌を這わせる。

突然の刺激に驚いたのか、ネルは「ひゃわあ」と頓狂な声を上げたが、気にせず舌を動かし続けた。
ネルもそれ以上は何も言わず、抵抗もせず俺の愛撫に身を任せてくれた。くすぐったいのを我慢しているのか、
身体にきゅ、と力を込めぷるぷると震えるその仕草もまた愛らしい。俺はそのまま首筋を上り耳の裏を舐め上げ、
耳たぶを唇に含みくにくにと弾力のあるその感触を愉しむと、耳の中に舌を入れ、わざと音を立てるように
くちゅくちゅと耳内をまさぐった。ネルはそれに耐えるように目と口を強く結び、全身を大きく振るわせる。
耳内に滑り込ませた舌は、そのまま頬まで這い回りネルの顔を唾液で汚す。そうして舌を少し出したまま、
その頬や鼻先に啄ばむように何度もキスを重ねた。
うん、やっぱりネルの身体はどこも甘く良い匂いがする。

そう言えば…この匂いは、先ほどから辺りに漂っていた匂いでは無かったか。いや、そんなはずは無い。この匂いを嗅いでいると、
こんなにも心が安らぐじゃないか。俺の身体を蝕み、その力を奪うようなあんな禍々しいものと同じにしては失礼ってものだ。
それよりも…やっぱり、頭にのっかったこの仮面が邪魔だ。非常に邪魔だ。これでは額にキスをする事が出来ない。
…かといって剥ぎ取るワケにもいかない。しょうがないので、少々やり辛いが額の傷に舌を這わせてみる。

「あひゃあぁっ」

瞬間、ビクンとネルの身体が大きく跳ねた。先程まで穏やかに閉じていた目も見開き、大粒の涙まで溜めている。
触っちゃ拙い場所だったんだろうか。そこに舌が来るとは思っていたなかったのか、よっぽど驚いた様子だ。
……ってか、俺もビックリした。
「あ…す、すまねえ。傷、沁みたか?」
「ンにゃっス…そうじゃねっス、古い傷っスから…。ただちょっとそこ、ビンカンなんっス」
これだけ大きな傷痕だ。傷口自体は塞がっていても、外部の刺激には弱いのだろう。
そう思うと、その傷痕がとても痛々しく見えて来た。



「そんな顔しないで欲しいっス。ネルなら大丈夫っスから」
「ああ…でもそれじゃ、もう触っちゃ悪ぃかな…」
「…優しくして欲しいっス」
そう言うとネルは静かに目を瞑り、キスをするように顎を少し上げた。
俺はそっと、その額の傷に指で触れる。ネルはそれだけでもピクンと身体を震わせたが、今度は声も上げず受け入れてくれた。
優しく、優しく傷痕をなぞる。ネルがその動きに合わせン、フ、と小さくくぐもった声を上げるたびに指が止まる。
何度も躊躇しながらおっかなびっくり触っていたが、ネルは小さな声を上げる以外は特に動きを見せず、俺の指を嫌がる様子は無かった。
それどころかいつの間にか、頬はぽぅ、と紅潮し瞳をとろんと蕩けさせ、その顔は何かに耐えていると言うより、
恍惚に浸っているように見えた。

「…もしかして、気持ちいいのか?これ」
「わかんねっス…でも一護にそこ撫でられると、なんか頭も心もふあふあするっス」
「なんだそりゃ…」
「ふあふあっス」
ちゃんと俺の声が聞こえているのかも怪しいくらいに、ネルは視点定まらぬ目で俺を見つめ呆けた声を上げる。
これはアレだ、顎や腹を撫で付けられゴロゴロと喉を鳴らして寝転がる猫みたいになっている感じだ。
こんな姿を見てると、なんだか俺の心までふあふあして来る。
俺は傷痕から指を離すと、最初にそこにそうしたように舌を這わせた。

「ひゃんっ!そ、それはまだダメっスよぅ!」
「らいじょーぶ、やさしくすっから…」
やはりこれはまだ刺激が強すぎるようだ。
俺は舌にたっぷりと唾液を含ませ、なるべく緩やかに、滑らせるように舌でなぞっていく。

「ン……あ…いっス……ふあふあっス……」
しばらく続けていると、ネルの表情も穏やかになり身体の力も抜けて来た。どうやら気に入ってくれたようだ。
俺は最後にチュッと強く音を立て額と舌の間に糸を引かせると、ぼんやりと俺を見上げるネルの顔を確認し、
再びその小さな唇に口付けを落した。



「一護…まだ、いかねっスか?」
「…ん……もうちょっとこうしてて、いーだろ」
「ネルは、一護に任せるっス。…でも、お仲間さんのこと…心配じゃないんスか?」
「ああ、でもそれより今はお前と一緒に居る方が大事なんだよ」
「お仲間さんのことより、ネルの方が…大事っスか?」
「何言ってんだ、お前も大事な仲間だろ?いーから、身体休めとけよ。いつ敵が襲って来るかわかんねーしな」
「…あいっス…一護…すまねっス……でも、ネルは一護とずっと一緒に居たいンス…」
「おいおい、謝ることじゃねーだろ。俺も一緒に居たいって思ってんだからよ」
「……すまねっス…すまねっス一護……」



「……どうやら一人、蜘蛛の糸に絡め取られたようだな」
「あららぁ。ほんま恐ろしい子やなあ、ネルちゃんは。おお、怖い怖い」
「完全に堕すにはもう暫く時間がかかりそうだが…何にせよ、これで一人減ったと言う事だ。これから報告に行くが、君も来るか?」
「いや、それは東仙サンに任せますわ。僕はもうちょっとあのお二人さんの愛しあう姿を堪能させてもらいます」
「ふ……君こそ、よっぽど趣味が悪いよ、市丸」


一護×ネル投下します。
途中からネルに萌えすぎて一護じゃなくオレになってると思うので気になる人はヌルー推奨。

エロまで行きたかったけどとりあえずここまでっス。
あーネル苛めてえ

[mente]

作品の感想を投稿、閲覧する -> [reply]