みなさん、こんにちは
日中は暑くとも、日が陰ると過ごしやすい気候になってきました。先月末には当地の花輪ばやしも2日目興行を中止に追い込まれるような土砂崩れも危惧される程の豪雨もありましたが、これからが本格的な台風シーズンになります。今月からは日中に30℃を越えても、TVでは暖房器具やスタッドレス・タイヤのCMも始まってしまいます。まぁ毎年の事なんですけど、「これから寒くなる一方・・・」って考えると、まだ半袖の気候であるにもかかわらず、やるせない心持になってしまいます。
さて外来中心の産婦人科診療所には今までの本稿でも幾度となくお話ししてきましたように、「生理痛がきつい」「生理の量が多い」「生理以外の出血がある」「生理前の体調がすぐれない」など、生命危機には及びませんが生活の質を落とす症状で来院される方が多くいらっしゃいます。それらの症状に対して、最初は自費診療の避妊薬として1999年に、そして約10年後の2008年に月経困難症に対する保険診療のお薬として低用量ピルが発売されました。致し方ないところもあるのですが「ピル=避妊薬」ということで、服用される方はセクシャル=アクティビティーが高いと邪推されたこともあり、発売当初は日本という土壌ではなかなかすんなりとは受け入れられませんでした。しかし避妊ということよりも「保険が使える生理を軽くする薬」ということで徐々に受け入れられ、さらにコロナ禍におけるオンライン診療の浸透により発売四半世紀で市民権を得たのではないかと感じています。でも万人に100%効く薬はないように、低用量ピルの効果は期待できるのですが、一部の方には処方できない・薬が合わないという事例もないわけではありません。そのような方に光明になりうる薬剤が最近発売されましたので、簡単に紹介させていただきます。
① アリッサ配合錠Ⓡ:低用量ピル
本来「ピル」という単語は辞書を引くと「錠剤」という意味ですが、本邦では「避妊薬」とか「女性ホルモン剤」として認識されています。実際のピルは卵巣から分泌される卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)が1錠に配合されている薬です。昨年末まで本邦で販売されている低用量ピルはエストロゲンとしてすべてエチニルエストラジオールという合成卵胞ホルモンが使用されており、その合成卵胞ホルモンの量と併用される黄体ホルモンによって、それぞれの製剤の特徴を出しています。しかし昨年末発売されたアリッサⓇという低用量ピルは、卵胞ホルモンとしてエチニルエストラジオールではない卵胞ホルモンを含有した初めての低用量ピルになります。生体内に存在する卵胞ホルモンには構造の違いからE1~E4までの4種類があり、従来使用されていたエチニルエストラジオールは合成されたE2(エストラジオール)です。一方今回発売されたアリッサⓇには卵胞ホルモンとして、天然型のE4(エステトロール)が含有されています。エステトロールは本来胎児の肝臓で生成され妊娠中の母体にも認められるホルモンであり、合成されたE2と異なり血管への影響が少なく、子宮・卵巣に選択的に作用することから、ピルの重要な副作用である静脈血栓症の発症リスクを軽減することが期待されています。
② スリンダ錠Ⓡ
先述しましたように低用量ピルの重要な副作用として血栓症があります。合成エストロゲンが血管に及ぼす影響のため、血栓症を発症するリスクが高いと考えられる方~~①40歳以上で初めてピルを始める方・②喫煙者・③片頭痛がある、また④母乳移行の恐れのある授乳婦さん~~などにはピルの処方は概ね禁忌となっており、一部のピルが必要な患者さんに届けることができないという忸怩ある思いがありました。最近発売されたスリンダⓇは「ミニピル」とか「POP(Progestin
Only Pill)」と言われているもので、ピルを構成する2種類の女性ホルモンのうち黄体ホルモン単剤からなる製剤です。黄体ホルモン製剤のもつ子宮頚管粘液の粘りの増加・排卵の抑制・着床先の子宮内膜を薄くする作用に加え、自身の卵巣から分泌される卵胞ホルモンと強調して、避妊効果を発揮します。黄体ホルモン単剤ということもあり、上記①~④の従来のピルが禁忌となる方にも服薬できることは光明になります。ただスリンダⓇはあくまでも避妊にのみ適応があり保険診療扱いにはならないこと、一般の低用量ピルに比べ不正出血の頻度が高いことに留意する必要があります。
以上最近発売された2製剤についてお話ししました。わずか2製剤だけと思われるかもしれませんが、私たちの日常診療にとっては、より裾野が広がった感があります。自身の症状とライフスタイルにフィットした薬剤をかかりつけ医と相談しながら選択していただきたいものです(2025.9.1)。