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院長のカプリチョーザ

早いもので今年も半分まで来ました。

 2年ぶりに縛りのないゴールデンウィークの後は、どのような感染状況になるだろうと戦々恐々でしたが、どこも蔓延防止重点地域になることはなく、かといって劇的に改善するわけでもなく、COVID-19の感染が続いています。マスク着用の取り扱いが幾分緩くなりましたが、これから本格的な夏を迎え、どのような感染状況になるか引き続き注視していくことになりそうです。

 日常生活が少しずつ正常化していくにつれて、リモートワークから対面に戻っている職場も多数あることでしょう。リモートワークのシステムが一気に広まったのは、COVID-19の「副効用」かもしれません。先日女性医学関係の論文で就労に関連するものがあり、興味がありましたので今回はそれを紹介したいと思います。

 論文はカナダの研究者が発表したもので、「シフト勤務を経験したことのある女性は、閉経が遅れる可能性がある」というものです。研究は3,688人の未閉経の女性について3年間の追跡調査を行っています。ここでの「シフト勤務」とは、「夕方あるいは夜間の勤務、ローテーション制の勤務、不定期またはオンコールによる勤務」を指しています。シフト勤務に従事していたのは対象の約20%であり、シフト勤務がある女性では、日中に仕事をしている女性に比べて閉経が遅れており、特にローテーション制のシフト勤務が長い女性では閉経の遅れとの強い関連を認めたとのことです。私は論文の結果から読み始めたので、「定時の勤務より勤務時間に波があった方が、日々の生活への刺激になって更年期の始まりが遅れるのかなぁ」・・・なんて、のんきなとらえ方をしていたのですが、どうもそうではなさそうです。

 「シフト勤務が閉経の遅延をもたらす」背景には、どうやら「体内時計」が関与しているようです。ヒトの身体にはおよそ25時間で1日となる「体内時計」が備わっており、意識しなくても日中は心身が活動状態になり、夜間は休息状態に切り替わります。この体内時計は朝の光刺激でリセットされ一定のリズムを刻みます。体内時計の中心は、脳の底の方にある「視交叉(さ)上核」という部位にありますが、その近くに松果体(しょうかたい)と呼ばれる部位があり、そこからメラトニンというホルモンが分泌されます。メラトニンは別名「睡眠ホルモン」とも呼ばれており、朝が来て光刺激が強まると体内時計がリセットされ、そこからの信号でメラトニンの分泌が低下し、目覚めてから14~16時間くらい経過すると再度体内時計からの指示でメラトニンの分泌が増え、休息に適した状態に導かれ眠気を感じるようになります。しかしシフト勤務に従事していると、夜間でも強い光刺激を受けるようになるため、体内時計が乱れてメラトニンの分泌が低下することになります。メラトニンの分泌が低下すると、排卵や生殖機能に影響する可能性が複数の研究で示唆されていることから、閉経の遅れに関与していると推察しています。

 それでは閉経が遅れるとどのようなメリット・デメリットがあるのでしょう?本稿でもたびたびお話してきましたが、閉経が遅れるということは卵巣からエストロゲンがしっかり分泌されていると解釈できますので、メリットとしては脂質異常症(←肝臓での脂質代謝の補助)や骨粗鬆症(骨吸収の抑制に働きます)といった生活習慣病の発症を抑制します。一方で子宮体がんや乳がん、甲状腺がん(エストロゲン依存性に進行)、卵巣がん(排卵回数が多いとリスク)といった悪性腫瘍発症のリスクを高めるのがデメリットといえます。

 今回の論文では「シフト勤務」をいう大きな枠での検討だったため、シフト勤務別の検討やその回数、またその女性について体型や喫煙などの嗜好品、また母乳育児の有無などの因子との関わりについては検討をしていません。これらを検討することにより、より詳細な「シフト勤務」による閉経への影響がわかってくるでしょう。著者は言っています「シフト勤務がなければ社会が成り立たない。しかし、シフト勤務が女性労働者の健康に与える影響を看過すべきではなく、女性自身が、この勤務形態が自分の健康に及ぼす影響を認識するべきだ」と。勤務形態も多様性のある現代、その形態が自身の健康に及ぼしうることを踏まえて、定期的な健康診断などでリスクを未然に摘むよう努めないといけませんね(興味のある方は原著論文です:Durdana Khan, et al. Menopause. 2022 Mar 25.)(2022.6.1)。


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