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院長のカプリチョーザ

みなさん、こんにちは     GW中のカプリチョーザです

 「GW中」と書きましたが、当院はカレンダー通りの診療ですので、「GWの狭間」といったほうがふさわしいかもしれません。新年度に入り肌寒い日が続きましたので、今年の桜の開花は少し遅れたようです。でもそのおかげで昨年はすでにGWは葉桜だった名所・弘前公園の桜も、今年は観桜に耐えているような感じです。GWも折り返しになり本格的な連休を迎えることになります。皆様くれぐれも事故などにお気をつけて連休を楽しんでください。

 さて昨今の経済状況に加え、先月から始まった大阪万博もあり、外国人観光客の増加が続いています。円安基調で国外旅行は厳しいこともあり、国内旅行がインバウンドの増加と邦人観光客で盛況みたいです。京都等の定番観光地から今まで脚光が浴びることがなかった「ニッチ」な名所も知られるようになり、観光立国としてさらに進めるには福音かもしれません。

 以前・・・といっても、もう15年以上になりますが、本稿で「妊娠中と旅行」について記載したことがあります(2009.10.1付)。その稿では「旅行」というよりむしろ「里帰り移動中のご注意」という内容が強く、移動に際しての具体的に気を付けることなどが主だった気がします。いま改めて読み返してみましても、現在の医療状況からもあまり大きな相違はないと思われますので、これからの連休中にご旅行を予定される妊婦さんはご参考にしていただきたいと思います。

 近頃「マタ旅」という言葉を耳にしておりました。皆様のご推察の通り「妊婦さんの旅行」という意味です。その「マタ旅」について、某非産婦人科医師が「「妊婦の旅行はダメ」という医者は大問題!」と発言したことが、少々賑わい?を持たせています。その先生がおっしゃるには「健康や生命は貴重な価値だが、価値の全てではない。お金も、友情も、快楽も、そして旅行もいずれも大事な属性である。なにがなにより大事かは、個々人によって異なるだろう。医者が一方的に自分の価値観を押し付ける、「健康中心主義」あるいは「医療中心主義」は、一見、正しそうに見えるだけに問題が多い。」「例えば、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)の渡航・妊婦の項を見ると、「妊婦は特別な配慮が必要だが、ちゃんと準備すればほとんどの妊婦は安全に旅行できる」とある」「われわれ臨床医は、重症患者という「分子」を見てしまうがゆえに、その患者の行動を危険視し、ときに全否定してしまうが、大多数は重症に至っていない。問題がある妊婦だけではなく妊婦全体という「分母」の考え方が大事、そして「比較」が大事。」とありました(一部改変)。

 以前の本稿でも私自身「妊娠経過が順調で余病もなければ、特に旅行に出かけることにドクターストップをかけることはありません。それでもなお旅行中には予期せぬ事態も起こりうるので、できるだけ安全に旅行するためには事前の周到な準備と評価が大切です」とお話ししました。某先生のおっしゃるように価値観は人それぞれですので、妊婦さんの旅行は一切ダメとは言いません。ただ米国の文献を引用した「ほとんどの妊婦は安全に旅行できる」の「ほとんど」に引っ掛かってしましました。

 通常一人で入院すると一人もしくは0人で退院されますが、2人以上で退院するのが産科です。だからこそ院内で一番「おめでとうございます」という言葉が多い診療科でもあります、しかしこの医療技術が進んだ現代でも年間10万出生に対し4人の「母体死亡」が起こっています。ちなみに米国では10万出生に対し22.3人と日本の約5倍です。私たち医療関係者はもちろん大変な経験をした妊婦さんは、「経過順調だったのが急にハイリスクになった」「迅速に対応しないと母児に命の危険がある」というのは理解していただいていますが、ほとんど世間の風潮が今もなお「お産は病気でない」「病気でないのに母体死亡が起きた」「医療ミスだ! 裁判だ!」となり、わが国では旅行に限らず妊婦さんに関わることは「ほとんど安全」ではなく「すべてが安全」ということを暗に要求されているのです。

 ハードの面でも分娩数の減少から妊婦が入院できる施設(=分娩施設)は年々減少しており、働き方改革のため医師の労働荷重も設定されている状況です。旅先の妊婦さんが何かトラブルが生じても、それまでかかりつけの施設で受けていた同等の医療を速やかに受けることができる保証はありません。某医師は日本での「渡航医学の周知及び理解の低さ」を訴え(嘆いて?)いましたが、医学medicineが周知・理解されたからと言って、満足な医療medical careが提供されるわけではありません。「理論と実践」が往々にして必ずしも一致しないことは、皆さますでにご理解されていることですよね(2025.5.1)。


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