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院長のカプリチョーザ

みなさん、こんにちは

 先月は梅雨の最中、まだ記憶に新しい熊本地震から1年余しか経っていないところに、マグニチュード6.1の大阪北部地震が発生しました。都市部を襲った直下型地震は、種々の都市機能を麻痺させ、幼い人命までも奪い去りました。今さらながら、災害はいつ襲ってくるかわかりません。一人一人の心掛けが大切であることを、あらためて思い知らされました。

 さて先月はお隣の青森県で産婦人科の東北地方連合部会が催されました。会場は弘前市で当地からは高速でも30分程ですので、参加してきました。学会の特別公演は弘前大学産婦人科 前教授の水沼英樹先生が登壇されました。従来の本稿でもお話してきましたように、産婦人科学は婦人科腫瘍学・生殖医学・周産期医学の3本柱として発展してきましたが、水沼先生は第4の柱である女性医学を展開する日本女性医学学会の初代理事長として女性医学の発展にご尽力されてきました。今回の本稿は特別講演から興味深かったことを皆さんにご紹介したいと思います。

 その前に「女性医学」とはどういう医学分野なのでしょう?定義では「女性の一生を通じて主として予防医学の観点から女性に特有な疾患を取り扱う診療分野」とされ、月経にまつわる疾患から、骨粗鬆症や脂質異常症といった生活習慣病の予防や治療も含む広範囲な医療分野です。しかしその女性も20年後のわが国では約10%も減少し、さらにその内訳をみますと50歳までの女性が約25%減少するのに対し、50歳以上の女性は5%以上も増加となることが予測されています。このような急速に進む女性の人口減・高齢化に対し、私たち産婦人科医は単に疾患を治療するだけでなく、疾患のリスクを予測し予防することが重要になります。言い換えると、患者さんを待っているのではなく、患者になるリスクを把握し先手を打つこということです。

 女性は男性ができない「妊娠」をすることができます。赤ちゃんを身ごもることにより、妊娠前には考えられないくらい母体には数えきれないほどのダイナミックな変化が生じます。しかしその変化が度を超すと、妊娠中の病気として現れます。例えば高血圧などは妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群)、血糖の異常は妊娠糖尿病といった具合です。これら妊娠中毒症や妊娠糖尿病は原則として妊娠が終了すると、病状も改善するものです。しかし長期的に観察していきますと別なものが見えてきます。例えば妊娠中に拡張期血圧(下の血圧)が10mmHgずつ上昇するごとに、将来の高血圧のリスクが1.70倍、また脂質異常症のリスクが1.55倍に上昇しています。また妊娠糖尿病であった女性は2型糖尿病になるリスクが7.3倍に増加し、妊娠糖尿病であった女性の約10人に1人が5年以内に糖尿病になっているという報告もあります。糖尿病に関連して、出生時体重が2,500g未満と小さいのに、大人になってBMI(body mass index:25以上で肥満)が25を超える肥満になったものは、糖尿病になるリスクが40倍に跳ね上がっているのです。これらを踏まえると、適切に妊娠を管理することにより、将来のその女性の、更には生まれてくる子の生活習慣病のリスクを低下させることができるのです。

 以上妊娠とのかかわりについて述べてきましたが、婦人科とのかかわりもあります。例えば45歳未満で両方の卵巣を摘出すると短命になるという報告があります。卵巣から出る女性ホルモンは肝臓でのコレステロール代謝を助けるため、卵巣摘出により女性ホルモンの分泌が低下すると脂質代謝異常を招き、そこから心筋梗塞等の血栓症のリスクが高まることが考えられます。また女性ホルモンは骨代謝にも良く働いていますので、早期の卵巣摘出は骨粗鬆症のリスクを増し、寝たきりのリスクを上げることも考えられます。従って早期卵巣摘出者はもちろん、高齢女性の健康維持には女性ホルモン補充療法が有用であると考えられますが、以前「女性ホルモン補充療法は乳がんのリスクを増す」という報告が流れ、その治療を躊躇する方も少なくない状態でした。一般に「ホルモン補充療法による乳がんの相対リスクは1.26」といわれています。これを絶対リスクで見るとホルモン補充療法を受けるとリスクが1万人で8人に上昇するということですし、相対リスクで見ると飛行機のキャビンアテンダントの乳がんリスクは1.50とホルモン補充療法例より高いデータが出ています(詳しい理由はわかりません)。このデータを見ても「ホルモン補充療法で乳がんになるのが怖い」といえるでしょうか?・・・という疑問を皆様方に投げかけて今月の稿を閉じます(2018.7.1)。




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